ゴスペラーズ、2年半ぶりのオリジナル・アルバム『Soul Renaissance』

ゴスペラーズ | 2017.03.21

 オリジナル・アルバムとしては2年半ぶりとなるゴスペラーズの『Soul Renaissance』。ソウル/R&Bという文脈での音楽的深化度、熟練のワザで臨む歌の熱量、サウンドの色気、どれをとっても非常に高い、耳に吸いつくような濃密さだ。磨き上げてきた底力をあらためてドヤ顔で見せつけられた気がして、爽快でさえある。歌い手であり、またソングライターでもある5人が、この作品でルネッサンスしようとしたものとは?

EMTG:2015年秋のシングル「Dream Girl」が今作のスタートでした。そのときすでに、次のアルバムのキーワードは、『Soul Serenade』の頃の90年代感になりそうだと話してましたよね。
村上:リリースこそ2000年なんですけど、『Soul Serenade』には僕たちの音楽的バックグラウンドや、90年代の最新ソウル/R&Bに影響されてやってきたスタイルが、歌詞の方向性も含めて集約されてたと思うんです。そろそろ30歳になる頃だったから、大人の男の体でラブ・ソングを歌ってもいいだろうと、設定と実像がちょうど合ったわけです(笑)。その匂いを念頭におきつつ、90年代にやってたことを発展形として再構築してみようと思いました。一口に90年代の音楽といっても幅広いから、音楽的キーワードもたくさんある。当然、当時自分たちがやれてたものもあれば、やれてなかったものもあるわけで、そこに今、取り組んだらどうなるかってこともやってみたかったんです。
EMTG:2016年秋に出た「GOSWING」は、ニュー・ジャック・スウィング(以降NJS)というキーワードの発展形でしたね。
村上:80年代後半~90年代前半、NJSは絶大な影響力を持ってましたよね。「ダンス甲子園」なんかもその流れで生まれたんじゃないかな。もちろん当時の僕たちもNJSは取り入れてたけど、もうちょっとポップ寄りの解釈だったと思うんです。「GOSWING」では、そこをもうちょっとブラック・ミュージック寄りに振ってみた。「Silent Blue」なんかにも、それこそ『Soul Serenade』で北山と安岡が歌った「月光」と同じ匂いがある。コード感がループされたなかでピアノとギターが執拗にアルペジオを奏でるという音作りもまた、90年代の発展形というわけです。
EMTG:なるほど。
村上:プラス、僕らが昔からやってきたアカペラやハーモニーに関わる部分ですよね。そういった言葉から浮かぶイメージって、「柔らかい」だったり「温かい」だったりすると思うけど、僕らにはそうじゃない切り口もあって、自ら「けんかアカペラ」と称して追求してきた。そこで培ったグルーヴィーなハーモニーと、ルーパーという現代のテクノロジーとを融合させたのが、「Recycle Love」なんです。だから、『Soul Renaissance』には、90年代のルネッサンスという意味と、当時の自分たちのルネッサンスという意味の両方があるんです。それらがとっちらかりすぎないように、ある程度ブラック・ミュージック色の濃いもので固めるというのが全体の方向性でした。
EMTG:意図が明確に見えてきました。
村上:最初のうちは外部作家陣の曲が優勢だったんですけど、最後のほうで酒井が、「メンバーで共作もやってみようよ」と言ってくれて、そこから作った曲が、最終的にいい存在感を放つものになりましたね。それでメンバー一同安心したという(笑)。
黒沢:「オマエら、自分たちの力でルネッサンスしてないんじゃね?」と言われずにすみました(笑)。
EMTG:今年デビュー23年目。残してきたものがたくさんあるのに、今作ではさらに残るものを作るんだという意欲が強く伝わってきます。とはいえ、20周年以降のこの2年半には、「残るものとは何か?」の答えに至る紆余曲折もあったと思うんです。そこを突破するために立ち返るべきポイントが、『Soul Serenade』だったのかなと思ったりしたのですが。
村上:あの作品で、ゴスペラーズを聴いてくれる人が大幅に増えたというのは紛れもない事実。だから、そこにあった自分たちの気運みたいなものも見直して、ま、倍返しとはいかないけど、いわゆる残るものにつなげていこうという気持ちはありました。
安岡:20周年のツアー中から、リーダーはそう言ってましたね。
