無二の2ピース、ドミコのさらなる進化系――『VOO DOO?』からわかること

ドミコ | 2020.04.15

 昨年は「ペーパーロールスター」がApple Musicの日本独自CM「5000万曲で忘れられない夏に」に起用されたことなども追い風になり、従来のファン以外のリスナーにもリーチしたドミコ。今年1月に単発で行ったライブにも新しいファンが少なくない割合で訪れていた。好状況の中、すでに先行配信されている、ギターサウンドのイマジネーションを究極まで拡張した世にも奇妙なナンバー「化けよ」や、十八番のガレージライクなロックンロール「びりびりしびれる」など全7曲を収録したミニ・アルバム『VOO DOO?』を4月15日にリリースした。一度聴いたらクセになるドミコの世界の進化バージョンは何をきっかけにスタートしたのか?――今回は、本作のタイミングからインタビューにドラムの長谷川啓太も登場。無二の2ピースの関係性も窺えるはず。

――1月の下北沢GARDENのライブを見てブルースモードに入ってるなと思ったんです。
さかしたひかる(Vo/Gt):そうですね。最近はライブセッションとか、「あ、意外とルーパー使っててもいけるんだな」みたいのを知ってからは、そういうの取り入れるようになって。
――ルーパーを使っててもというのは?
さかした:ルーパー使うとバッキングをループして弾くじゃないですか。YouTubeとかで人のもよく見るけど、オケにギター合わせてるみたいで、ライブでやっても躍動感ないし、インパクトもないし。ただただそれを延々と聴いてるのは好きじゃないんで、自分たちはやってこなかったんですけど、ドラム・プレイとか常日頃からリクエストをしていくうちにちょっとずつ上達して、ライブでもセッション的なパフォーマンスができるようになって。
――今回の『VOO DOO?』にも入ってますけど、ホワイトブルース感を、ひかるさんのトレモロアーム使いなどに感じて。若い人には逆に新鮮なのかもしれない。
さかした:新しい境地に行ったっていうよりは、やりたかったことが普通にノンストレスでやれるようになって解放されたっていう部分も、半分ぐらいはありますね。
――なるほど。
さかした:特に今までって、曲始まったら歌で曲を敷き詰めてて、ライブもどこで俺休むんだろう?ぐらいに声が敷き詰められてた曲が多かったけど、今回は結構ゆとりっていうか、ギターソロでつなげたり、後半に演奏入れたりとか、そういう展開がかなり増えて。そこは、ライブスタイルのフィードバックからのアレンジの影響っていうのは大きいかもしれないですね。
――長谷川さんは取材では初めましてですね。
さかした:今日は人生で3本目ですね。
長谷川啓太(Dr):そうですね。今まで全然出てこなかったですけど。
――長谷川さんから見た、さかしたひかるっていう、ソングライターであり、表現者はどういう人ですか?
長谷川:そうですね……全てにおいてストイック。抜けてるイメージとかあるのかなと思うんですけど、なんだろな? 性格はわかんないですけど、僕が見る限りのところは音楽に関しては全てにストイックで、多分、誰よりも音楽を愛してるとは思いますね。
さかした:「誰よりも」ってことはないわ(笑)。
――ちなみに、スタジオにすごく入っていたという話をライブの後に聞きましたが、それは今までにないぐらいの頻度で入ってたということ?
さかした:そうですね。ドラムに時間をかけるようになったんで。今までって、上物、ギターとかメロディが良ければもうなんでもいいと思ってて、何叩いててもいいぐらいな感じだったんで。でももうちょっと曲のあり方を探そうかなっていうか、どれがベストなのか?みたいな。普通の曲メインのビートであっても、細かいとこまでキックの数、スネアの数っていうのはめちゃめちゃ突き詰めるようになって。結果、ほぼ曲作りにおいて、半分ぐらいは何かしらドラムの話をして。
長谷川:今まで多分、手癖とか、ループが主にあるものに対してドラムを作ってて、ちょっと縛られるようなイメージがあったんで、それもちょっと崩したかったというか、そういう感覚はありましたね。
さかした:崩したかったというか、崩れなかったから、俺が崩したかった。だからレコーディングに入る前に、教材じゃないけど、レゲエのライブアルバムを(長谷川に)聴かせて、フル・コピーさせて(笑)、その状態でスタジオに入って。ま、ちょっとアウトプットにエッセンスを、とか、手を加えたみたいな。で、そこから曲に対する見方とかも幅が広がって、どんどん意思疎通のスピードも変わったかなっていうのはありましたね。
――レゲエはスネアを打つ数はすごく少なかったりしますもんね。ちなみにレゲエは何をリファレンスに?
さかした:Scientistっていう、昔のレゲエ(ダブ)の人のライブアルバム。
――長谷川さんとしては、すごく間がある感じ?
長谷川:間とかもそうですし……。
さかした:結構、長谷川って、癖としては音を埋めたがるんですよ。こっちがガーって弾いたら、長谷川もガーって叩く。それはあんまりかっこよくないんで、結構この1年で、そこら辺をライブでも曲でも修正していったかなと。とにかくやってることが全部真逆っていうことを教えてって、それが結構実ってったっていうアルバムでもあるし。
