ニューアルバム『BI』から紐解く、FINLANDSがFINLANDSである理由

FINLANDS | 2018.08.03

 今、右肩上がりで注目を集めている女性ロックバンド、FINLANDSが7月11日にリリースしたニューアルバム『BI(バイ)』。2・双・重などの意味を宿したタイトルは、2枚目のフルアルバムだということを表わしているのかもしれないし、メンバー二人の関係性を暗喩するものかもしれない。あるいはソングライトを一手に担う塩入冬湖(Vo/Gt)の内側に息づく二面性についてかもしれないし、他にもいろいろ解釈はできるだろう。だが、これほどに赤裸々に美しく聴き手のエモーションに訴えかけてくるアルバムはふたつとないはずだ。FINLANDSがFINLANDSである理由、その唯一無二性を塩入冬湖とコシミズカヨ(Ba)の言葉からも感じてもらえたら嬉しい。

EMTG:『BI』がリリースされてちょうど1週間が経ちましたが(※インタビューは7月18日)、手応えのほどはいかがですか。
塩入冬湖(以下、塩入):今回はずっと動き続けていて、気づいたら発売日になってる感じだったんですよ。お店に挨拶に伺って、自分たちのCDを展開していただいているのを見て初めて実感が湧く、みたいな。でも、それからライブを重ねて、いろんな方から“聴いたよ”って意見を聞いてやっと“発売したんだな”ってちょっとずつ感じてるところです。
EMTG:例えばどんな意見や感想が?
塩入:この作品はわりと転換期というか、ちょっと変化したなって私はすごく感じているんですね。私が思っている“変わったな”っていう点を、たぶん聴いてくださってる方も感じていただけてるのかなっていうご意見が多いので、それはすごく嬉しいですね。
EMTG:実際、変わった実感はありますか。
コシミズカヨ(以下、コシミズ):そうですね。去年の夏に『LOVE』というミニアルバムを出しているんですけど、そこから1年経って、曲の感じとか音の出し方もだいぶ変わっていて。使ったことのなかったコード進行とか譜割とか、やったことないことに挑戦してる感覚はありますね。今回、「PET」っていう曲が1曲目なんですけど、ちょっと爽やかな感じのコード進行なんですよ。今まで、ああいう感じの爽やかな曲ってなかったので。
塩入:私はまったく爽やかな曲だと思ってなかったんですけどね(笑)。むしろすっごい暗い曲だと思ってたんです。でもサポートメンバーと一緒に作業してるときに“アクエリアスみたいな曲”って言われて(一同爆笑)、人によって感じ方って全然違うんだなって。私はすごく暗い曲だと思って作ったけど、カヨはまた違うイメージからインスピレーションを得てベースコードを作ってくれたので、それがひとつの曲になったときに、ちょっと散文的な感じになったのは面白いですね。
EMTG:歌詞にしてもサウンドにしても『BI』はこれまでに比べていっそう作品性が高まった印象があって。初期衝動や感情を吐露するだけではない、どこか客観的な視線を感じたんです。
塩入:プレイもそうですけど、たぶん精神的な変化がそのまま出てるんだと思うんですね。意図して曲を変化させたいとかアプローチを変えたいとかよりも、もっと根本的な部分にあるものがすごく大きく反映されているような気がしてて。それってきっとFINLANDSに対しての安心感が生まれたからだと思うんですけど……。
EMTG:安心感?
塩入:私たち、FINLANDSを始めて6年目で、その間はずっと前に進むことと、どれだけ多くの人に聴いてもらえるか、私たち自身が自分たちをカッコいいと思いながら保てるかってことに重きを置いて走り続けてたんですよ。でも去年ミニアルバムをリリースしたあと、5年間で作り上げてきたものをふと見直してみたときに、戻る場所として申し分ないくらいのものにFINLANDSを確立できてるなって思ったんです。それはシーンの中でのポジションとかじゃなくて、私たちにとって、という意味ですけど。今までやってみたいのに怖くてできなかったことも、もし取り入れてダメだったら、またそこに戻ればいいって思えるものが確立できたことで、選択肢もが増えた気がして。
EMTG:それは安心感であり自信でもあるでしょうね。
塩入:なので今回、アプローチが今までと違ったり、少しメロウな曲が多かったりするのは、そういう安心感や自信、精神的なものが表われた結果の変化なんじゃないかな、と。
EMTG:今までは何が怖かったんですか。
