小谷美紗子、待望のニューアルバム「us」をリリース!

小谷美紗子 | 2014.01.17

 小谷美紗子は、ずっと“本当のこと”を歌い続けてきた。だから女性シンガーソングライターには珍しく、アジカンや凛として時雨、星野源を初めとするロック・ミュージシャンの支持を受けてきた。3年ぶりとなるアルバム『us』は、東日本大震災や原発事故の影響を大きく受けている。それだけに、彼女の歌を心待ちにしていた人は多いはずだ。

 子供のような純真な眼差しの小谷には、この時代がどのように映っているのか。僕は「誰か」という歌に強く魅かれた。♪待ちくたびれた 訪れるのは 夜明けばかり♪という歌詞に「えっ?」と思った。普通、みんなが待っているのは“夜明け”のはずだ。もし“夜明け”が頑張ることの象徴なら、小谷はその逆を歌っていることになる。さらに「誰か」は、♪雨宿りは止めた 梅雨の花のように♪と歌う。こんな風に梅雨の 花を描いた詩人は、これまで誰もいない。
 今までシビアに現実を見つめてきた小谷だが、『us』で初めて彼女の優しさに触れた気がした。もちろんその優しさは、真っ直ぐに歌ってきた小谷ならではの優しさだ。

EMTG:アルバム制作は、どんな風に始まったんですか?
小谷:制作どころじゃなかったんですよ。震災と原発の両方があって、自分というものが無くなっていた。自分が役に立てることを、完全に見失ってしまっていて。
EMTG:歌が何の役に立つんだろうって?
小谷:いえ、音楽以前に、自分という人間が何ができるんだろうっていうことです。今までのスランプとはまったく違う。曲を書くとか書かない以前に、人として自分はどう生きていくのかを考えなければならなかったんです。
EMTG:小谷さんファンのロック・ミュージシャンは、小谷さんが何を歌うのか注目と 期待をしてたと思うんだけど。
小谷:他のアーティストがどう思っているかなんて、気にもならなかった。自分のことでいっぱいいっぱいで、気にする余裕なんてなかったのが正直なところです。ただ、そんな状況でも気持ちを整理するために、日記だけは書いてました。それで「3月のこと」(2011年9月 無料配信)という曲を発表して、ようやく自分にできることがまだあるのかなと思えたんです。
EMTG:今、思い出しても、あの頃は無力感にさいなまれたアーティストが多かった。お客さんにしても「こんな時にライブを楽しんでていいのかな?」と思ってる人が多かった。
小谷:多くのアーティストが「頑張れ」って歌ってた。だったら例えば「頑張らなくてもいい」っていう曲があってもいい。そういう少数の人が求めてる歌を、自分は歌えるんじゃないかな、と。私は結局、歌でしか伝えられないから、他の人が歌っていないことを歌えば、私がいる意味があるんじゃないかって。
EMTG:そう、「誰か」は、誰も歌っていないことを歌ってると感じた。
小谷:「誰か」は、歌詞とメロディが同時に出てきた曲。イントロから順番どおりに4、5分で出来た。突き詰めずに、思い浮かぶことを歌いました。自分で歌ってて「なんか涙が出るな」と思った。
EMTG:あはは、作りながら自分で泣いてたんですね。
小谷:はい。震災、原発、それに自分の家族のことも重なって、生きることって本当につらいと思った。本当の悲しみを知ると、優しくならざるを得ない。しかも自分のことじゃなくて、人がつらい思いをしているのを見守らなければならないのは、この世でいちばんの苦しみだと思う。そのときに、これ以上ないっていうくらい優しい気持ちになった。本当の悲しみの中に、優しさを見つけましたね。
EMTG:“夜明けを待たない”っていうのは、暗いままいたいってことですか?
小谷:「universe」でも歌っているように、逃げ道のない人や、弱っている人に、何が言えるんだろう。自分だったら目をつぶって、暗闇を自分の安全地帯にする。自殺を選ぶくらいなら、逃げることを選択してもいいと思うんですよ。
EMTG:そこまで行ったからこそ、見えてくるものがあったんですね。中で♪雨宿りは 止めた 梅雨の花のように♪っていうフレーズが好きだなあ。雨に濡れることを嫌がる人もいるけど、その中で咲くこともできる。これは誰も歌にしていないことだと思う。
小谷:ありがとうございます(笑)。
EMTG:ドラム玉田豊夢、ベース山口寛雄という無敵のピアノトリオでレコーディングをしたのは?
小谷:はい。ピアノのみっていう選択肢もあったんですけど、重々しくしたくないなっていうのもあって、重くガツンとやるより、音楽の優しさ、軽やかさをキープしたかったんです。
EMTG:“Odani Misako Trio”はエッジーな演奏が得意だから、今回の音が優しいのに正直、驚いた。とんがってるのはラストの「recognize」くらいで。
小谷:そうですね(笑)。最近の作品では「recognize」みたいな曲でアルバムを始めてたんですけど、今回はそれを最後に置いて、聴いた人がもう一度アルバムの頭に戻ってくれるようなイメージにしました。
EMTG:「3月のこと」以降は、順調に曲作りは進んだんですか?
小谷:いえ、全然。スタッフが毎回、3曲ずつ新曲を発表する“Carrot and stick”という3度のワンマンライブをしようと提案してくれて、それに向けて書いた曲たちがアルバムになりました。尻を叩いてもらいました(笑)。
EMTG:作る段階から聴く人のことを考えるのは、小谷さんとしては初めてじゃないで すか?
小谷:お客さんのことを想って書くのは初めてでした。このアルバムの曲を最初に聴いてくれるのが、そのライブに来てくれる人達だったから自分の曲というより、私たちの曲ということで、タイトルを『us』にしました。歌詞の編集も、敢えてスタッフに意見を聞いたりせずそのまま歌いました。レコーディングもミュージシャンとエンジニアのみで頑張りました! その分、責任もあったけど、 今まで16年間の作品作りで感じたことのない達成感がありました。ツアーを4月にやりますので、みなさんもぜひ見に来てください。
EMTG:そこでリスナーも『us』 の一人になるツアーですね。ありがとうございました。

【取材・文:平山雄一】

tag一覧 アルバム 女性ボーカル 小谷美紗子

ビデオコメント

リリース情報

us

us

2014年01月22日

HILLSTONE Records

1. enter
2. 正体
3. 誰か
4. 手の中
5. runrunrun
6. 果てに
7. universe
8. 東へ
9. すだちの花
10. recognize

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お知らせ

■ライブ情報

小谷美紗子 Trio Tour 「us」
2014/04/08(火)大阪・梅田Shangri-La
2014/04/10(木)名古屋 CLUB QUATTRO
2014/04/24(木)東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。


■『us』フォトブック特別仕様盤 発売中!

『us』フォトブック特別仕様盤をMusic For Lifeで発売中。
価格:3,300円(税込)
※Music For Lifeのみの取り扱いで、一般流通での販売は予定しておりません
※2014年4月に開催されるレコ発ツアーのチケット先行予約情報が封入
※購入者先着2,000名様に特典として小谷美紗子のメッセージカード付属

URL:http://musicforlife.co.jp/sp_odani/

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