黒沼英之、ソングライターとしての大きな一歩。1stアルバム「YELLOW OCHER」

黒沼英之 | 2014.02.13

 黒沼英之のファーストアルバムが完成した。タイトルは「YELLOW OCHER」。1枚目ということで、始まりとか前向きな気持ちを匂わせる言葉を付けたいと考えていた時に辿り着いた言葉だそうだ。これは、高校の美術部で油絵の下書きとして使うよう先生に教わったという“赤みがかった黄色”のこと。完成して教室に並んでいるたくさんの絵はそれぞれに全く違った世界観を作り上げているけど、最初はどれもYELLOW OCHERから始まり、どの絵にもこのYELLOW OCHERという色が眠っている。11曲11通りの風景があり、ソングライターとしての大きな一歩を示した本作もまた、彼のシンプルな思いや声がしっかりとベースにあることを感じさせてくれる、そんなアルバムだ。

EMTG:今回は何か具体的なイメージを持って制作を始められたんですか?
黒沼英之:フルアルバムというボリュームで作るのは初めてだったので流れなんかは考えましたが、あまり奇をてらって難しいことをしようとかではなく、素直に「いいな」と思える曲を書いて歌うーーそれが自分にとっての長所だったりするのかなって気持ちはあったので、シンプルに、何度でも聴けるような、聴く人を選ばないアルバムになったらいいなと思って作りました。
EMTG:黒沼さんはいわゆるシンガーソングライターですけど、今作はシンガーとしての部分とソングライティングの部分が、それぞれの方向でより充実しているなという印象を受けました。
黒沼:今まではどちらかと言うと自分の内面と向き合うことや自分を掘り下げることで曲を書くということが多かったんですが、もうちょっと自分自身とソングライティングをするということを分けて、1曲ごとに、今回だったら11曲なので11通りの人生や人々や風景を描いて、それを自分の声でまとめるということが出来たらいいなとは思ってました。なので今までは選ばなかった言葉やシチュエーション、自分が体験してないことなんかも出てきますが、ソングライティングをする、ポップソングを書くということはそういうものも取っ払って自由でいいんだ!って気持ちで書いてた気がしますね。
EMTG:最初の作品「イン・ハー・クローゼット」のようなプライベート感も表現として素晴らしかったですけどね。
黒沼:ありがとうございます。あれはあれで自分なりの良さがあるのかなとは思いますけど、今回は特に、そこからもう一歩外に出てみるということにトライした作品というか。そんなに自分のことばかり歌っててもしょうがないかなみたいな気持ちもありましたし(笑)。結局書いてるのは「自分」なのでどんな曲にも少なからず自分の考えや思いというにおいは残ると思うんですが、それでもやっぱり自分ではない誰かとか、どこかにいるかもしれない誰かみたいなものを歌うことで、もう少し外の世界と繋がってみたいなという気持ちがあったんですよね。
EMTG:外に目を向けたことで、逆に黒沼さんの価値観とか思いみたいなものがより浮き彫りになってる気もしたんですが。
黒沼:あぁ、うんうん。外を向いてる曲の中に、たとえば最後に入ってる「深呼吸」とか8曲目の「告白前夜」のような自分の内面に向き合っているような曲があることで、より引き立って聴こえるような印象を受けるのかもしれないですね。
EMTG:4曲目の「心のかたち」もそういう1曲ですね。
黒沼:「心のかたち」はデビュー前にレコーディングしていた曲なんです。作ったのはもう5年ぐらい前になんですけど、どうにか良い形で出せたらいいなと思っていて、これまで「ここではない」って感じで先延ばしにしてたんです。
EMTG:5年前というと20歳くらい?いったい何があったんですか!
黒沼:あははは!これ、たしか20歳の誕生日に書いたんですよ。友達が仕事で上手くいかないことがあって、上司ともめて大変そうな時期だったんですね。その相談を受けて「こう思う」という自分なりの言葉をかけたんですが、帰り道でその日のことを思い返していた時に、今日友達に話したことって実は自分に向けて言ってることだったりするのかなって思ったんです。友達の相談にのって出た言葉が、意外にも自分が辿り着きたかった真理というか、そういうことを引き出してくれることもあるんだなって。周りにいる人が自分の心を教えてくれる鏡でもあるんだなと思いました。そんなところからフッと、「僕の心のかたちを君が教えてくれるんだ」というサビの1行めが出てきたんですよ。そこから、思っていることをその日のうちに書いていったんです。
EMTG:なるほど。そんな「心のかたち」から「UFO」に続く感じが面白いなと思ったんですが、この曲は?
黒沼:「UFO」は、「パラダイス」を書いた頃に作りましたね。「パラダイス」は決して叶わないことだったり、もうどこかでどうにもならないことがわかっているんだけどそれでも信じ続けたいって願う気持ちの強さみたいなものを書いたんですね。東京で流れ星を見ることなんて不可能かもしれない、でも探すんだって。そういうことが自分の中でもすごくテーマとしてあるなと思ったので、こういうものをもう1曲書きたいなという気持ちで作ったのが「UFO」なんです。UFOを探して、自分たちをどこかへ連れて行ってくれるような…途方もないノリみたいなものを何かのモチーフで書けないかなと思って。
EMTG:UFOもそうですが、流れ星とか雨とか雪とか…、黒沼さんはよく空を見上げてるんですか?
黒沼:それ、自分でも気付かなかったんですよね(笑)。別にそんなに意識して見上げたりはしてないですけど、ここじゃないどこかみたいなものを望む気持ちはきっと昔からあったんだと思います。そういうのがきっと、空だったり遠くだったりっていうテーマに繋がっているのかも。
EMTG:なるほど。
黒沼:ちなみにシングルのカップリングでもあったんですが、今回「雪が降る」という曲があるんですね。この曲を書いた時、なんか自分の中で吹っ切れたんですよ。昔あった誰かのカセットテープにまだ入ってるかもしれないような曲っていうテーマで書いてみたんですけど、今までの自分からは出てこなかった言葉だったりメロディーだったりが本当に自然と出てきて。曲の世界に聴き手も一緒に身を委ねるというか、共犯者みたいな関係性で聴ける…、こういう曲はそういった力を持っているなあと思いましたね。みんなが一緒に、暗黙の了解でその世界に入り込むことが出来る曲を書いていくのはすごく楽しい。最初にも話したことですが、今回はそういう視点も楽しみながら、シンプルに良きポップソングを書きたかったという、そんな思いだったんです。
EMTG:思い出を重ねたり、時代を映したり。ポップソングには聴き手が入り込む余地がありますよね。
黒沼:そうですね。良きポップソングは思い出に結びつきながら、いろんな人の生活とか人生に結びついていく。僕の音楽も、そういうものであるといいなあって思っています。

