日食なつこ、2ndフルアルバム『永久凍土』で表現した世界にひとつだけの冬

日食なつこ | 2019.01.09

 日食なつこの2ndフルアルバム『永久凍土』が完成した。アルバムとしては前作「逆光で見えない」から約3年ぶりとなるが、その間に発表されたミニアルバムなどの世界観、またそれらを引っさげてのライブが恐ろしいほどの存在感を放っていたため、彼女の動向を追ってきた人たちにとってはまさに待望の新作と言えるだろう。映画「テロルンとルンルン」の主題歌として書き下ろされた「vapor」、ニュージーランドで撮影されたMVが美しい「white frost」など全13曲。フィドルやタップ、カルテット、打ち込みなど、個性豊かな音とプレイヤーが繰り広げている日食なつことのバトルにも注目してほしい。

EMTG:2018年は、ライブもリリースもかなり充実してましたね。
日食なつこ:そうですね。とにかくいろんな種類のツアーを試し打ち的にやろうと考えていたんですけど、割と思っていた通りに実現できた1年でした。
EMTG:その試し打ちは、次の作品に繋ぐために?
日食なつこ:はい。(2017年にリリースした)「逆鱗マニア」と「鸚鵡」という2つのミニアルバムがバンド用の作品になって、そこは割と形が整ってきたんですね。だから逆にそこから抜けたツアーとか抜けたレコーディングをやりたいと思っていたので、あえてソロっぽいカフェツアーをやったり、バンドじゃなくてピアノとドラムだけの対バンツアーやクラブツアーをやったりしたんです。今までバンドでちょっと固まり始めていたものを崩し、ピアノとドラムっていうスタイルで固まりかけていたものも崩して、今作ではタップダンスとピアノだけの曲にしたり、フィドルとピアノだけの曲にしたり。今までをあえてちょっと崩して、日食なつこ一人の姿に一度スポットを当てなおすという、そういう曲とかレコーディングをしました。
EMTG:今回リリースされる2ndアルバム『永久凍土』のダイジェスト映像が公開された時は、本当に驚きました。いきなりティンパニだし、聴こえてくるのはタップやフィドルの音だけ。日食なつこなのに、ピアノの音が一切聴こえてこない。
日食なつこ:(笑)。予測できるような作品にはしてくなかったんですよ。だからあえてピアノを入れず、今度は「日食なつこ何やるつもりなんだろう?」って惹きつけるような映像にしたかったんです。
EMTG:それくらい振り切ったものを作れたから。
日食なつこ:そうですね。この作品を出すタイミングで日食なつこを名乗ってから丸10年を迎えるんですね。このタイミングで、今までの10年を振り返ると、ここ2~3年のバンドでやってた華々しさとか、ここ4~5年のピアノ・ドラムの相性の良さみたいなところにみんな結構目がいってると思うんですけど、やっぱりそうじゃない、もっと前の日食なつこが自分一人のために曲を書いてた瞬間を忘れたら、ここ10年がなくなちゃうなと思ったんです。バンドとかピアノ・ドラムは時間が経つにつれてもっとやっていけると思うんですけど、そういう初心的な部分っていうのは、このタイミングで振り返って一度みんなに「こうでしたよ」って見せないと、この後はタイミングが来ないなと思ったんです。だから今回はあえて日食なつこ一人っていうパーソナリティーにスポットを当てたんです。
EMTG:だからと言ってピアノ弾き語りになるわけではなく、日食なつこがそれぞれの音とどう対峙するかというカップリングの面白さが繰り広げられているわけですが、全くバタバタした感じがないんですよね。みんなあんなに個性的な音をぶつけてきてるのに。
日食なつこ:うんうん、そうですね。今回は「真冬」というコンセプトで作ったので、そこから外れないようにというのはあったんですよ。真冬っぽさとか、日食なつこが書いてる歌詞にちゃんと寄り添ってるかどうか、この2つを軸にしてアレンジを作ったので、いろんな種類の音はあるけど真ん中に通ってるものは全部同じっていう。
EMTG:しかし「真冬」をテーマにアルバムを作るってあまりないですよね。
日食なつこ:ジャケットだけで冬とか、企画的にウインターソングを集めるとかはあると思うけど、今回私が冬を選んだ理由は全然違っていて。自分の生まれた場所を、自分の中から溶かし出さない。これからどこに行こうと、東京を飛び出してさらに別の場所に行こうと、雪国で生まれた教えはちゃんと忘れないっていう意味での『永久凍土』なんです。
EMTG:ご存知の方も多いと思いますが、日食さんは岩手県の出身で。
日食なつこ:東北の寒さは質が違うというか、「今日、寒いねー」とかじゃ済まされない寒さなんですよね。数年前、一度も地元に帰らずに東京で冬を越したんですけど、その時すごく調子が悪かったんです。ライブもあまり上手くいかないし、曲を書いてもあまり面白いものがない。何だろうと思いながらたまたまライブで北海道に行って、膝まで積もった雪に触れた時に「今年これをやってなかったからだな」ってわかったんです(笑)。ちゃんと雪がある冬を感じてないと、自分の中のサイクルが決まらなかったのかなって思ったこともありました。
EMTG:東北には、景色や空みたいにすごく広いっていうイメージもあるけど、例えばわかりやすいところだと、そこで触れられる音楽やカルチャーになるとものすごく限られているんだろうなってイメージがあるんです。その人がいくらセンスや眼力を持っていたとしても、そもそもの選択の幅が狭いような。
日食なつこ:それはすごくあると思います。選べるものが全然少ないんですけど、少ないからこそ、残ってるものにはちゃんと残っている理由があるというか。音楽にしても、教えられることにしてもそう。理由があって残っているものがあそこにはいっぱいあると思います。だから、そういう教えは一度入ったら抜けない。逆に東京に引っ越してきてみると、人がいっぱいいる分、考え方も千差万別。どんな考え方も認められるというか。その千差万別感を、この作品で否定したかったというか。
