心の中で温めていたモチーフは、希望の言葉に。さユり「平行線」インタビュー

さユり | 2017.03.03

 ストレートだけれども、どこかアンバランス。そんなさユりの紡ぎ出す言葉や歌声は、常にそうやって私たちの心をいつの間にか掴んでしまう。そんな彼女が、今回シングル「平行線」のリリースを機に、EMTG MUSICのインタビューに初登場。彼女自身の言葉を聴いていくうちに、交わらないふたつの線に彼女が込めた“希望”が見えてきた。

EMTG:最初に、簡単にここまでの歩みからお伺いしたいのですが、さユりさんが最初に音楽をやりたいと思ったきっかけは何だったんですか?
さユり:歌が好きになったのは、幼稚園の頃でした。歌で敵を倒すアニメを観ていて、その作品のおもちゃでずっと歌っていたんです。そのあとギターを始めたのは、小6のときですね。きっかけは、友達と観ていた関ジャニ∞さんのライブDVDで。皆さん、自身が作った歌を演奏されているのを観て“すごい!”と思ったのと同時に、“小さい頃から好きだった歌を、表現する術が見つかった!”と思って、そのときからギターでの弾き語りというスタイルをとっています。
EMTG:初めてライブをしたのはいつ頃でしたか?
さユり:中2です。14歳になってから“弾けるようになってきたかも?”と思って、初めてライブをしまして。“ライブをやるなら曲も作りたい”と、そのとき曲も初めて作りました。
EMTG:それから月日が流れ、メジャーデビューからも約1年半が経ちました。デビューの前後で、音楽に対する感覚の変化などはありましたか?
さユり:うーん……ガラッと変わったりはしませんでしたけど、聴いてくれる人が増えたというのは、すごく大きくて。ちょっとずつ、聴く人を意識しながら曲を作るようにはなりました。始めた頃って当然あんまり深く考えてなくて、漠然と自分の中に抱えたモヤモヤをそのまま吐き出すような形だったんですけど、聴いてくれる人が増えてきたなかで“自分が歌う意味を持ちたい”と思うようになったんです。それで、そのモヤモヤを前向きなものに昇華したいという想いで、一歩踏み込んだ曲を作りたいと思うようになったのは、心の変化かもしれません。
EMTG:特に去年はワンマンやたくさんのイベントにも出演されて、より多くの方に生で歌声を届けられた1年だったと思います。
さユり:それをすごく感じたのは、去年末の“COUNTDOWN JAPAN”でした。今まででいちばん大きなステージで、たくさんの人に観てもらったんですけど……それまで“何千人”っていう数字って、自分の中ではすごく漠然としていたんですよ。でもいざステージに立つと、“あ、いくら数が増えても<一人ひとり>なんだ”っていうのをすごく感じて。 “より自分が成長しないと、一人ひとりに対して一対一でいることが難しくなるな。だから頑張らないと”っていう思いが生まれましたね。
EMTG:さて、2017年第一弾シングル「平行線」は、「クズの本懐」のアニメ・ドラマ両方のEDに起用されています。まずお伺いしたいのは、この“平行線”という言葉には、どうやってたどり着かれたのか? ということなんですが。
さユり:曲自体は書き下ろしなんですけど、実は“平行線”というモチーフ自体は、結構前から自分の中にひとつのテーマとしてあったんです。境界線が好きだったり、“2.5次元パラレルシンガーソングライター”って自称しているようにパラレルワールドというものが好きだったりするので。そんななかで「クズの本懐」を読んだら、その“平行線”という言葉と繋がったんですよね。主人公の(安楽岡)花火と、花火の好きな人との交わりたいけど交われない気持ちとか、自分の本心と現実とがなかなか交わらないもどかしさとかがすごく重なって、“今まであった<平行線>って言葉と重ねて、想いを託してみよう”というふうに、曲を作り始めました。
EMTG:なるほど。さユりさん自身が元々持っていた想いと、作品とが重なった部分があった。
さユり:そうですね。それに花火と自分が持つ、“傷つくことが怖くて本心が言えなかったり、行動が起こせない”っていう弱い部分も重なったんです。そこは原作を読んでいて好きなポイントでもあったので、最初は“そういう弱さを肯定したい”っていう想いで作り始めたんですよ。でも原作を読み進めていくと、花火は傷ついたり傷つけたりしながら行動を起こすようになったりと、少しずつ変わっていって。その姿に刺激を受けて、最終的にはそういう弱さを肯定しつつ、弱い自分でも進めるように……という曲に仕上げていきました。
EMTG:その想いが、サビの♪太陽系を抜け出して平行線で交わろう♪というフレーズに込められているような気がしまして。僕はそこに、希望みたいなものを感じました。
さユり:そうですね。平行であれば近づくことはないから傷つかずに済むから、平行であることに甘えている部分もたしかにあると思うんです。でも自分的には、“平行線”って希望的な意味を含んだ言葉でもあるんですよね。平行線のままでも繋がっていけるんじゃないか、それぞれが違っていても交わる部分ってあるんじゃないかと。だからこそ「好きな人と自分は平行線」って言いきることでどこまでも続いていけるっていう、平行線だから見える景色や未来があるんじゃないか? っていう希望的な意味も含めて、「平行線」を歌ってます。
EMTG:じゃあ、作品の反映はもちろん、さユりさんご自身の想いも色濃く歌詞に投影されたんですね。
さユり:そうですね。“平行線のままで交わろう”って歌うことが、自分にとってすごく大切なように思って。デビュー曲の「ミカヅキ」でも、♪欠けた翼で飛ぶよ♪っていうところが、自分の中で大切な部分だと思ったんです。欠けてるからこそ歌えるものがあったり、交われないから歌えるものがあったりっていう。そういう中でも“それでも”って思ったり“弱いけど、強くなりたい”っていう想いが、自分の歌っていきたいテーマなので。