塩入:変化自体が怖かったです。私はFINLANDSをすごく普遍的なものだと思っているんですよね。私はギターロックが好きだし、いい曲を歌って格好よく演奏するのがギターロックで、それが普遍的な格好よさだと思ってるんです。ギターロックなんて新鮮味がないって言われたこともいっぱいあるけど、そのたびに“こいつ、何言ってるんだろうな”って思ってきて。ただ単に新しいことをするだけで世の中的に面白いとされることがすごく嫌なんです。私たちは普遍的にいいなと思えるものをきちんと作り続けて、歌い続けていきたい。それが私の中のFINLANDSのイメージだし、そうあってほしいっていうのが願いだったんですけど。
コシミズ:そう、私たちは自分たちのやりたいことをしっかり信じて流されない、ブレないバンドでいたかったんですよね。なので去年まではそれをずっと守っていて。もちろん今もブレないバンドではいたいんですけど、一方で、できるようになったことや興味のあることもどんどん取り入れてステップアップしたい、昇華の幅を広げたいなとも思ったんです。
EMTG:たしかに今回のアルバムは「electro」みたいな高速チューンもあればダンサブルなビートが効いた曲、沁み入るようなバラードなどと曲調もかなり幅広くなりましたよね。でも、それは流行に乗ったわけではなく、オリジナリティを突き詰めた結果そうなったんだろうなって。ある意味、大人になったけど、そのぶんより純粋にやりたいことをやっているというか、楽しんでいろんなことを試しているなって。
塩入:よかった。そう言っていただけると嬉しいです。
EMTG:今回、制作に入るにあたって二人でアルバムにイメージしているものやコンセプトなどの話し合いとかされたんですか?
塩入:してないです、一切。『LOVE』のときにちょっと伝えたくらいで、基本的にはまったく。
EMTG:でも塩入さんご自身には思うところはあった?
塩入:すごくありました。『BI』に関しては今まででいちばんコンセプトが見えてたというか。“こういうものにしたい!”っていうのが最初から明確で。なのでストックしていた曲を入れたりせず、12曲全部イチから作ったんです。
EMTG:それはすごい!
塩入:自分自身、ここまで見えていたことはなかったのでビックリしましたね。
EMTG:具体的にはどういうものにしよう、と?
塩入:いい意味で、格好つけないもの。私の作る曲はひねくれてるってよく言われるんですけど、今回は、格好つけない素直さみたいなものを随所に出せるものにしたかった。聴いた人がストレートに“そうなんだな”ってパッと頷けるものを作りたいって。それってたぶん、さっきお話したFINLANDSについた自信がそう思わせたんだと思うんですけど、私、素直な言葉を使うのが今まで怖くてできなかったんですよ。でも、それができる時期にきたんじゃないかなって。なので今まで以上に素直に自分の悲しいこととか哀れな部分だったりとか、そういうものを口に出せたと思うんです。
EMTG:コシミズさん、どうでした? 素直になったな、とか感じましたか。
コシミズ:なったと思います。また「PET」の話になりますけど、冬湖の歌詞で情景がパッと浮かぶのは珍しいなと思って。わかる人にはわかるけど、私みたいなタイプの人にはわかりづらい曲が今までは多かったんですよ。でも「PET」に関してはもう読めばしっかり情景が浮かぶっていう曲だったし、今までにあんまりなかったので“すごい!”って。
EMTG:歌詞で言うと、今回は恋愛にまつわるものが多い気がしたのですが、それもひとつのテーマだったりされたんですか。
塩入:そうですね。自分や、自分のすごく近くにいる人が実際に恋愛をしていたりとか、それを失ったりだとか、この1年の間にそういう経験がすごく重なる時間を過ごしたんですよ。そんなことって普段あんまりないじゃないですか。だから、ものすごく辛くてしんどいなっていうときも、きちんとこれを記録しておくことはきっと大事だなと思って。なのですごく悲しみながらも必死に作り続けたんです。恋愛に特化した曲が多いのはきっとその結果かな、と。最初から最後まで地獄みたいな時間を過ごしながら。
EMTG:だからか、痛みや苦しみすらも幸せと感じるような恋愛ならではの幸福感は滲んでいるんですけど、ハッピーなラブソングは1曲もないなと思って。
塩入:そうなんですよ。幸せだったことがあんまりないから、わからないのかも(笑)。
EMTG:もっと言うと“この一瞬だけでいいから私を想って”みたいな、すごく刹那的な願望が前面に出てますよね。だからこそ赤裸々だし、感情が生々しく伝わってくるんですけど、塩入さんにとっての恋愛ってどんなものなのかも気になるんです。恋愛=生きること、みたいな人とか創作の原動力にする人もいますけど、塩入さんの歌詞を見てると恋愛との距離感が独特だなって。
