レビュー

ササノマリイ | 2016.11.30

連載 第149週 ササノマリイ「タカラバコ」

エレクトロニカの面白さや醍醐味の本質を突く2バージョン

 初回生産限定盤、期間限定生産盤、通常盤のすべてに、タイトル曲の「タカラバコ」が1曲目と4曲目に収められ、4曲目は「タカラバコ(chill out still out)」とクレジットされている。このふたつは、おそらく同じボーカルトラックのバックを変えて、いわゆる“仕立て直し”を行なっている。

「タカラバコ」バージョンはリズムがはっきりしていて聴きやすく、オープニングにふさわしい仕上がりだ。対して「タカラバコ(chill out still out)」は、リズムを「タカラバコ」の倍でカウントしていて、ゆったり感が増している。どちらも非常に精緻なエレクトロニカを基調にしていて、めちゃくちゃ聴き心地がいいのだが、リリックはササノマリイらしく諦めと諦めない気持ちが交錯して油断ができない内容だ。

 僕は個人的には「タカラバコ(chill out still out)」のほうが好きだ。なぜかというと、細かく切り刻まれたリズムが、ゆったりとしたメロディに隠された機微を浮き彫りにしてくれるからだ。それはゆっくりしゃべる友達との会話のように、焦らずにお互いを主張し、時間をかけて理解し合うように聴こえてくる。大事なことを伝えるときは、声のニュアンスや抑揚に気を配らなければならない。大事なことを受け取るときは、相手の声に含まれる感情の揺らぎを聴き逃してはならない。そんな人間同士の会話の極意を、ササノマリイはエレクトロニカという音楽表現を通じて行なっているようだ。

同じ歌なのに、伝わるニュアンスが変わる。普通ならボーカルトラックを別のものにすればいいようなものなのだが、ササノマリイはバックを変えることで変化を付ける。しかもその両方を聴くことを、このシングルでリスナーに求めている。それは彼が“歌”と“トラック”を同等の価値があるものとして扱っている証拠だ。

「タカラバコ」のリリックには♪居ない僕が遺せたもの/居ない君が伝えたこと♪という不思議なフレーズがある。ここに居ない者の行為を、無価値とするのか、現在を捉え直す目印と捉えるのか。ササノマリイはこうしたデリケートなリリックを伝えるために、ふたつのトラックを用意したのではないかと、僕は思う。

エレクトロニカの面白さや醍醐味の本質を突く2バージョンだと思う。それはトラックメーカーならではの発想であり、非常にクリエイティブなリリックの扱い方だと思う。

【文:平山雄一】

tag一覧 J-POP アルバム 男性ボーカル ササノマリイ

リリース情報

タカラバコ

タカラバコ

発売日: 2016年11月30日

価格: ¥ 1,250(本体)+税

レーベル: SMAR

収録曲

M1 タカラバコ
M2 透明なコメット
M3 バイバイ
M4 タカラバコ (chill out still out)

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