EMTG:なるほど。
日食なつこ:東京に越してきて4年、千差万別の中で結構揺れたんですよ。今まで20何年間向こうで培ってきた価値観をぶっ壊されるような出会いとかもいっぱいあって、もしかしたらそういう考え方が正しいのかなってブレる瞬間もいっぱいあったんです。でもそこでブレて譲ってしまったら、私の生まれた土地の教えは死んでしまう。そうなると、多分私は向こうに戻れなくなる。だからあえて、そこは忘れてないです、大丈夫ですっていうのを表明した買ったんですよね。
EMTG:このアルバムを聴いた第一印象は、日食さんすごいもの作ってしまったなということでした。ドスンと、作品としての重みがあるというか。
日食なつこ:自分でも聴き返すのに「よいしょ」っていう気合いが必要な作品になったというか(笑)。作ってる最中はそうでもなかったけど、制作がひと段落して聴き直そうって思った時に、どの曲にどういう決意を込めたかを思い出して、最後まで聴くには結構精神的な体力が必要でした。そういう作品なんですよね。お客さん的には楽に聴けたほうが楽しいと思うけど、そこはコントロールできなかったというか。レコーディング中はいつもどおり、いつも以上に楽しくてキラキラするような作品、いろんな工夫を詰め込んだいつもとそんなに変わらない作品としてやってたけど、作り終わってみたら「重っ!」「メッセージ、詰まりすぎじゃないか」と思っちゃって(笑)。自分でもこんなに重い、強いメッセージが詰まったのは意外でした。
EMTG:強いメッセージといっても、誰か他の人に向けたもの、聴き手を扇動するようなものではないんですよね。
日食なつこ:そなんです。書き初めみたいなもので(笑)。ここまでの総まとめとこれからの決意表明を、力を込めてグーッと書いてバン! とわかりやすくだしたような作品なので。
EMTG:あくまでも自分の気持ちであり、共感を求めるものではないという。
日食なつこ:共感ではないですね。ここまでの生き方とか考えてること、好きなこと許せないことみたいなものを、10年の総括として出しました。
EMTG:タップやフィドルなどのレコーディングはどうでした?
日食なつこ:ピアノとは別部屋にタップのSAROさんに入っていただいて、お互いの顔が見える状態で、クリックを使わず2人のテンポ感だけで一発録りしました。以前「FESTOON」という作品の「レッドデータクリーチャーズ」という曲でタップとやったことがあったんですが、その曲が自分の中でもいいところに落ち、お客さんにも長く人気があった曲だったので、もう一回どこかでタップだけとやってみたいというのがあったんです。今回いい感じの曲が上がったので、ここで挑戦しようかなと。ある程度決めてる部分は同じようにやってくださるんですが、それ以外はニュアンスだけ同じで全く違うことを即興的にやられてましたよ。
EMTG:それこそ、日食さんが求めているバトル感ですよね。
日食なつこ:そうです、そうです。決めきったことはやらないというか。演じている2人の間で色々睨み合いがあって、ちゃんと音が生まれてくる。そういうことがやりたかったので。そういう意味では今回のタップもフィドルも、すごくいいものになりました。
EMTG:MVも公開されている「white frost」はどういうきっかけで作った曲なんですか?
日食なつこ:結構前なんですけど、雪深い場所に個人的に行って2~3日滞在したんですね。そこから東京に帰る時に、すごく帰りたくなくて。でも帰らなきゃいけない。だったら心だけはいつでもこの、雪がしっかりあって誰の手もつけられてない場所に帰れたらいいな、だからこの場所は誰にも汚されずに残っててくれよっていう願いを残して東京に戻った経験が元になってできました。
EMTG:このアルバムのベーシックになっている気持ちが、その曲の中にも生まれてたんですね。
日食なつこ:はい。この曲、前半は打ち込みで、後半から生オケというのをずっと考えてたんです。前半の機械的な打ち込みの部分は、生まれた場所とか帰りたい場所から遠ざかって、願いをただただ自分の中で繰り返して頑張って生きている自分。後半の弦カルテットの部分は、そこから一気に解放されて、帰るべき場所、生きたい場所にちゃんと心がたどり着けている。そういう風になっています。
EMTG:「話」は日食さんひとり、アコースティックギターの弾き語りなんですよね。ピアノじゃない曲がアルバムの最後を飾る感じも、アコギの弾き語りも、意外過ぎて驚きました。
日食なつこ:レコーディングは苦労しましたけど、ピアノじゃない私もいるんだよっていうことで。普通じゃ終わりたくないというか、まだ日食なつこはちゃんと挑戦してるんだよっていうのを、お客さんをいい意味で裏切る形で見せたかったんです。きっとこの曲を聴いて、「日食なつこ、まだ変な引出しあるんだ」って思ってくれると思う(笑)。
EMTG:今回の初回限定盤では、ニュージーランドでの撮影オフショットを収めたブックレットやDVDも見られるんですよね。こういう試みも珍しいです。
日食なつこ:これまではライブのMCでちょっと人となりが見られるくらいだったと思うんですけど、こんな風にガッツリと密着したドキュメンタリーは今までなかったですからね。それが、雪と氷がある場所でできて良かったなって思います。自分が生まれた場所に近いところで撮ったから、嘘がないんですよ。大自然の真ん中でただただ練り歩く日食なつことか、インタビュー的な感じで話を振られてもそんなに喋らないとか、寒すぎてちゃんと字が書けてなかったりもするけど(笑)、日食なつこのそのままを見てもらえるものになったと思います。

