ヨルシカ、待望の1stアルバム『だから僕は音楽を辞めた』が遂にリリース!

ヨルシカ | 2019.04.11

 ボカロPとしても活躍中のコンポーザー・n-buna(ナブナ)と女性ヴォーカル・suis(スイ)によるバンド、ヨルシカが2ndミニアルバム『負け犬にアンコールはいらない』からは1年ぶり、バンド史上初の1stフルアルバム『だから僕は音楽を辞めた』をリリースした。ミュージックビデオが公開されている「藍二乗」や「八月、某、月明かり」やインスト4曲を含む全14曲で構成される本作は、音楽を辞める決意をした青年がスウェーデンを旅しながら“エルマ”に向けて綴った手紙を連ねることによって物語が展開していくコンセプトアルバムとなっている。青年はどうして音楽を辞め、エルマに手紙を書いたのか。「できるだけリスナーの想像の余地を残しておきたい」という二人の思いに留意しながら慎重に話を聞いた。

EMTG:今回、インタビューがちょっと難しいなと思ってるんです。作者に聞きたいことは山ほどあるんですけど、ここで全てを聞いてしまうのも違うなと感じていて。
n-buna:そうですね。僕もアルバムの概要やコンセプトだけを説明して、あとは、視聴者の方に委ねたいなと思っています。最低限の情報は与えつつ、あとは自由に楽しんでくださいっていうのが理想的かなって思ってます。
EMTG:では、まず、コンセプトを考えた、発想の出発点からお伺いできますか?
n-buna:じゃあ先にこのアルバムの正確なコンセプトについて。このアルバムは青年がスウェーデンを旅して書き溜めた音楽や手紙の入った木箱が、エルマの元に届いた瞬間を描いたコンセプトアルバムです。この初回盤の木箱を手に取った人たちが、エルマが手紙を手に取って読み始めたその瞬間を追体験することをテーマにしています。そもそもの発想の始まりは、アルバムの最後に入っている「だから僕は音楽を辞めた」という曲を結構、昔に作っていて。アルバム初期の構想段階で、音楽をやめた青年の話をコンセプトにして、この曲を軸に膨らませていこうというところからスタートした感じですね。
EMTG:どのくらい前に作った曲でした?
n-buna:3、4年前かな。初期衝動がだんだん薄れていく中で、どう創作を続けていこうかっていう時期に作った曲だったんです。あんまり音楽を作れなくなったというか、作らなくなった時があって。音楽に対しての意義とか、音楽のあり方とか、難しいことをいろいろ考えてたんですよね。今、振り返ってみると、青臭い歌詞だなと思いますけど、自分では面白いことを考えてたんだなとも思いますね。
EMTG:suisさんはどんな気持ちで歌いました?
suis:私は自分が音楽をやめる青年の気持ちになりきってました。自分にはない記憶を勝手に捏造してというか(笑)、青年になりきって、入りきって演技をする感じで歌ってますね。
EMTG:これまでよりも感情を込めているように感じました。
n-buna:今回に関しては、ヴォーカルのディレクションをあまりせずに、本当に自由に歌ってもらったんですよね。あえてスタジオに行かずに、音源をもらってあとから聞くっていう制作のやり方になってて。
suis:任せていただきましたね。1枚目と2枚目のミニアルバムではかっちり歌ってたんですけど、今回から歌を自由にとらせてくれて。だから、n-bunaくんには「許してくれるかな?」ってドキドキしながら渡したら、許してくれました。あははは。
n-buna:いや、むちゃくちゃいい! って思ったよ。自由にやってもらってよかったなって思います。
EMTG:(笑)初回生産限定盤のボックスの中に封入された手紙によると、この曲は8/25に書かれています。日付に関しては後ほどお伺いしたいと思いますが、「だから僕は音楽を辞めた」という曲からどう広げていきましたか?
n-buna:アルバムがちゃんと作品として機能しつつ、パッケージとして価値のあるものにしたかったので、音源が入っているCDに付随して、物語を補完するものとして何を入れようかっていうことを考えて。一番最初に、箱を作って、手紙を入れる方式にしようっていうことを思いついたんですね。音楽を辞めた青年が何を使って自分を表現するかっていうところで、書き溜めた手紙や歌詞をエルマに送るっていうことを考えたところから始まりましたね。
EMTG:青年にとってエルマというのはどんな存在ですか。また、これまでの2作に出てきた“君”や“僕”との繋がりはありますか?
n-buna:このアルバムに出てくる“君”は全て“エルマ”のことですね。それ以外は僕は言わない。前2作との繋がりも「全然ない」と言い切っちゃうと想像の余地を狭めてしまうので、そこも自由に考えてもらえたらいいなって思ってます。
