苦悩の末につかんだ次なる一手。新作ミニアルバムが照らしたバンドの未来とは?

おいしくるメロンパン | 2019.09.25

 前作『hameln』でバンドとしてのスタイルと進むべき道を確立させて、からの次回作――ということで、より確信に満ちた作品になるかと思いきや、4枚目となるミニアルバム『flask』を生み出す過程は「どこに進むべきか」という迷いとともにあったという。そこから得た答えは「前ではなく横」。あえて別の道に足を踏み入れることで、おいしくるメロンパンは突破口を得ようとしたのだ。その結果生まれた『flask』は、しかし、やはり彼らの進むべき道をちゃんと照らし出していると思う。彼らにしかやれないやり方で進化を続けるメンバー3人へのインタビューをお届けする。

おいしくるメロンパン 4th mini album『flask』トレーラー
EMTG:前作からここまでの活動はどんな感じでしたか?
峯岸翔雪(Ba):ずっと曲作ってましたね。なかなかできない曲作りだったんですけど、ずっと曲のことを考えながらライブとかも並行してやっていくのが結構難しかったというか、どうやって動けばいいのか――っていう感じじゃなかったですか?
ナカシマ(Vo/Gt):そうですね。ちょっとなんかパッとしない感じの1年になったと思います(笑)。ずっとむず痒い感じが続いてて。曲ができないなーっていう悩みと、それでもちゃんと活動しなきゃいけないっていう。てんやわんやでしたね。
EMTG:原くんは?
原(Dr):パッとしないことはないかなと思うんですけど(笑)、ライブはライブで頑張って「どうやったらかっこよくできるか」って考えたりしてたので。1歩ずつ、ゆっくりだけど前には進んでたと思います。
EMTG:なんで難しくなっちゃったんですか?
峯岸:『hameln』が僕らが描いた僕ら像を確立した盤になったので、ある種ひとつの到達地点まで来れたって感じがしたんですよね。それで、その先に行くにはって考えて、悩んで悩んで曲ができなくて。『hameln』がいい作品だったからこそ、次にどこに行けばいいかっていうのを模索してる期間が長かったっていう感じでしたね。
ナカシマ:『hameln』でやりたかったことができてしまったというか。そこで満足したわけじゃないんですけど、「これがやりたかったんだよな」っていうのはできてしまって。その先に何も考えてなかったんで、どんな曲作ったらいいんだろうって結構悩んでしまったんですよね。
おいしくるメロンパン「憧景」MV(『タナバタノオト』第3話)

EMTG:前ではなく横に行けばいいんだっていうのはどういうイメージだったんですか?
ナカシマ:超えようって意識で最初はいて。「『hameln』よりもいいもの作んなきゃ」みたいな。でもそれよりも、今自分たちができることでもっと幅を持たせて表現しようという感じですね。たぶんあがいてるうちに結果的にそういうふうな曲作りになっていって、『flask』が完成したっていう感じだと思ってます。
EMTG:たしかに『hameln』はそれまで培ってきたものを全方位で提示できた作品だったと思います。でもこの『flask』も、結果的には前に進んでる作品になったと感じますけどね。
ナカシマ:あんまりそういう感じは、僕はしてないですね。
峯岸:僕もですね。やっぱり前より横っていうか、『hameln』の周りみたいなイメージです。
ナカシマ:楽曲のクオリティとかも、『hameln』の時より成長してるって感じはしなくて。それよりは同じ場所で違うタイプの曲ができたっていう感じが強くて。だからちょっと……「これはウケるのかな」っていう心配があって(笑)。『hameln』の時も、いい曲が作れたっていう自信があったので、「これでいいや」って納得してたんですけど、今回はちょっと不安だなっていうのが正直な印象です。
峯岸:そうですね。かなりのセンスがないとこの盤を好きになってはくれない。逆にこれを好きになってくれた人はかなりセンスがおありですねって感じです、僕は。
原:僕は……レコーディングするまではその気はあったんですけど、実際に作品として5曲並べて聴いた時にちゃんといいものに仕上がったなって思ったので、今は不安はないですけどね。
EMTG:僕も原くんと同意見ですね。なぜかというと、ひとつには今回初めて配信シングルで「憧景」という曲が出ているんですが、それがあるだけでミニアルバムのパワーが格段に上がっていると思うんです。あとは、やりたいこととしては違うところに目が向いてるのかもしれないけど、でも変えちゃいけない部分っていうのはあるじゃないですか。
ナカシマ:はい。
EMTG:それをバンドとして自覚して、ちゃんと守っているような気がする。だから横に行っていてもブレてはいないというか。
峯岸:ちゃんと持ってますね、その気持ちは。「憧景」ができた時に、ナカシマは「今の俺らにしてはポップなのを作りすぎた」って言っていたんですよ。『thirsty』の時だったら普通に出てたかもしれないけど、今の俺らにしては、って。でも僕としては、やっぱり「今の僕らがそういう曲を作ったら」っていうものにちゃんとなってるなって思ったんで。だから「憧景」は今の地点からちょっと後ろを眺めてみたみたいなイメージなんです、僕の中では。
EMTG:今回の5曲の中でも「憧景」が最初にできた感じですか?
ナカシマ:いや、「epilogue」ですね。去年のワンマンでも演奏したので。
おいしくるメロンパン「epilogue」MV