【取材・文:山田邦子】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル 黒沼英之

ビデオコメント

リリース情報

YELLOW OCHER

YELLOW OCHER

2014年02月05日

ビクターエンタテインメント

1. 雨宿り
2. パラダイス
3. I can’t stop the rain
4. 心のかたち
5. UFO
6. 君に唄えば
7. デイドリーマー
8. 告白前夜
9. ふたり
10. 雪が降る
11. 深呼吸

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お知らせ

■ライブ情報

J-me HOT VALENTINE’S PARTY feat. 黒沼英之
2014/02/13(木)シェアードテラス 外苑いちょう並木

代官山モーニングカフェライブ
2014/02/15(土)蔦屋書店3号館 2階 音楽フロア

対バンの嵐
2014/02/17(月)新代田FEVER

DISK GARAGE MUSIC MONSTERS -2014 winter-
2014/02/23(日)TSUTAYA O-WEST・duo MUSIC EXCHANGE・TSUTAYA O-nest・TSUTAYA O-Crest
※出演会場は後日発表

「YELLOW OCHER」発売記念ミニライブ&サイン会
2014/03/01(土)タワーレコード梅田NU茶屋町店イベントスペース

「YELLOW OCHER」 SPECIAL EVENT
2014/03/08(土)東京都内某所

People to People vol.14
2014/03/11(火)Shibuya duo MUSIC EXCHANGE

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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