suis:恋人だったのかもわからないし、友人かもわからないし。私も青年とエルマの関係性はわからないんですけど、恋人とか友人という枠ではなく、僕にとっては、人生の全てになっちゃうような時間を共にした子だったんだなっていうのは感じていて。執念にも似た“妄執”のような気持ち。誰の人生にもいる人ではないと思うんですけど、青年にとっては、そういう相手がいたんだなっていうことを想像しましたね。
EMTG:1つだけ確認してもいいですか? “僕”=ヨルシカではないですよね。
suis:確かに、ファンの子達とかは、「音楽やめちゃうのかな、n-bunaさん」って思っちゃう人もいるだろうなって思いました、私も。
n-buna:全然ないです。こういう物語を作りたかったんです。まだまだ作りたい音楽もありますしね。僕の創作の原動力は、いかに、自分が美しいと思うものを作れるか。自分が価値があると思うものを作れるかに尽きる。そういうところで僕は、きっと、音楽をやってる人とか、ひいては音楽をやっている自分に刺さるものを作りたかったんだなと思います。
EMTG:では、「だから僕は音楽を辞めた」からスタートして、制作上で最後にできた曲は?
n-buna:一番最後にできたのは「六月は雨上がりの街を書く」ですね。このアルバムを作るためにスウェーデンを旅してきて。僕が幼少の頃に行ったガムラスタンという街にいた時に、雨が降ったんですよ。めちゃくちゃザーザーと降りまして。外に出る気が起きないなって思いながら、ホテルの部屋で詞を書いてました。そこから生まれた曲ですね。
EMTG:この曲には、MVが公開されていた「藍二乗」とつながる《今の暮らしはi2/君が引かれてる0の下》というフレーズが出てきます。
n-buna:このアルバムのどこかで「藍二乗」の解釈というか、答えあわせを出そうと思ってて。いろいろな意味はあるんですけど、そのなかの1つですね。大きな意味での原基は、2乗すると「-1」になる虚数単位の「i」と、インクの藍色の「藍」の2つですね。もう1つ、この曲の中でのキーワードというか、「藍二乗」の歌詞では“僕”が空を見上げていて。視界が涙で滲んで、空の藍色が涙で二重に見える、その二乗ですね。その3つの意味がタイトルの由来の大きな部分ですね。
EMTG:MVが出た時に「これは-1のことなんじゃないか」っていうコメントもありました。
n-buna:びっくりしましたね、僕。「あ、わかる人いるんだな」って。最近、YouTubeやTwitterで、僕の曲や歌詞に関して、いろいろと考えてくれる人が増えてきていて。たまに設定やプロットを当ててくる人がいるので、こんなに少ない情報からよくやるな? と思いますね(笑)。そうして、ユーザーの子達が想像を膨らませて楽しんでくれてるのを見るとよかったなと思います。あと、この曲は、いいヴォーカルが録れましたね。
suis:そうですね。ブラックというか、感覚として、ちょっと怖い感じですかね。歌ってる側は青年ではあるんですけど、もしも自分がこの気持ちを迎えるエルマだったとしたら、《あの街で待ってて》って静かに言われたら怖いなって思って。
n-buna:関係性によってはやばいよね。
EMTG:エルマ側の気持ちで聞いてなかったので、それは新鮮な感想です。女性側の気持ちを考えたことがなかったなって気づきました。
suis:受け取る方としては、ちょっとゾッとするくらいの気持ちの大きさなんですよね。怖いくらいの気持ちの重さを意識して歌いましたね。
n-buna:さっき、suisさんがブラックって言ったんですけど、別の意味というか、音楽的に黒いノリもあって。曲調のはねた感じだったりは、サポートドラムのマサックさんがうまく叩いてくださって。楽曲的にも気に入ってますね。
EMTG:今回は「7/13」や「4/10」などのインストも黒いですよね。アルバム全体としては、バンドサウンドによるギターロックやダンスロックが主体ですけど。
n-buna:そうですね。「4/10」は1、2年前から北米や欧米で流行ってるローファイヒップホップのノリは意識してますね。「7/13」はアーバンR&Bな感じ。いろんなインストを作ろうと思いつつ、インスト系は打ち込みを基調としたもので、鍵盤が綺麗に乗るっていうのを意識してやってます。
EMTG:先ほど、ガムラスタンで曲を書いたとありましたが、“僕”がスウェーデンに旅に出たのはどうしてですか?
n-buna:僕が昔、住んでた場所だからですね。幼少期だったので思い出の美化もあると思いんですけど、その頃に見た景色は、昔からとんでもなくきれいなんですよ。僕の中で一番美しい景色がそこにある、という。それに尽きますね。久しぶりに行ってみたら、めちゃくちゃよかったです。ストックホルム自体もいい街ですね。
EMTG:その街の景色や旅が本作の創作にも影響を与えてるんですよね。
n-buna:そうですね。僕は風景から曲を作り、歌詞を書くタイプなので、全体的にそうです。スエーデンを旅してた青年が思ったことを書き溜めた手紙や歌詞というアルバムのコンセプトと同じように、僕自身も旅をしながら、歌詞を書き貯めたり、曲を作ったりしてました。
