レビュー

The Cheserasera | 2017.08.08

 全編がラブソング。と書くと、何か甘ったるいミディアムソングやバラードを想像するかもしれないが、The Cheseraseraが完成させたニューアルバム『dry blues』に収録される全11曲のラブソングは、むしろどの曲にも突き刺すような鋭利な言葉とサウンドが貫かれ、失われた愛情を狂おしいまでの筆致で描いている。そこには“愛してる”という言葉も、“会いたい”という表現もない。にもかかわらず、人がどれほど人を強くを愛するものかという情念が痛いほどに伝わってくるのだ。それは、夏目漱石がアイラブユーを“月がきれいですね”と説明したように、二葉亭四迷が“死んでもいい”と意訳したように。このアルバムで宍戸翼(Vo / Gt)が歌うアイラブユーは、“ふざけたラブソングが胸を打つこともなかった”(「I Hate Love Song」)であり、あるいは“君の頬の産毛の影を思い出す”(「Blues Driver」)だった。The Cheseraseraはこれまでも私たちが日常で抱く不確かな感情や答えのないものをなんとか歌にしようとしてきた。そんなバンドが“愛”という、この世で最も不可解でありながら、逃げることのできないものをテーマに選ぶのは必然だと思う。それを1~2曲でお茶を濁すようなやり方ではなく、アルバム1枚=全11曲を費やすのも彼ららしい。

 The Cheseraseraにとって今作『dry blues』はフルアルバムとしては前作『Time To Go』からは1年ぶり、通算3枚目の作品になる。新たに立ち上げたレーベル“dry blues label”から発売されるという意味でも、バンドにとってはターニングポイントとなる作品だ。愛憎入り混じったソリッドなロックナンバー「I Hate Love Song」をはじめ、宍戸が早口で捲し立てる皮肉たっぷりの「LOVELESS」など、重厚かつ繊細なスリーピースの演奏が歌に宿る情念をいっそう強く掻き立てる。センチメンタルなメロディにのせて、思い出にはなり切らない純情を綴った「うたかたの日々」、ダークで淡々としたメロディと歌詞が独特の世界観を持つ「フィーリングナイス」、アコースティックギターを掻き鳴らした湿っぽいバラード曲「乱れ髪を結わえて」。幸せと後悔、諦めと希望、終わりと始まりを繰り返して、アルバムはいくつもの愛の物語をゆっくりと辿っていく。2曲目の「LOVELESS」では“お前らに未来はない”と、傷ついた心のままに殴り書きした感情が、やがて9曲目の「カサブランカの花束」では“僕ら未来になっていく”という優しい矛盾へと変わり、導かれるラストソングは瑞々しいロックナンバー「good morning」。最後だけは、他の誰かではなく、“かけがえない自分も愛せる日まで”と願いを込めて締めくくるという収束は、The Cheseraseraが渾身の覚悟を込めて贈る愛のアルバムに相応しい締め括りだった。

【取材・文:秦理絵】




■宍戸 翼「dry blues」発売記念ツイキャス配信

配信日時:2017年8月9日(水)21:00~
スペシャルゲスト:鹿野淳 (MUSICA発行人/VIVA LA ROCKプロデューサー)
ツイキャスID:http://twitcasting.tv/tsubasashishido

リリース情報

dry blues

dry blues

発売日: 2017年08月02日

価格: ¥ 3,000(本体)+税

レーベル: dry blues label

収録曲

01.I Hate Love Song
02. LOVELESS
03. うたかたの日々
04. 心に抱いたまま
05. フィーリングナイス
06. You Say No
07. 春風に沿って
08. Blues Driver
09. カサブランカの花束
10. 乱れた髪を結わえて
11. good morning

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