塩入:そうかもしれない。今27歳で、この年齢になったから思うのかもしれないですけど、恋愛が生活になることがなくて。周りの人と話していると、よく“バンドか、彼氏か”みたいな話が出ますけど、なんでその二つが同じ土俵に上がるのか、わからないんです。恋愛だけで幸せに生きていく未来が想像できないんですよね。私は自分を救うために曲を作ってバンドをやってきた部分がすごく大きいし、その救いがなくなってしまったら絶対生きていけないって認識しているので。だから恋愛が生活になることはきっとないだろうな、と。
EMTG:あくまで生活の中のいちイベント、みたいな。
塩入:そう。人を好きになったりってすごく楽しいことだと思うんですけど、それで一生楽しくやっていけるのかって言われると、きっとそれは違うなってふと思ってしまう瞬間があるんですよね。
EMTG:でも、これだけ生々しい感情を曲にして世に放つって、それこそ怖くはないですか。
塩入:今まで私、ここまで自分のことを歌うってあまり経験としてなかったんですよ。自分に起きた出来事をモチーフにしていても、相手の結論を聞かずに、自分はこう思うから相手もきっと思ってるだろう、じゃあ結末はこうだろうって想像で作っていたものが多くて。でも今回、人と対峙することを私が怖がって記録に残しておかないのはもったいないことだなって思ったんですよね。辛いことも悲しいこともきちんと記録に留めておくことができたら、それはすごく素敵なことなんじゃないかって。なので恐怖も最初こそあったんですけど、今は本当に作ってよかったと思ってます。
EMTG:表現者としてステップアップされたんですね。
塩入:そうなんですかね? たしかに表現者とか音楽家としてはすごいステップアップかもしれないけど、人としては諦めの境地だなって(笑)。
EMTG:ちょっとそれも思いましたけど(笑)。さて、この『BI』が出て、ここからFINLANDSはどこを目指していくんでしょうか。
塩入:いつもはアルバムを作り終えると“やりきったな”っていう気持ちになるんですけど、今回はそれよりも“もっとやりたいな”って気持ちがすごく大きくて。もっとやってみたいことがいっぱい出てきて、それをどういう形で作っていけるのかを今ずっと考えてる最中なんですけど。まだまだ表現方法はたくさんあるし、もっといい曲がつくれるんじゃないかなって、すごい期待があるんです。なので、また作品を作るために力を溜めていきたいなって。
EMTG:FINLANDSのいちばんの武器、強みってご自身はなんだと思います?
塩入:ふてぶてしさ(笑)。バンドとしてふてぶてしさを感じます。礼儀正しく悪口を言い続けている感じが、FINLANDSの強みだなって(一同爆笑)。物怖じしなくなってきましたし、ちょうどいい年齢っていうのもあるのかな(笑)。
コシミズ:私もメンタルだと思います。主に冬湖ですけど、何を言われても自分の思ったことは曲げないっていう。
塩入:“主に冬湖ですけど”?(一同爆笑)
コシミズ:柔軟性もあるんですけどね(笑)。ちゃんと人の言うことを聞くこともあるんですけど、音楽を作るという面においては自分の思ったことを曲げないので。曲げない理由もちゃんとしてるし、納得させてくれるので、そういうところが武器かなって。
EMTG:ツアーも楽しみです。『BI』の曲たちを早く生で聴きたいですね。すごく威力がありそう。
塩入:ぜひ来てください。トドメを刺します!(一同爆笑)

【取材・文:本間夕子】

tag一覧 J-POP アルバム インタビュー 女性ボーカル FINLANDS

リリース情報

BI(読み:バイ)

BI(読み:バイ)

2018年07月11日

LD&K

01.PET 
02.ガールフレンズ 
03.yellow boost 
04.sunny by 
05.PLANET 
06.勝手に思って
07.ハイライト
08.electro 
09.ランドエンドビート 
10.ブームダンス 
11.プリズム 
12.BI

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

BI TOUR
09/02(日)静岡UMBER
09/07(金)京都 GROWLY
09/24(月祝)横浜 FAD
09/29(土)福島 clubSONICiwaki
09/30(日)仙台 enn3rd
10/04(木)千葉 LOOK

BI TOUR ONEMANLIVE
09/15(土) 札幌 COLONY
09/22(土)大阪 Shangri-la
10/11(木)名古屋 CLUB ROCK’N’ROLL
10/13(土)福岡 graf
10/16(火)Shibuya CLUB QUATTRO

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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