――今回ミックスも輪郭が明確ですね。
さかした:そうすね。レイヤーっていうか重ねがめちゃくちゃ少ない。そういう浮遊感っていうのではなく、一つ一つのフレーズが最低限のもので収まってるっていうか。ループがあるから無限に重ねられるから、下手したら普通のバンドより音数が多くなりがちなので、そこら辺を気を付けたり――気をつけたりというか、潜在意識に含まれちゃってましたね。
――「化けよ」自体は制作段階のいつ頃できたんですか?
さかした:これは一番最初に作って。ほんとはインストで作ろうかなと思ってて。最近はライブでも、歌わないで弾き倒す時間が長くなったりして、そこにちょっと引っ張られすぎて、インストでもいいかなと思ったんですけど、結構面白い仕上がりになったから、軽く歌つけようって、結構ギリギリに思いついて。歌入れることにしました。
――「エレクトロなんて、へっ!」ぐらいのギターが痛快で(笑)。
さかした:いや、すごいっすよね(笑)。「これ全部ギターですか?」って結構言われます。逆にギターなんすけど(笑)。「やりたい」の方が勝ってるんですよね、かっこいいんじゃないか?ってよりも。弾いたら面白いな、やりたいなって感じで。
――そもそも、この曲は何がやりたかったんですか?
さかした:最初は、どっちかというと1曲目の「おばけ」の空気感で、もうちょっとBPMが早いんですよ。「おばけ」はドラム入ってないけど、「おばけ」の感じで、ちょっとバトルスっぽい、ツツッタ、ツツッタ、みたいな170ぐらいのBPMで。
――高速のマスロックですね。
さかした:そうです、マスロックっぽい。で、アルペジエーター使ってるから、パン!て一音弾いたら「タタタタ~ン♪」てなるじゃないですか。でも最初はポストパンクっぽいものに行こうとしてたんですよ。ドミコでそういうポストパンクをやったことがないというか、あんまり使って来てなかったので。どうしてもガレージとかのイメージが強いじゃないですか。で、やったらどう聴こえるんだろう?と、ちょっとゴールわかんないけどやってみて。かっこよかったけど、これドミコでやっても微妙だなと思って、最後の最後で、「ビートちゃうなぁ」って何個か……。
長谷川:試したね。
さかした:そのレゲエのやつから何個か引っ張ってきて。それに当ててみて、「あ、これだったら面白いかも」と。俺がそれにあのウニャウニャのフレーズを即興でつけて、「あ、こりゃまた別の曲になりそうだな」って感じで、「化けよ」はできました。
――この曲って、トラップの拍の取り方にも似てるなと思うんです。長谷川さんはどういうドラムの拍の取り方に着地したんですか。
さかした:これ、俺も喋っていいですか?
――どうぞ(笑)。
さかした:これはBPMのパターンを4パターンぐらい出して、もったりしすぎても後半のパート、倍テン(ノリを倍速にすること)になるじゃないですか? あそこも映えさせたいし、普通のゆっくりのダーン、ダッダッダーンってとこも速すぎると映えなくなるし。絶妙なとこを叩くにはどうしたらいいんだろ?ってとこで考えたよね?
長谷川:そうだね。BPM74とかその辺の数値でやってたんですけど。
さかした:ノーマルのタイムと倍テンのタイム、どっちも生きるのどこだろうな?で、74に落ち着いた。
――休符の部分に入るドラムのフレージングが効いてますね。
さかした:それがもろScientistのライブアルバムに。だからレゲエなんですよ、これは(笑)。
――ケミカルなレゲエですね(笑)。
さかした:ポストパンクやろうと思ってレゲエに行っちゃうっていう。
――ライブで初めて聴いた時も、ギョッとすると同時に「最高!」と思って、思わず笑っちゃいました。
さかした:(笑)。でもクセになるって感じは俺、音楽ですごい大事だと思うんですね。「ペーパーロールスター」みたいな感じで、早くてただ気持ちいいのも好きだけど、こうクセになるやつは一個、強烈なのがそろそろ欲しいなと思ったので。
――中毒性のバージョン2.0みたいなことかもしれないですね。で、リードトラックの「びりびりしびれる」は、いわゆるドミコらしいロックンロールチューンです。
さかした:まぁリードって選ばれてるけど、実際は何もないですね。このアルバムは全体聴いて欲しいんで。ま、一応選ばないのもちょっとあれかっていうのもあるんで。
――ミニアルバムってちょうどいい長さで、この尺だから集中して聴けるし。改めて思ったのは、ひかるさんが表現してるものって感情じゃなくて感覚なんだなと思いました。
さかした:ああ、そうかもしれないっすね。「この感覚!」みたいな。確かに、他のライブとか見てても分析しちゃうんですね。ここのフレーズはなんでこんな聴こえ方してんだろう?みたいな。すごいいいんだけど、なんだろう?あ、ここでベースがこう弾いてるからか、みたいな。あとからなんですよね、僕。直感的に原理がわかんないっていうか。
――感情とか概念を表現してる音楽が大多数な中で、やっぱり突出してると思う。