EMTG:その「epilogue」を作った時はもう今の「前よりも横だ」モードだった?
ナカシマ:いや、その時は何も考えてなかったですね。『hameln』出す前?
峯岸:レコーディングは終わったあとだったね。
ナカシマ:「epilogue」のあとに「candle tower」ができて。あれは結構『hameln』を意識した曲になりましたね。もっと「先に進もう」という意識があって、こねくり回しすぎてわけわかんないとこ行っちゃったりとか。それから迷走が始まって――なんとか落ち着いたんですけど、そのあとなかなか曲ができないっていう感じが続いて。
EMTG:なるほど。要するに『hameln』の先に行こうとして「candle tower」みたいな方向を突き詰めていくと、どんどんこじらせていくっていう。「それはやばいな」っていうことですよね。
峯岸:マジでやばかったですよ(笑)。「月の光」(ドビュッシーのピアノ曲)入れようぜって言った時は大丈夫かと思ったもん。
ナカシマ:「月の光」? ああ、「ボレロ」(ラヴェルのバレエ音楽)じゃない?それは僕、結構いい案だと思ってたよ。今でもやりたいと思ってる。
原:こねくり回してたよね、ひたすら。
峯岸:だから『hameln』の先が見えてないのに、無理くそ行こうとしてたぶん違うところ、なんでもないところに行きそうになってた――やっぱりなんでもないとこだから、行けないんで行かないんですよね。
EMTG:前作の「nazca」とか「candle tower」を突き詰めていって、複雑なマスロックとかポストロックになるっていうこともありうるじゃないですか。ほっとくとそうなる可能性もあったってこと?
峯岸:あったんですよね(笑)。でも自分らの中で「これは違うんじゃないの」っていうギリギリのストップがあるから行かなくて済んだんだと思いますけど。
EMTG:その「違うんじゃないの」の基準ってなんなんですか?
ナカシマ:自分たちがやっててかっこいいと思えるかとか、気持ちいいかみたいなことですね、結局。いろいろやってみたものの、なんか「あれ、これ別にかっこよくなくね?」みたいな感じになってやめましたね。1回冷静になってみたらっていう感じでした。
EMTG:つまり、おいしくるメロンパンにとっての「かっこいい」の定義がそこにはないってことですよね。
峯岸:「かっこいい」って、自分らの肌に合ってるっていうか。なんか「これかっこいい」と思おうとして思うものはかっこいいと思えなくて。元々ある自分らの感性にはまらないと――無理しちゃうとかっこいいと思えないんだろうなって。
ナカシマ:心地よさみたいな。
峯岸:気持ちよさとかね。
EMTG:たとえば変拍子とかも、それをやるのが目的ではなくて、気持ちいいリズムを探していった結果がそれだったっていう。
ナカシマ:そうですね。
EMTG:それでいうと、今作の最後に「走馬灯」って曲があるじゃないですか。これのアウトロがすごくいいですよね。最後に余計なのが付いてるじゃないですか(笑)。
ナカシマ:そうですね(笑)。
EMTG:たぶんあれがなくても曲として成立するんだけど、でもあれも含めて歌として聞かせることができていて。おいしくるメロンパンなりのバランス感覚をちゃんと取り戻せたんだなっていう。
ナカシマ:これがこの盤でいちばん最後にできた曲で。この曲に結構救われた感じはあって。やっとできたなっていう感じがしました。
峯岸:「走馬灯」は俺がフランスに旅行行ってる時に送られてきて。曲があんまりできてなかったなかで、タネもまったく聴いてなかった段階でフルコーラス送られてきて「はっは~ん」みたいな。なんか痺れるなと思って。今までこういうふうにリフで攻めてきてなかったので、新境地じゃないですかって。これが指標になるんじゃないかなって感じた曲でしたね。
ナカシマ:これは徹夜でフルコーラスできましたね。一気に作りました。
EMTG:リフとかは新鮮だけど、メロディとかはちょっと懐かしい感じもしますし。ちゃんと今までのおいしくるメロンパンの物語につながりながら未来も見せてくれている曲だなと思います。それからもう1曲、「水仙」もいい。
ナカシマ:「水仙」は2年ぐらい前に1コーラスだけできてて。ずっと触らずにいたんですけど、曲できないからこれやってみようかって感じで。
原:そうだね、種を触ってみようって。これ、歌詞が難しかったって言ってなかった?
ナカシマ:歌詞は難しかったですね。1コーラスぶん、昔に書いた歌詞だったんで。今は全然共感できないなと思って、いろいろと変えてみたりとかして。曲の雰囲気も今じゃ作らないような感じの曲だなって思いながら、でもアレンジはふたりに結構任せました。ベースを翔雪が入れてきたのを聴いて、今のおいしくるメロンパンっぽくもなったかなって。
EMTG:昔書いていた歌詞のどこがしっくりこなかったんですか?
ナカシマ:どこがかな……元々どんな歌詞だったか忘れちゃったんですけど、なんか変な感じがして。今ではこの歌は歌えないみたいな気持ちがありました。
EMTG:いずれにしてもナカシマくんの書く歌詞が変わってきたってことですよね。自分ではどう変わったと思いますか?
ナカシマ:なんか、潔癖になってきた感じはします。できるだけ無駄を省きたいとか。それがいちばん強いと思います。
EMTG:「水仙」なんかまさにそうなんですけど、映像を観ているみたいというか、視点がちょっと離れている感じですよね。前だったらちょっと主人公に重なっていたものが「観察者」みたいな視点になってきているなって。
ナカシマ:それはありますね。なんて説明したらいいんだろう……主人公にどれだけ自分を投影するかみたいなのが、どんどん薄まってきてるっていうのはありますね。最初はわりと主人公を自分と重ねている部分が大きかったと思うんですけど、ちゃんと物語を考えて歌詞を書くようになった。
EMTG:それって大きな変化だと思うんですけど、なぜそうなったんだと思いますか?
ナカシマ:最初からそうしたかったんだと思うんですけど、どうしても難しいことだと思うんですよね。なんでそうしたかったかというと、ひとつはあんまり自分のことを赤裸々に語りたくないっていうのと、あとは聴く側が歌詞を読んだ時に、僕個人のこととして受け取るんじゃなくて――言い方間違ってると思うんですけど「普遍的」なものに近づけたくて。誰からもフラットな歌詞というか。だから、たとえば「東京」とかいう言葉は使いたくない、とか。僕の東京と東京に住んでない人の東京で全然違うじゃないですか。
EMTG:つまり、自分が消えていくことで、ほかの誰かが入る余地が生まれるっていう。
ナカシマ:そうですね、それはすごいわかりやすいと思います。
EMTG:それは音についても言えることだと思うんですよね。勢いでガーッとやっているとそこにはエモーションが生まれるんだけど、そうじゃなくて、音のフォルムとか色とか重なりとか、そういうもので作っていくことで聴き手の解釈の余地がちゃんと生まれてくる。
峯岸:はい。
EMTG:ナカシマくんも「普遍的」という言葉を使っていたけど、それって実はすごくポップなことだと思うんです。そういう意味では実は一貫しているというか、『hameln』ともちゃんと地続きの作品になったと思います。
ナカシマ:それが「ポップ」っていうのは不思議な感じがするんですけど、言われてみればたしかにそうかもしれないですね。
峯岸:僕らは「すん」ってしてたいんで、音楽やってて。だからなるほどなって思いますね。まあ、ひねくれてるポップなんだろうな。

