電波少女が5月11日にEP『パラノイア』をリリース

電波少女 | 2016.05.08

 インターネット上のラップシーンでの活動からスタートし、ここ最近、急速にリスナー層が拡大している電波少女が、最新作となるEP『パラノイア』を完成させた。ウィットに富んだ表現の数々、斬新なテーマ、多彩なサウンドなど、聴き処が満載の1枚だが、特に注目させられるのが「時代の空気」とでも言うべき生々しさだ。深刻な事態に直面しているわけではないものの、どういうわけか満たされず、拭い去れない不安に包まれている感覚……というような各曲に流れているムードは、同時代を生きる多くの人々にとって非常にリアルだと思う。ハシシ(担当:RAP)とnicecream(担当:DANCE、ボタンを押す係)に、作品について語ってもらった。

EMTG:どんな1枚にしようと思っていました?
ハシシ:基本的に自分のリリックは内面的なものが多くて、被害者面しているんです。だから何曲か作ってから、「じゃあ、今度のEPのタイトルは『パラノイア(被害妄想)』にしよう」と(笑)。「被害妄想なんです」って事前に言っておけば保険になるというか、「何を言っても叩かれないかもな」っていうことも思っていましたね。
EMTG:nicecreamさんは、今作を作るにあたってどんなことを?
nicecream:何も考えていないです(笑)。
ハシシ:彼は何もしていないです(笑)。
EMTG:さすが「DANCE、ボタンを押す係」(笑)。
nicecream:はい(笑)。だからハシシと何か話し合ったりとかもないです。
ハシシ:全部出来上がってから聴かせました。
EMTG:聴いた感想は?
nicecream:いつもよりとがっている感じはしましたね。言いたいことをすごく言っているなと。
EMTG:「被害妄想です」という予防線を張ったのは、叩かれることに敏感になっているっていうことですかね? 
ハシシ:僕、ビビりなので。「叩かれたい」っていう感じでやるんですけど、いざ叩かれると弱いんですよ(笑)。でも、今回は恐れずにやりました。
EMTG:注目度が増していることによって批判される機会も増えていますよね。
ハシシ:そういうのもありますね。まあ、僕らは素人の延長から始まっているので、今、立ち振る舞いに迷っているんですけど。
nicecream:ライブをたくさんやって今の感じになっているというより、ネットとかで曲を聴いたお客さんがライブに来てくれるようになったグループなので、何だか不思議な感じがあるんですよ。
EMTG:ライブに対しては、もともとどういう意識だったんですか?
ハシシ:イベントに呼ばれて、「分かりました」と出るようになったんですけど、それがなかったらやっていなかったと思います。この前のワンマン(2月27日にShibuya WWWで行われた)も周りの人たちが「こういうのどう?」ってそそのかしてくれて、そのおかげでやれたんです。自分たちだけでやっていたら「何でこんな大変なことやんなきゃいけないんだ! 絶対お客さん来ない!!」ってなると思うんですよ。なにしろ被害妄想の人ですから(笑)。でも、実際にやってみたらお客さんがたくさん来てくれて、自信に繋がりました。
EMTG:「ワンマン? ムリです」と断るという選択肢は?
ハシシ:なかったです。断れる立場じゃないです(笑)。年齢のことを考えても、できる限りのことにチャレンジしていかないとダメですから。
nicecream:僕に関してはいつも話が決まってから聞かされるので、「ワンマンやるから」って言われて、「マジか!」っていう感じでした。考えてみれば、正式メンバーになるっていう約束というか契りみたいなのもなかったよね?
ハシシ:そうだね。最初は仮メンバーだったから。
nicecream:気づいたら正式メンバーになっていたんです(笑)。
EMTG:(笑)最近、ファンが増えていますけど、どこを評価されていると感じています?
ハシシ:聴き触りがいいってところなんですかね? あと、ちゃんと俺のリリックを汲み取ってくれているんだろうなというのは感じています。
nicecream:被害妄想的なことって、誰もが思っているけどなかなか口に出さないことですよね。そこを結構リリックにしているんで、共感してもらえているのかなと思います。あと、素人感もいいんですかね? 素人のやつらが少しずついろんな人に聴いてもらえるようになる感じも面白いのかなと。