EMTG:一方サウンド面では、アコースティックめな冒頭を抜けると一気に走り出すので、最初意表を突かれた方もいるかもしれません。
さユり:内側の、自分だけが知っている“閉めてればそれでいい”っていう小さな気持ちと、でも吐き出してしまいたいっていう大きな気持ちとがどっちもあるなかでの心の揺れ動きを描いたので、最初は自分の心が出発点としてアコースティックに始まって、そこから一気に走り出す感じになってるのかな……って、出来上がってから客観的に聴いて思っています。
EMTG:では、最初作られたときのお気持ちと、レコーディングで湧き上がってきた気持ちとで、何か変わった部分はありましたか?
さユり:それはありませんでした。ただ、歌詞を書いたときには“Aメロはこういう角度から見た気持ち”みたいに断片的だったものが、全部同時にバッと出てくるような感覚はありましたね。頭で考えて歌ったりはしていないんですけど、自分の書いたときの想いとか、「クズの本懐」のシーンとかがパパパッて浮かんで。それで“あ、あのキャラにこの言葉が届けばいいな”とか、“あのキャラに似てる、実際に生きてる誰かに届けばいいな”みたいに思いながら歌いました。
EMTG:この曲の歌声では、“共感できる若さゆえの危うさ”みたいなものを感じる部分があったのですが、それは3曲目の「ネバーランド」でも感じられました。
さユり:この曲はライブでもずっと歌ってきた曲で。悲しみと怒りと、切なさと愛しさと、自然といろいろなぐちゃぐちゃした想いが湧き出てきて歌っていた曲なんです。
EMTG:この曲を作られたときのさユりさんは10代でしたが、今は年齢的には“大人”側になっています。今改めて歌ってみると、違う感覚を感じたりもしますか?
さユり:まだ成人1年目で揺れ動く部分も結構あるので、この曲の棘みたいなものが自分に向いてきて、刺さってくるような感覚は少しあります。小説をモチーフにして作った曲なので、当時はあまり自分に向けてっていう感じはしなかったんですけど。
EMTG:そして今回は、前作「フラレガイガール」に収録されていた「アノニマス」の弾き語りバージョンが2曲目に収録されています。弾き語りだからこそ、歌詞中で欲されている“リアル”と結びついて、より説得力が出たように感じました。
さユり:この曲は自分の中では決意の曲だったりもするんです。自分が世界や人に対して、本当の声で叫ぶよ、っていう想いを込めた歌だったので、弾き語りで録ることによってそのが増したようではありましたね。
EMTG:さて、お話は「平行線」に戻ってしまいますが、この曲のMVはすでに一部公開されていますね。
さユり:今回は「クズの本懐」原作の横槍メンゴ先生が、イメージボードのラフを描いてくださって、それをもとに制作しました。平行世界で交われない想いが、それでも交わろうとしていたり。あと♪太陽系を抜け出して♪という歌詞になぞらえて“宇宙都市と現実”というのもテーマになっていますし、鏡と、あとアニメのEDと同じように万華鏡がモチーフになっていたりします。
EMTG:特に注目してほしいポイントはありますか?
さユり:どこか一部分というよりは、ぜひ買っていただいて、フルレングスで曲の最後まで観てもらいたいですね。YouTube版だと、途中までしか観れないので。今回はアニメの「クズの本懐」の映像が散りばめてあるんですけど、それぞれのシーンがたぶんそのときの聴く人の心情とか、アニメの進み具合とかによって、その表情ひとつが違うように見えたりという変化があるんじゃないかな? って。観た人との関係性で変わる映像のように思うので、皆さんの感想が楽しみです。
EMTG:となると、その感想もタイミングによって刻々と変わっていくでしょうし。それ自体も万華鏡みたいですね。
さユり:そうですね……もしそうなら、オシャレですね(笑)。アニメやドラマが終わったあとも、自分の心の持ちようで見え方が変わったりすると思うので、無限に楽しめるものになっていてほしいな、って思います。
EMTG:そしてシングルリリース後には、全国でのミニライブ&サイン会が予定されています。
さユり:リアルの反応はまだ未知数なので……聴いてくれた人と私と歌との化学反応で、どうなるのか。本当に聴いてくれる人ありきだと思うので、やっぱり楽しみだし、ドキドキします。
EMTG:3月・4月はライブイベントへの出演もあるので、さユりさんの心の中の“平行線”もどんどん形を変えていきそうですね。
さユり:そうですね。そのときはたぶんバンドでの出演だと思うので、またミニライブとは違ってくると思うので、楽しみです。やっぱりワンマンもやりたいですけど、イベントって初めて見てくれた人と繋がれる瞬間みたいなのを感じられるんです。そういうその場での出会いの瞬間っていちばんうれしいものなので、「平行線」でもそれを感じたいですね。
EMTG:では最後に、今年さユりさんはアーティストとしてどんな1年にしたいか、をお聞きしたいのですが。
さユり:すごく漠然としてるんですけど、自分の中でのテーマは“中身を知る”なんです。私自身、自分のことをまだ全然知らないと思っているので、ライブとか人との繋がりのなかで、それを知っていけたらいいなと思いますし、それを細かく刻んで歌にしていきたいですね。

【取材・文:須永兼次】

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リリース情報

平行線

平行線

2017年03月01日

アリオラジャパン

1.平行線
2.BANDAGE-弾き語りver.-

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