レビュー

サカナクション | 2014.11.06

 今年のツアー『SAKANAQUARIUM 2014 "SAKANATRIBE"』(3月29日・仙台)のファイナルのアンコールで聴いた「グッドバイ」が、頭から離れない日々が続いた。特にサビで山口一郎が、心の底から絞り出した声のトーンが忘れられずにいた。それはCDで聴く山口の声とは異なる魅力があって、自分の記憶の中だけで“再生”できる声だった。

 その声が、最新シングル「さよならはエモーション」で聴けた。さらにはAメロの♪買った♪や♪出した♪の部分で、ため息のような歌い方をしていて、サカナクションのリアルの度合いに質的変化が起こっていると感じた。

“幻の声”との再会に感動した後、落ち着いて「さよならはエモーション」 を聴いてみると、今のチャートにあふれるJ-ROCKやJ-POPとの違いの大きさに愕然とした。ダンサブルなアッパーチューンやセンチメンタルなバラードしかない音楽シーンの表層において、ミディアム・バラードの「さよならはエモーション」は異様に響く。コンビニで缶コーヒーを買うこの歌の主人公の日常は、決してイケイケでもセンチメンタルでもない。ミディアム・バラードでしか表せないリアルがそこにある。だとすると、「さよならはエモーション」が異様なのではなく、リアルを直視しないシーンの方が異様であると言っていい。もちろん僕らには“特別な日”があってもいいが、何気ない“普通の日々”の方が圧倒的に大切だからだ。

 だから僕は「さよならはエモーション」を最初に聴いたとき、「サカナクションはシーンにまったく媚びず、それどころか鋭い問題提起をしているな」と思ったのだった。そしてこの山口一郎らしい痛快な音楽作りに、喝采を贈りたくなった。 もう一つ気付いたのは、この歌の日常描写の中には、“悲しい”とか“虚しい”とかの形容詞がまったく登場しないことだった。その代わり、冷静な事実描写で貫かれている。

 たとえばこの歌の最初のブロックに、♪レシートは捨てた♪というフレーズがある。このひと言でリスナーは何を想像するだろう。「レシートを捨てた」ではなく、「レシートは捨てた」である。レシートは捨てたが、 何を捨てなかったのだろう。おそらくプライドや夢を捨てなかったのではないかと、僕は思う。

「レシートは捨てた」とすることで、主人公が何らかの決意をしたことが伝わってくる。悲しみや虚しさを超えた主人公の心の在り方が分かるのだ。もしかすると「さよならはエモーション」というタイトルは、「感情を捨てる」ところから来ているのかもしれない。

 こうした詩の手法は、俳句に近い。たとえば「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺  正岡子規」は有名な俳句だが、感情を表わす言葉は一切入っていない。しかし、読み手が柿の色や甘さ、鐘がどこまでも響き渡る奈良の土地 柄を想像できれば、この句がのどかな秋の一日を見事に描写していることに気付くだろう。さらには、作者が大らかな気持ちでいることも伝わってくる。

 山口はこうした「相手に想像をゆだねる」俳句の手法を、意識的に使っているように思う。それは「悲しい」や「ハッピー」と安易に言い捨ててしまうより、かえって豊かな感情を伝えることができるからだ。そしてそれは、山口がリスナーの感性を信じているからこそ可能な表現なのだ。そのためには、最初に書いた“リアルな歌い方”が必要だったのだ。

 さて、リスナーは♪レシートは捨てた♪に、どんな共感を寄せるのだろう か。レシートは風に吹かれて飛んでしまうほど薄っぺらで、プリントされた数字は日常生活のほんの一部しか記録していない。

 サカナクションは、今の時代のリスナーに、信頼をもって「能動的に音楽を聴く」ことを提案している。

【文:平山雄一】

リリース情報

さよならはエモーション/蓮の花(初回限定盤)[CD+DVD]

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さよならはエモーション/蓮の花(初回限定盤)[CD+DVD]

発売日: 2014年10月29日

価格: ¥ 1,800(本体)+税

レーベル: ビクターエンタテインメント

収録曲

[CD]
1、さよならはエモーション
2、蓮の花-single version-
3、Ame(B) -SAKANATRIBE×ATM version-
4、ミュージック(Cornelius Remix)

[DVD]
1、Good-bye Session featuring 環ROY -Broadcasted on Ustream on 2013.11.28-
2、山口一郎×環ROY Talk Session
3、Sample STUDIO LIVE guest 佐々木”SUNNY”幸生 -Broadcasted on Ustream on 2014.8.5-
4、佐々木”SUNNY”幸生 Interview

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