北山:『Soul Serenade』がよかったというより、あれを作っていたときの僕ら自身に、「なんか知らないけどいい曲がいっぱいできてるぞ」というウキウキするような熱量があった。「そこだよね」という話は、早いうちから共有してました。どうやったらあの熱がまた持てるのかというところで、「メンバーでの共作」という話も出てきたと思うんです。
EMTG:言い出しっぺの酒井さんは、そのへんいかがですか?
酒井:『Soul Serenade』以降、外部の作品も取り入れることでさらに外側に広がったという流れがあったんですが、代わりに、頻繁に作曲合宿をやっていた頃の共同作曲モードが、ガタッと減ってしまったんですね。さらに、時代とともに自宅録音の機材もよくなり、個別に作業することも多くなった。「他のメンバーはこういう曲作ってるのか。やべーな」と感じたり、「ここだけちょっと手を貸してくれないかな」といったことがなくなってたわけです。「メンバーでの共作」を今復活させれば、リーダーが言った「倍返し」じゃないけど、以前より上のレベルで分担したり、相乗効果を生んだりできるんじゃないかと思いました。
北山:これまでは、プリプロの下書きに入る=ほぼ100%採用決定だったので、選曲会議に自分のどの曲を出すか決める段階で、相当なエネルギーが必要でした。でも今回は、「よさそうだね」となった曲は、とりあえず全員の頭のなかに入れてアイディアを出し合った。「結果うまくいかなかったとしてもいいよね」というスタンスで取り組めたので、いつもよりカジュアルに自分の曲を持っていけたんです。
EMTG:なるほど。
北山:自分ひとりだと、49点と51点でどっちがいいか延々と決められなかったフレーズも、他のメンバーが聴けば、「明らかにこっちでしょ」とサクッと決まる。サイコロの目を出すだけ出して、みんなの審美眼で厳選できたことが、濃密さにつながったんじゃないかと思います。
EMTG:歌の面では、今回はそれぞれの個性が際立ってるなと思いました。
黒沢:「Dream Girl」の制作のときから、「熱い歌」をテーマにはしてました。90年代の匂いは、やはりそういったソウル/R&Bの唱法なしには語れない。そこを薄くしてしまうと、急に渋谷系の捉え直しのような感じになってしまうなと。
EMTG:たしかにそうですね。
黒沢:ボーカル力を前面に押し出す表現ができるのは我々だ! という自負もありつつ、転載不可能な、いわゆる濃い口でセクシーな歌を目指そうとしてましたね。大きな愛じゃなくて、極めて個人的な愛を表現することにもあらためて挑もうと。さらに、この曲のこの部分にはこの人、というように、メンバーの声の個性をアイコン的に使ったりもしてます。『Soul Serenade』の頃はまだ発展途上だったけど、今はもうそれぞれの得意分野が固定されてきてるから、采配しやすいんです。作曲の段階から声がイメージできるというのも大きいです。たぶん外部の作曲陣もそこは同じだと思います。「永遠(とわ)に」を研究し尽くしているような男である森(大輔)クンなんかも、リード・ボーカルはこう歌ってほしいというクリアなイメージを元に書いてくれてましたね。
EMTG:「イントロ’17」、「インター’17」があるのも、ルネッサンスのひとつになのかなと。イントロとインターの両方があるのは、1stアルバム『The Gospellers』以来ですよね。何か意味があったりしますか?
村上:いや、意味はないです(笑)。先日たまたま会ったさかいゆうが、突然ポロッと「<イントロ’95>ってよかったっすね」と言ってくれたんですけど、ま、それくらいインパクトのあるものだったのかなと。特に初期の頃は、アルバムごとにイントロとインターに挑んでましたね。
安岡:最終的に収録されなかったとしてもトライはしてたはず。
北山:今聴くと懐かしいスナップ写真を見るようでもある。それはそれで価値があることだなと。曲自体のいい悪いじゃなくてね。
村上:ジャネット(ジャクソン)を筆頭に、アルバムにインタールードを執拗に入れるというのが90年代のブームでしたよね(笑)。実は、最近通ってるソウルバーのマスターがきっかけで、それを思い出したんですよ。「90年代コンピを勝手に編集したから聴いてよ」と渡されたCDの頭にも、短いピアノ曲のイントロが入ってた。それを聴いたときに、「あ、やっぱ90年代感ってこれだよなぁ」と(笑)。
酒井:今どきの人が聴いたら、「あれ、もう終わっちゃったの?」くらいの感覚しかないのかもしれないけど。
