レビュー

ずっと真夜中でいいのに。 | 2019.11.11

 ずっと真夜中でいいのに。(以下、“ずとまよ”)が、決定打となる1stフルアルバム『潜潜話』を10月30日にリリースした。読み慣れないタイトルは“ヒソヒソバナシ”と読む。他でもないリスナー自身=あなたに向けて歌われるヒソヒソ話だ。本作は、“ずとまよ”がシーンで知られるきっかけとなった動画総再生回数3,000万回突破した「秒針を噛む」を含む、第1章を網羅する全13曲を収録している。もし「今年って良い曲なかったよね?」、そんなことを言う人がいたらプレゼントしてあげたい、一切捨て曲無しの大名盤だ。2019年を代表するアルバム作品だと断言しよう。

 そもそも動画をきっかけに人気と認知を獲得した“ずとまよ”は登場からして刺激的だった。メンバー編成は未だ明かされておらず、中心メンバーとしてACAねが存在するのだが、(絶妙に)顔出しはせず、実はユニットなのかバンドなのかソロプロジェクトなのかも不明だ。しかし、同時にSNSやライブ活動を通じて一気にファンダムを獲得する様も見事だった。今年「FUJI ROCK FESTIVAL ’19」RED MARQUEEステージへの出演も記憶に新しいが、圧巻のライブパフォーマンスや世界観の構築の凄さは、先日YouTube Space Tokyoで実施され、現在期間限定でアーカイブ映像が公開中の『“Midnight Forever Live” from YouTube Space Tokyo』で“現在”なら追体験が可能だ。

 時代の空気感を、独特の言葉遣いやハイトーンを駆使した揺れる気持ちに突き刺す歌声によって暴く作品性の凄み。あらゆるジャンルを飲み込みながらもたった1年で“ずとまよ”らしさを完璧に構築してきたのだから恐れ入る。

 アルバム『潜潜話』は、ジャジーかつロックなセンスを解き放つ既発曲「脳裏上のクラッカー」からスタート。続けて、ライブで盛り上がるエモーショナルなナンバー「勘冴えて悔しいわ」にて、切れ味の鋭いアッパーチューンが繰り出される。注目は3曲目「居眠り遠征隊」だ。グルーヴィーなディスコファンクなビートにキャッチーなメロディーが香るポップチューンながら、歌詞世界は学生生活における人間関係の悩みを彷彿とするリリックで距離感を近くする。そして、人気チューン「ハゼ馳せる果てるまで」ではめくるめくビート展開に心を鷲掴みされる。「蹴っ飛ばした毛布」や「Dear Mr「F」」ではジャジーかつメロウなポップセンスをアイディアに富んだアレンジで楽しませてくれる。続くは「こんなこと衝動」における不可思議ポップ、さらにドープかつ刹那ポップな「眩しいDNAだけ」、情報量の濃い濃密ポップな「ヒューマノイド」では弾けまくり、春野がアレンジで参加した大人モードな「グラスとラムレーズン」では一変してジャジーソウルな豊かなグルーヴを披露。ラストへ向けてオリエンタルかつメロディックでミディアムなメロディーに魅了される「正義」の美しさもヤバい。そして、映像の浮かぶショートフィルムのワンシーンのような儚くも切ない「優しくLAST SMILE」を経て、すべての物語のスタートをきった「秒針を噛む」へとたどり着く。

 誰もが経験する学生時代の様々なワンシーンが妄想ワールドとミックスする映像の浮かぶ音像快楽。痛い感覚と晴れやかな感覚=アンビバレンツな感情が過去の情景をタイムマシンに乗ってトリップするかのように行き交うイメージ。“ずとまよ”1stフルアルバム『潜潜話』は、誰しもの感情を刺激する鮮烈な1枚となるだろう。

【文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】

リリース情報

潜潜話

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潜潜話

発売日: 2019年10月30日

価格: ¥ 3,000(本体)+税

レーベル: ユニバーサル ミュージック

収録曲

01. 脳裏上のクラッカー
02. 勘冴えて悔しいわ
03. 居眠り遠征隊
04. ハゼ馳せる果てるまで
05. 蹴っ飛ばした毛布
06. Dear. Mr「F」
07. こんなこと騒動
08. 眩しいDNAだけ
09. ヒューマノイド
10. グラスとラムレーズン
11. 正義
12. 優しくLAST SMILE
13. 秒針を噛む

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