さかした:あー、なるほど。僕は結構自分の意思とか感情っていうか、考え、思いとかは投影させられないので、とにかくいいじゃんこの感じ、とか、このなんか懐かしくなる感じをどうにか表現したいとか、そういうフワッとした始まりが多いですね。
――それが今回、明快に伝わる感じがします。またドラムの話に戻るんですが、skillkillsのビートさとしさんがテックで入ってらっしゃいますね。
長谷川:もう『soo coo?』の時からテックに。
さかした:毎回、音を更新していくんですよね。鳴らし方の向上もあると思うんですけど。一枚前と、そもそもの叩くパワーが違うんですね。一枚前はなぜかすごく弱く叩いてて。『Nice Body?』は全部スネア鳴ってなかったもんね。
長谷川:そのときは、自分でも鳴らして「これだ!」ってつもりだったんですけど、鳴ってないってことがわかって(笑)。
――エンジニアさんは変わったんですか?
さかした:全部一緒です。周りは同じで固まってて。でも一枚一枚、どんどん良くなっていくんで。2人で実際鳴らしてる音はバンドサウンドじゃないですか。けど、2人でそこに近づけるのって、どこをどう足して、どこを抜くか?みたいなところが教科書はないんで、そこの試行錯誤みたいなのが、枚数重ねてきて、経験値が上がっていいものに近くなってきたんだなって思ってますね。
――終盤に「さなぎのそと」と「地動説」が出てくるから、より思うんですけど、共通して面白い感覚って身体性と関係があると思って。それがこれらの曲でダイナミックに感じられるんです。
さかした:自分では変化とかはうまく言葉で説明できないですね。
――ドミコがクセになるのって身体性と関係がある気がしてて、それが今回纏まってると思いました。
さかした:良かった~。年取ったんでね、研ぎ澄まされないともうヤバイぞっていうのもある。
――自分が聴きたいものの好みが変わってきた部分は?
さかした:結構、弾いて気持ちいいな、演奏して気持ちいいなっていうのがモロ出てるなっていうのはあるんですけどね。前のアルバムは結構「歌いたい」とか「声に出したい」とかの方がデカかった気がするけど、今回は普通にギターにも寄り添って。「ギター楽しいな~」みたいな(笑)。そんな感じですね。
――「ギター楽しいな」っていうのって定期的に訪れるんですか?
さかした:モードなのかな? でも俺、去年、アルバム作る前は声帯の問題で3ヶ月間ぐらい声がうまく出なくなって。そこからほとんど声出さないでやってたから、結構、ライブでもギターに集中するようになって。その流れもあるかもしれないですね。副産物というか。
――なるほど。大体、新譜を聴くたびにギョッとするんですよ。自分がどう反応するかを楽しんでるところがあります。
長谷川:ああ、そういう楽しみ方。
――で、「化けよ」みたいな新しい曲もあれば、「びりびりしびれる」みたいにドミコっぽい曲もあるし、ラストの「地動説」みたいな淡い、うっすらした曲もある。
さかした:毎回入れちゃうんですね(笑)。やりたくなる。ギターは死にかけの虫みたいな。
――虫繋がりなんですね。これまでドミコは水棲動物が頻繁に登場してたけど。
さかした:あー。それのイメージは多かったかも、今まで。
――人間、水中では息ができないですけど、ドミコの曲の中では想像できる感じで。
さかした:面白い、それは。俺の考えつかなかった概念。そんな感じでもいけますね。なんとか。
――じゃあ違うのかな(笑)。
さかした:わかんない(笑)。俺もよくわかってないんですよね。なんとでも取れるように書いたから。どうしても、しっかりドラム入って、とかロックサウンドで、とか丸々「曲」っていうものだと、肩透かしじゃないけど、抜いた雰囲気ができなくて。毎回、もうちょっとぬるーっと、やんわりした曲をアルバムになにかしら入れたいんで。休みポイントみたいな(笑)。そういうゆるーい曲じゃないと聴けない、聴かせられないような感じの重要さって知ってるし、必要だと思ったんで入れました。
――ところで、せっかく長谷川さんが取材初めましてなので、2人でやることの醍醐味ってなんなのか訊きたいんですが。
長谷川:うーん、なんだろうな?……自由さですかね。やり始めたときはすごい自由だなって思って、今も自由だなっていうのは変わらずあるんで、醍醐味は自由さじゃないですかね。
――担当楽器はドラムなのかもしれないけど、それ以上のものを感じますから。
さかした:やっぱり曲展開で、雰囲気作りにおいてもドラムの比重が普通の楽曲よりも大きくなってくるんで。アレンジ選びの重要性が普通のバンドのドラムよりでかいと思います。
――アップデートした音像のこのミニ・アルバムを携えて、5月から長いツアーもスタートします。
さかした:幻のツアーになるかもしれないですけど……ま、楽しみですね。ライブ・アレンジした時に映えるような伏線もアルバムに用意されてるから、今回、そこがどういう風にアップデートされんのか?とかは見所だったりすると思います。もちろん、大して変わらない曲もあると思うけど、どっちも楽しみだと思うので、ちょっと練習がんばっか(笑)。