ハシシ:俺らは悪くもないですし、めちゃくちゃ貧困街から上がってきたわけでもない普通のやつらですけど、だからこそ今の時代の若い子たちにフィットするところもあるのかなと。いろんな人たちと同じ目線で見られるというか。
EMTG:「普通のやつら」って、悩みがないわけじゃないですからね。何となく暮らせていても満たされない気持ちがあるわけだし、精神的に参っちゃう「普通のやつら」だってたくさんいるじゃないですか。そういう部分を表現しているのが電波少女だと僕も思います。
ハシシ:まあ、「小っちゃい悩みを大袈裟に歌う」っていう感じなんですけど(笑)。でも、俺の日常にあるのってそれしかないんですよ。ライブ以外だとあんまり外に出ないですし。想像で曲を作ってみたこともあるんですけど、手応えがあるのって、やっぱ本当に自分が思っていて、「そんなことで悩んでるの?」って他の人からは思われるようなことをリリックにした曲なんですよね。だから今回のEPは、そこに絞ったものにもなっています。
EMTG:「笑えるように」も、そういう曲ですね。一見平穏そうにも見える毎日の中にある不安や閉塞感の曲として受け止めました。
ハシシ:ありがとうございます。全体的に「最初、ネガティブに何かをとらえて、それをどうポジティブに持って行くか?」みたいな風に歌っているところもあります。
EMTG:このEP、1曲目の「拝啓」と最後の「追伸」の毒気もすごいですよ。めちゃくちゃ喧嘩を売っているじゃないですか。
ハシシ:もしかしたらどこかで流してもらえるのかもなという曲は、多少オブラートに包んだ表現をして、間口が広いものにしているんですけど、「拝啓」や「追伸」はどこかで流れたり、何かに使ってもらうことはないだろうなと(笑)。だからすごく限定されたことを言っていたりします。
EMTG:「笑えるように」のMVを観て、「いい曲!」と思って、『パラノイア』を手にするリスナーもいるわけじゃないですか。それでワクワクしながら1曲目の「拝啓」を聴いたら、びっくりするんでしょうね(笑)。
ハシシ:「小っちぇな、こいつ」って(笑)。ヒップホップってトピックがいろいろある音楽でもあると思っていて。どんなことでも歌にしやすいというか。電波少女のふざけ方をしたっていう感じですね。
EMTG:僕、「Mis(ter)understand」の《世界は俺を中心に迷走》っていう表現が気に入っているんですけど。
ハシシ:この曲は、今回のEPで一番ストレートなふざけ方をしている曲ですね。でも、ふざけているけど、エモーショナルな部分も入っています。
EMTG:いろいろ深刻に悩む瞬間がありながらも、かわいい女の子を見たらときめいたりするこの感じ、生活感をすごく感じます。
nicecream:みんな、こんな感じのところがあるんじゃないですかね? 女の子のSNSをチェックするとか、やっていても口にすることはないだろうけど(笑)。そういう部分を敢えて表現するところとか、上手いなと思います。
ハシシ:こういう気持ち悪いことを表現するのは、自分達の強みかなと(笑)。まあ、自由にやらせてもらっています。
EMTG:あと、今回、フィーチャリングの曲は、「オーバードーズ feat. NIHA-C」と「RY feat. Jinmenusagi」だけなのも印象的だったんですけど。前作の『WHO』は、たくさんゲストを迎えていたじゃないですか。
ハシシ:『WHO』は、メンバーが脱退したのが制作の時期と重なっていて。もう既に作り始めていた曲があったんです。それと、自分1人で曲を出す自信もあまりなかったというのもあって、全曲で誰かを呼んだんです。今回はソロとして歌唱しているのが「盤」として出るのは初めてなので、ちょっと不安ではありました。「作れるのかなあ」って思っていたんですけど、意外と作れました。正直、「もう歌うトピックないな」って思っていたんですけど、全然ありましたね。生きているとあるもんです(笑)。
EMTG:(笑)「RY」は、何て読むんですか?