【取材・文:小川智宏】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル おいしくるメロンパン

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リリース情報

flask

flask

2019年09月25日

RO JAPAN RECORDS

01.epilogue
02.憧景
03.水仙
04.candle tower
05.走馬灯

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

「flaskレコ発ワンマンツアー2019 ~博士!これ以上はッ…!~」
10/18(金)千葉 柏PALOOZA
10/20(日)新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE
10/22(火・祝)北海道 札幌cube garden
10/27(日)長野 松本ALECX
11/2(土)愛媛 松山SALONKITTY
11/3(日)岡山 YEBISU YA PRO
11/5(火)大阪 心斎橋BIGCAT
11/16(土)宮城 仙台CLUB JUNK BOX
11/23(土)栃木 HEAVEN’S ROCK 宇都宮 VJ-2
12/8(日)福岡 DRUM LOGOS
12/15(日)愛知 名古屋CLUB QUATTRO
12/18(水)東京 EX THEATER ROPPONGI

「おいしくるメロンパン flask リリース記念イベント」
(アコースティックミニライブ&特典会)※終了分は割愛
9/27(金)東京 タワーレコード渋谷店 5階イベントスペース
9/28(土)愛知 タワーレコード名古屋パルコ店 店内イベントスペース
9/29(日)大阪 タワーレコード難波店 イベントスペース



MINAMI WHEEL 2019
10/12(土)大阪 ミナミ周辺ライブハウス20会場

「夜の本気ダンス『AUTUMN JACK OF SEA TOUR』」
11/8(金)滋賀 U☆STONE
w/ 夜の本気ダンス

「69th 名古屋市立大学 市大祭ライブ【Necry and oisiCle for U】」
11/9(土)愛知 名古屋市立大学 滝子キャンパス
w/ ネクライトーキー

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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