村上:香りづけみたいなもんですからね。今回の「イントロ’17」と「インター’17」は、「ルネッサンス」という名のアロマ(笑)。
北山:この2曲は、村上とふたりで作りました。当初の目的は「GOSWING」につながる「イントロ’17」を作ること。それが夜7時に完成しちゃったので、「もう1曲作ろうぜ」となり、結果2曲で投票をして、最初に完成した「イントロ’17」の採用が決まったんです。ただ、票は割れてたので、「だったらもう1曲は"インター"にしようよ」と。久しぶりに「イントロ」と「インター」が収録されたのは、そういうわけです。
EMTG:さて、黒沢さんが言ってた「濃い口」のひとつが、黒沢さんがAILIさんと曲を共作した「Hide and Seek feat. RHYMESTER」です。
黒沢:RHYMESTER主催のフェス「人間交差点」で彼らとやった「ポーカーフェイス」が、AILIさんにすごく響いたようだったので、「じゃ、そういう曲を一緒に作ってみる?」となり、AILIさんがベーシックを作って、僕がサビのメロディを考えました。狂おしくシャウトするようなアップテンポをイメージしてたので、最近話題の惑っちゃった男のラブソングでいいんじゃないかなと。そうRHYMESTERに伝えたら、「そこまで言っちゃう?」というのがドーンときました(笑)。歌でこれほど吠えてるのは最近ないですね。90年代、濃い口のボーカリストに憧れて、とことん研究したのが、知らないうちに血肉となっていたんだなと。
EMTG:堀向(彦輝)さん作曲、安岡さん作詩の「Let it shine」もすごく新鮮です。安岡さんの曲のアレンジャーとしてよく登場する方ですよね。
安岡:作曲家としての彼のポテンシャルもゴスの現場に持ってきたかったので、コンセプトを伝えて薄っすら依頼してたんです。そしたら、90年代のソウル/R&Bという文脈にクロスオーバーするバックストリート・ボーイズ的なポップ感と、彼自身のロック的嗜好も混ぜ込んだ面白い曲を書いてきてくれました。森クン同様堀向クンも若いので、90年代というコンセプトでも懐古主義にならない。そこがいいんです。彼の英語の仮歌のリズムと韻をキャッチして、僕はそこにハマるベストな日本語を探すことに集中しました。それはまさに『Soul Serenade』のときにやっていたこと。そこから十数年培ってきた技術もあったので、この曲ではあまり悩まずに書くことができましたね。
EMTG:北山さん、黒沢さん、安岡さんで共作した「Silent Blue」では、北山さんのギリギリ感漂うボーカルにグッときました。
黒沢:あの上にいくメロディは僕が作ったから(笑)。
酒井:意外な声の魅力が出るというのは、まさに共作の妙ですよね。
EMTG:曲作りのプロセスとしては?
北山:僕がリーダーシップをとって全体の世界観が見えたところで、安岡が「時が止まった感じ」というコンセプトを出してくれた。そのイメージを元に僕はバックトラックの打ち込みとコーラスの積みを考え、安岡は詩を進め、みんなに聴かせたところで、今度は黒ぽんが「サビのメロディをもう一捻りしよう」とアイディアを出してくれました。
安岡:体と脳みそは共有しながらの分担。
北山:ひとりでは絶対行けないところに行けましたね。
EMTG:「All night & every night」は「濃い口」スローの極め付き。
酒井:ボーカリストが平歌から大暴れできるサーキットを作るということを大命題にして作った曲です。歌の推進力となる美味しいコードを添えつつも、ビートでボーカリストを拘束しない。つまり、「自由にめちゃくちゃにやってほしい」とボーカリストに望む曲なんです。
EMTG:テンポのまったり感も究極です。
黒沢:細かいリズムを入れたくなるところを、グッとこらえたままなのがミソですね。
酒井:これは、まず僕が弾けないピアノでオケを作り、玉数多めのサビの定型メロができたところで、安岡が詩を書き始め、その間黒沢が街を破壊するゴジラのごとく平歌のメロディを考えると(笑)。そんなふうに作っていきました。とにかく過剰なくらいの熱さがほしかったんです。
安岡:仮歌を歌ってるときのふたりの口の形がよかったので、その形になる言葉を「空耳」で探して歌詩にしていきました。そういう辻褄合わせも、今回はすごく楽しめました。
EMTG:4月22日からツアーも始まります。
酒井:こんな熱いアルバムを作っちゃったからには、もう我々ボーカリストとしては討ち死に覚悟(笑)。ぜひ、楽しみにしててください!