【取材・文:石角友香】




ドミコ(domico) / びりびりしびれる(BIRIBIRISHIBIRERU) (Official Video)

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リリース情報

VOO DOO?

VOO DOO?

2020年04月15日

EMI Records

01.おばけ
02.化けよ
03.びりびりしびれる
04.噛むほど苦い
05.問題発生です
06.さなぎのそと
07.地動説
*タワーレコード&FLAKE RECORDS 専売商品

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

VOO DOO TOUR?
05/08(金)東京 TSUTAYA O-EAST
05/13(水)香川 高松 TOONICE
05/15(金)福岡 BEAT STATION
05/17(日)熊本 Django
05/22(金)京都 磔磔
05/24(日)岡山 ペパーランド
05/30(土)新潟 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
05/31(日)石川 金沢 GOLD CREEK
06/06(土)兵庫 神戸 music zoo KOBE 太陽と虎
06/07(日)広島 CAVE-BE
06/12(金)宮城 仙台 CLUB JUNK BOX
06/14(日)北海道 札幌 ベッシーホール
06/19(金)愛知 名古屋 JAMMIN
06/20(土)大阪 梅田 CLUB QUATTRO
07/11(木)沖縄 Output


ODD SAFARI vol.3
05/23(土)大阪 味園ユニバース

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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