EMTG:旅の中で歌詞や曲を作った順番とアルバムの曲順は違ってますよね。
n-buna:アルバムの方は、この順番でエルマに見て欲しいっていうことですね。初回生産限定盤の手紙の方は、青年が旅を終える直前に今まで自分が書いたものを見返しながら、適当にどんどん箱に入れていって。一番最後に「8/31」の手紙を書き始めるという感じですね。
EMTG:アルバムのトレイラー映像はアルバムの曲順とは違ってました。
n-buna:トレイラーの方は日付順ですね。「8/31」から、自分の作ったものを思い返してる順番で、最後に巻き戻して、「8/31」に戻ってくる。それが初回盤ですね。エルマに送られた状態。
suis:あの映像には12曲目の「エルマ」だけ入ってなかったんですね。
n-buna:そうだ。手紙が進むにつれて、インクがなくなっていくので、インクがかすれていくんですけど、8/31の日付で「エルマ」が書かれているんですよ。だから、箱を閉じる直前、一番最後に残ったインクで描いたのが「エルマ」ということになりますね。あの時点では書かれてないから、入ってなかったんです。
EMTG:初回盤には「藍二乗 3/21」から「エルマ 8/31」まで、タイトルに後に曲が書かれた日付が入ってます。
n-buna:だから、このアルバムはいろんな楽しみ方があると思うんですよね。青年の旅を追体験するっていう意味では、3月から始まり、4月に旅に出て、一番最後に「エルマ」を聞いて、アルバムが終わるっていう風に並び替えて聴くのが一番最適化に近いかな。手紙の方は実際に日付順に書いていってるので、手紙も合わせて楽しんでもらえたらいいなと思います。
EMTG:手紙の方にある「君の詩に月明かりを見た」という言葉を見た時に、「八月、某、月明かり」やティーザーの英語タイトル「Moonlight」の意味がわかってハッとしました。
n-buna:アルバムのコンセプトの1つとして、一番最初に決めたのが「月明かり」だったんです。だから、楽曲を聴いて、歌詞や手紙を読んでもらえたら、いろいろとわかることがあると思います。
EMTG:ちなみにsuisさんには物語の内容やそれぞれの登場人物についてどのくらい伝えてるんですか?
n-buna:全然教えないんですよ、僕。
suis:そうなんです。実は手紙もまだあえて読んでなくて。考察という意味でも楽しめると思うんですけど、私は、発売した時に、この箱をもらったエルマになったつもりで読もうと思ってます。だから、皆さんにも、青年としての物語の追体験と、エルマとしての追体験を、どっちもして欲しいなって思ってます。ボックスの大きさも含めて、迫力のある作品になったと思うので、早くみんなの元に届いて、誰かはしゃいでくれるかなっていうのが楽しみでしょうがないですね。
EMTG:音楽=人生と考えている青年の物語を作り終えて、次は何かもう考えてますか?
n-buna:この物語がどういう風に終わって、どういう風に続いていくのかは自由に好きに想像してくださいって感じなんですけど、このアルバムの続編を夏にリリースします。この青年が続きを書いていたのか、全く別の物語なのか。いろいろと想像しながら楽しみに待っててもらえたらいいなと思いますね。

【取材・文:永堀アツオ】

リリース情報

だから僕は音楽を辞めた

だから僕は音楽を辞めた

2019年04月10日

U&R records

01. 8/31
02. 藍二乗
03. 八月、某、月明かり
04. 詩書きとコーヒー
05. 7/13
06. 踊ろうぜ
07. 六月は雨上がりの街を書く
08. 五月は花緑青の窓辺から
09. 夜紛い
10. 5/6
11. パレード
12. エルマ
13. 4/10
14. だから僕は音楽を辞めた

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n-buna[ナブナ](Guitar / Composer)
「サークル・オブ・フィフス」(五度圏)
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suis[スイ](Vocal)
「黒船/来航」
私は「黒船/来航」を調べてますね(笑)。ふとした時に、鎖国していたコミュニティに、新しいものを持ち込んだ人がいた場合に、そのコミュニティはどういう風に崩壊していくんだろうっていうのを考えてて。ペリーってどんな気持ちだったんだろう? って。例え、いいものを持ち込むんだとしても、元々あったコミュニティは壊れてしまう。もしも自分がペリーになったら、どういう覚悟を持って入っていけばいいのかなっていうことを考えてましたね。

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