レビュー

奥華子 | 2019.11.13

 奥華子がデビュー15周年を記念して、ベストアルバム『奥華子 ALL TIME BEST』をリリースした。既に170曲に及ぶオリジナルの中から自身がセレクトした全44曲を、3枚のディスクに分けて届ける、まさに「これぞ奥華子」といえる集大成的な作品だ。
「花-HANA」と名付けられた1枚目のディスクには“儚いからこそ愛おしいもの”をテーマに、代表曲「初恋」や「プロポーズ」といった珠玉の恋愛ソングたちを収録。11月15日公開、映画『殺さない彼と死なない彼女』の主題歌として書き下ろされた新曲「はなびら」も聴きどころ。儚いからこそ美しい花に、恋や人生を重ねながら歌われたこの曲が生まれたことで、今回の「花-HANA」「空-SORA」「月-TSUKI」と分けて収録するベストのコンセプトを思いついたという。ちなみに「はなびら」は〈あなたが名前を 呼んでくれた時/はじめて自分を好きになれたの〉という歌詞を、伸びやかな声でひたむきに歌うバラード。恋をしたことで初めて、自分の人生が輝き出すような感覚を今も奥華子はみずみずしい感性で描ききる。このシンガーソングライターとしての一貫した世界観と手腕には唸らずにはいられない。
 そして「空-SORA」は“いつでもそこにあるもの”をテーマに、劇場版アニメ『時をかける少女』の主題歌として彼女の名を一気に広めた「ガーネット」や「笑って笑って」などを収録。誰もが感じたことのある青春のきらめきを歌に封じ込めながら、その裏側にある孤独さえ丁寧に描くこともまた、奥華子のポップ・ソングに欠かせない要素。そんなこのディスクにはインディーズ時代から弾き語りライブなどで大事に歌い続けてきた「自由のカメ」をバンドで新録。〈一人で部屋にいる時なんかより 都会の街中が何より寂しいね〉と綴った20歳の頃の想いが華やかで熱気溢れるサウンドで放たれる、感動のテイクだ。
 何よりも攻撃力の高い1枚として、新たなリスナーもぜひ聴いてもらいたいのが「月-TSUKI」。このディスクのテーマは“闇があるからこそ見えるもの”で、「Rainyday」や「ピリオド」「トランプ」など恋愛のキラキラした部分だけじゃない、別れや苦しみを切々と歌った曲がズラリと並んだ。赤いメガネがトレードマークで、愛らしい声でCMソングを歌っていたりと、キャッチーで親しみやすいイメージがある彼女だけれど、闇サイドの恋愛を美しいメロディで描く、その攻撃力もハンパじゃない。こうしてテーマごとに分けたベストであらためて見えた、奥華子の15年の軌跡を、心揺さぶる楽曲の数々と共にたっぷり感じて欲しい。

【文:上野三樹】


リリース情報

奥華子 ALL TIME BEST

奥華子 ALL TIME BEST

発売日: 2019年11月13日

価格: ¥ 3,500(本体)+税

レーベル: ポニーキャニオン

収録曲

『花-HANA』
01.はなびら(新曲)
02.プロポーズ
03.初恋
04.365日の花束
05.年上の彼
06.冬花火
07.桜並木
08.スターチス
09.恋つぼみ
10.二人記念日
11.ガラスの花
12.恋
13.ロスタイム
14.やさしい花
『空-SORA』
01.シンデレラ
02.ガーネット
03.愛という宝物
04.笑って笑って
05.10年
06.道
07.魔法の人
08.一番星
09.逢いたいときに逢えない
10.灯
11.帰っておいで
12.Happydays
13.遥か遠くに
14.足跡
15.自由のカメ
『月-TSUKI』
01.あなたに好きと言われたい
02.透明傘
03.泡沫
04.Rainyday
05.変わらないもの
06.窓辺
07.ピリオド
08.愛してた
09.楔
10.青い部屋
11.トランプ
12.白い足跡
13.曖昧な唇
14.恋の果て
15.迷路

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