【取材・文:山田邦子】




■ミュージックビデオ

日食なつこ「white frost」12th MV

tag一覧 J-POP アルバム インタビュー 女性ボーカル 日食なつこ

リリース情報

永久凍土

永久凍土

2019年01月09日

living,dining&kitchen Records

01.vapor
02.空中裁判
03.100
04.モア
05.seasoning
06.メイフラワー
07.Misfire
08.お役御免
09.致死量の自由
10.タイヨウモルフォ
11.8月32日
12.white frost
13.話

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一軒家 山奥

ピアノを弾くので、24時間いくら弾いてもクレームが来ないくらいの場所にある一軒家に引っ越したくて。
今は近所のスタジオに予約をして行くんですが、弾きたい時に弾けなかったり、もう弾きたくないってなった時でもまだスタジオにいなきゃいけなかったりするので、環境を整えたいなと思っているんです。
このコーナーの最初の時も住環境のことでしたけど、相変わらず安住の地を求めて彷徨い続けてます(笑)。



■ライブ情報

▲Sing well▲Tour
02/11(月・祝)福岡イムズホール
02/16(土)東京EX THEATER ROPPONGI
03/02(土)札幌くう<追加>
03/03(日)札幌サンプラザホール
03/08(金)広島Live juke<追加>
03/09(土)高松オリーブホール
03/16(土)新潟新潟県民会館 小ホール
03/17(日)石川もっきりや<追加>
03/21(木・祝)名古屋ダイアモンドホール
03/23(土)岡山さん太ホール
03/27(水)東京キネマ倶楽部<追加>
03/30(土)盛岡岩手県公会堂

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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