レビュー
ゴスペラーズ | 2014.11.12
ゴスペラーズ
「クリスマス・クワイア」
ひとつの歌を5色で染め上げるボーカルグループの真髄
初のクリスマス・シングルと聞いて、少し驚いた。これまでもゴスペラーズのクリスマスソングを聴いた覚えがあったからだ。しかし、それらはアルバム曲などで、シングルとして大々的にクリスマスをプッシュするのは初めてなのだそうだ。
アカペラという特殊なハーモニー・スタイルを前面に押し出しての活動は、通常のアーティストよりもその“スタイル”について知ってもらわなければならなかった。そこで活用されたのが“グリーティング・ソング”だった。お正月やバレンタイン、夏などの“季節モノ”は、耳慣れないハーモニーを楽しんでもらうには絶好のチャンス。たとえば、みんなが知っているクリスマスソングを「アカペラでやるとこうなる」という格好のプレゼンテーションになる。オリジナルはもちろん、そうした側面からの努力をしながらゴスペラーズは現在の地位を確立してきた。
だから今回、真正面からクリスマスソングをリリースするのは、彼らの20年の歴史の成果でもあるし、自信の表われでもある。その証拠に、ゴスペラーズの得意技の“歌い継ぎ”が「クリスマス・クワイア」で絶大な威力を発揮している。リード・ボーカルを5人がバトンリレーのように交代しながら、歌を進めていくのだ。
作詞・作曲した酒井雄二はちょっとオスマシ、村上てつやは感情むき出し、北山陽一は礼儀正しく、黒沢 薫は堂々と、安岡 優は女の子に優しく歌っている。改めてメンバー5人の“歌のキャラクター”を楽しむのには、絶好のシングルなのだ。
こんなにいろんなキャラがひとつの歌を歌って大丈夫なのかと疑問を抱いたリスナーは、ぜひ聴いてみてほしい。そこにはボーカル・グループのパイオニアだからこそたどり着けた、上質のエンターテイメント=ポップの真髄がある。
【文:平山雄一】