【取材・文:藤井美保】

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リリース情報

Soul Renaissance

Soul Renaissance

2017年03月22日

Ki/oon Music

1. イントロ’17
2. GOSWING
3. Dream Girl
4. All night & every night
5. Hide and Seek feat.RHYMESTER
6. Recycle Love
7. 暁
8. インター’17
9. Deja Vu
10. Silent Blue
11. Let it shine
12. angel tree
13. Liquid Sky
14. Fly me to the disco ball

お知らせ

■コメント動画



■ライブ情報

ゴスペラーズ坂ツアー2017 “Soul Renaissance”
04/22(土) 松戸森のホール21
04/24(月) オリンパスホール八王子
04/26(水) 神奈川県民ホール 大ホール
04/29(土) 南相馬市民文化会館 ゆめはっと
04/30(日) 南陽市文化会館
05/03(水) なら100年会館 大ホール
05/04(木) ロームシアター京都 メインホール
05/06(土) 上野学園ホール
05/07(日) 姫路市文化センター 大ホール
05/13(土) 伊勢市観光文化会館
05/14(日) 静岡市清水文化会館 マリナート 大ホール
05/18(木) 川口総合文化センター リリア(メインホール)
05/20(土) 群馬・桐生市市民文化会館 シルクホール
05/21(日) 茨城県立県民文化センター
05/27(土) 輪島市文化会館
05/28(日) オーバード・ホール
06/02(金) ニトリ文化ホール(さっぽろ芸術文化の館)
06/03(土) 旭川市民文化会館 大ホール
06/10(土) 大船渡市民文化会館 リアスホール
06/11(日) 仙台サンプラザホール
06/17(土) 西条市総合文化会館 大ホール
06/18(日) レクザムホール(香川県県民ホール)・大ホール
06/24(土) 鹿児島市民文化ホール 第一
06/25(日) 宮崎市民文化ホール
07/01(土) 大阪国際会議場(グランキューブ大阪)メインホール
07/02(日) 大阪国際会議場(グランキューブ大阪)メインホール
07/08(土) 東京国際フォーラム ホールA
07/09(日) 東京国際フォーラム ホールA
07/15(土) 名古屋国際会議場 センチュリーホール
07/16(日) 名古屋国際会議場 センチュリーホール
07/22(土) 長崎ブリックホール
07/23(日) 福岡サンパレスホテル&ホール
07/29(土) 出雲市民会館
07/30(日) 倉敷市民会館

美空ひばり生誕80周年記念 だいじょうぶよ、日本!ふたたび 熊本地震・東日本大震災復興支援チャリティーコンサート
04/05(水) 東京ドーム

琵琶湖周航の歌 100周年記念 加藤登紀子プロデュース 第一回びわ湖音楽祭
06/30(金) 滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール(大ホール)

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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