ハシシ:「リー」です。これ、前にNIHA-Cくんとやった「MO」の続編じゃないけど、ちょっと繋がっている曲です。「昨日まで好きだったのに、急に冷めちゃった」っていう部分を歌いました。結構ラブソングを歌ってきているんですけど、ハッピーなラブソングが歌えないというか。自分が誰かのラブソングを聴く時もバッドエンドのものの方が「分かるわあ」ってなることが多いので、やっぱりこういう曲になりましたね。
EMTG:今回のEPの曲、ライブでも楽しくなりそうです。「オーバードーズ」とか、盛り上がるフロアが目に浮かびますし。
ハシシ:そうですね。でも……来てくれるお客さんがライブの遊び方をあまり知らないんですよ。「こいつら、マジ、普段は家から出ないんだろな」と(笑)。とはいえ、それは悪いことじゃないと思っているんです。そういうお客さんが来てくれるっていうことは、俺らの武器。俺らもライブが上手いわけじゃないから、お客さんと一緒にライブが上手くなりたいです。楽しませるのが仕事ですけど、「楽しみ方を覚えていく」っていう部分でもお客さんと一緒に成長できたらいいなあ……というコメントを今考えつきました(笑)。
nicecream:せっかくお客さんが喜びそうな発言だったのに(笑)。
EMTG:(笑)5月22日には、今回のリリースパーティーがあるじゃないですか。ぼくのりりっくのぼうよみとMINAMI NiNEの出演も楽しみです。
ハシシ:各シーンで盛り上がっている人たちが出てくれます。『WHO』が出る前にクロスフェード系のイベントでアイドルとかバンドと一緒にやる機会が多かったんですけど、そこで感じたことがありまして。結局、知名度がなかったり実力がない人同士がクロスフェードしても何も交わらないんだなと。今の俺らはその頃よりも多少は自信もついたし、ぼくのりりっくのぼうよみとMINAMI NiNEも力のある人たちなので、上手くリンクできるリリースパーティーになったらいいなと思っています。
nicecream:個人的な部分で言うと、ダンスで今までにやっていないようなことができたらいいなと思っています。何かチャレンジをして、また別の雰囲気の電波少女をお見せできたらいいですね。
EMTG:では、そろそろインタビューを終了しますが、他に言っておきたいことは?
nicecream:ジャケのこと言えば?
ハシシ:そうだね。今回のアートワーク、自分が手がけています。この鯉のイラスト、よく見ると『パラノイア』っていう文字になっています。あと、ブックレットの中面は俺の脳みそのMRIの画像なんですよ。
EMTG:病院で何と言って撮ってもらったんですか?
ハシシ:一応、健康診断ということで。異常はなかったです(笑)。

【取材・文:田中 大】

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ビデオコメント

リリース情報

パラノイア(初回限定盤)[CD+DVD]

パラノイア(初回限定盤)[CD+DVD]

2016年05月11日

redrec / sputniklab inc.

[CD]
1. 拝啓
2. COMPLEX
3. RY feat. Jinmenusagi
4. オーバードーズ feat. NIHA-C
5. Mis(ter)understand
6. 笑えるように
7. 追伸

[DVD]
電波少女 解散&復活ワンマンライブ“茶番” at Shibuya WWW(2016.02.27)
1. INTRO
2. INVADER feat. RAq
3. LIAR GAME Remix (dance showcase)
4. MO feat. NIHA-C
5. Earphone feat. Jinmenusagi
6. Mis(ter)understand

お知らせ

■ライブ情報

電波少女 インストアLIVE
2016/05/12(木)HMV&BOOKS TOKYO 7Fイベントスペース
2016/05/15(日)TOWER RECORDS新宿店

電波少女 E.P “パラノイア” Release Party
2016/05/22(日) clubasia

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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