The Songbards、各作品が連動した3部作の幕開けとなる第1章『SOLITUDE』リリース

The Songbards | 2020.09.18

 昨年10月にアルバム『CHOOSE LIFE』でメジャーデビューしたThe Songbards。心地よいハーモニー、透明感に満ちたメロディを響かせるこのバンドが、3部作をリリースすることになった。第1章となるミニアルバム『SOLITUDE』は、「孤独」を様々な形で浮き彫りにしていく。思春期の風景をイメージさせる描写を随所に散りばめつつ、あらゆる人生を肯定する温かなトーンを根底に脈打たせている作品だ。上野皓平(Vo/Gt)、松原有志(Gt/Vo)に、収録されている5曲について語ってもらった。

――どういう経緯で3部作をリリースすることになったんですか?
松原:前作を作った後に次の作品についてチームで話し合ったんですけど、その時点でデモが何曲かあったので、「ミニアルバムを出してから次のフルアルバムに向かっていけば?」ということになったんです。3部作になったのは、「それぞれの作品が繋がっているのって面白いんじゃない?」っていうざっくりとした発想でしたね。
上野:今までは明確にコンセプトを考えて1枚を作るっていうことをしたことがなかったので、そういう挑戦をしたいというのも思っていました。
――今作のタイトルは『SOLITUDE』ですが、「孤独」というものをどのよう捉えています?
上野:孤独とは「状態としての孤独」と「精神的な孤独」というものがあると思うんです。でも、思春期には「状態としての孤独」は、環境としてもなかなかないですよね。何かしらの小さなコミュニティに属しながら「精神的な孤独」を感じることの方が多いと思うので。今回の作品で描いたのは、後者ですね。
松原:『SOLITUDE』というタイトルは、皓平が提案したんです。このタイトルは、とある詩から引用しているので、そこからインスパイアされるイメージもありました。
上野:「窓に射す光のように」と「孤独と海」は、前作『CHOOSE LIFE』の曲作りの段階で半分くらいできていたんです。それを形にしたいというのもありつつ、今回の作品全体について考える中で、いろいろ膨らんでいった感じでしたね。
――今のご自身から生まれる曲のトーン、方向性について感じていることはあります?
上野:前作の「Othello」は、シェイクスピアの『オセロ』をもとに作ったんです。そういう実体験に基づかないフィクションの曲というのは、最近の自分が作るものとして増えてきていますね。自分ではない人になりきって歌詞を考えたり、フィクションの要素を入れつつ曲を作ることによって、「自分」という殻から抜け出す気持ちよさを感じるようになっています。今回の「リトル・ヴァンパイア」や「Dream Seller」は、自分の経験プラス、フィクションも入っているので、最近の自分のモードなのかなと思います。
――先ほどの松原さんのお話によると、『SOLITUDE』というのは、同タイトルの詩が由来のようですが、誰の作品なんですか?
上野:アメリカの詩人のエラ・ウィーラー・ウィルコックスです。その人の『情熱の詩』という詩集の中に収録されている「Solitude」は、孤独というものに関して僕がなんとなく思っていたことが表現されていて、読んだ時に納得させられるものがあったんですよね。
――サウンド面に関しては、何か考えていたことはありました? UKロック的な要素、歌声のハーモニーというThe Songbardsがもともと持っていた魅力が、より深まっている印象がしたんですけど。
松原:ありがとうございます。今の僕らがやれることをすごくやれました。今までだったら機材が足りなくて理想の形になかなかならなかったりもしましたし、自分たちが好きなものをそのまま出し過ぎることに躊躇もあったんです。でも、今回のエンジニアさんがUKロックが好きで、「この作品だったら、そういうことをやれるな」っていうのがあったんですよね。ギターサウンドもUKロックな感じがすごく出ていると思います。コーラスは前からビートルズの影響がありましたけど、今回はクイーンとかイーグルスを少し意識するようにもなっています。コーラスに関しては、これからも突き詰めていきたいです。
――サウンドのアプローチは様々ですけど、全体的にノスタルジーを誘うムード、トーンみたいなものがあるのが、今作の独特さだと思います。
松原:「懐かしい感じ」というのは、自分たちより若い人たちからも聞く感想です。そういうのはサウンドの残響感とかが醸し出しているものもあるのかもしれないですけど。
――「孤独と海」は、まさにノスタルジーを誘う曲です。ギターのアルペジオ、浮遊感のある残響は、ストーン・ローゼズ的だなと。ローゼズは好きですよね?
松原:大好きです。何度聴いてもいろんな発見がありますからね。サウンド面に関してはブラーとかレディオヘッドのイメージで作りだしたんですけど、曲を作りだす前辺りに聴いていた音楽の影響もありましたね。「遠慮なく影響を受けよう」と思って(笑)。
上野:自分たちの曲を客観的に聴いて、シンプルに「かっこいい」って思えることはなかなかなかったんですけど、この曲をエンジニアさんのスタジオで聴いた時に「かっこいい」ってシンプルに思ったんです。それは嬉しい感覚でしたね。
――「リトル・ヴァンパイア」も、気持ちいいサウンドが鳴っていますね。歌詞に関しては、陽の当たらない狭い世界に閉じこもって孤独を募らせている少年の姿をイメージしました。
上野:井の中の蛙というか。小さい世界しか知らないがゆえに激情的になってしまったり、感情が不安定になってしまう姿を描いています。
松原:やりきれない感情の曲ですけど、サウンドを暗いイメージにするのは違うのかなと。バンドサウンドとしては明るさがあるので、歌詞と対照的なものになっていると思います。
――「Dream Seller」は、歌詞もサウンドも切ないですね。
上野:そうですね。幼少期は「将来、何になりたい?」って、学校とかでたくさん訊かれましたよね。それに対して答えられるものを持っていなきゃいけないような雰囲気、「こんな素晴らしい夢がたくさんありますよ」っていうムードを、僕は子供の頃に感じていて。そういう作り物感、不自然さというのを曲にしました。
――子供の頃って将来の夢に関して、大人が喜ぶ答えを用意する感じもありましたよね。「本当は公務員になりたいけど、宇宙飛行士になりたいって言った方が大人は喜ぶんだろうな」っていうような感じで空気を読んだ経験は、僕も心当たりがあります。
松原:僕は「野球選手」って言っていましたね。
上野:僕は「サッカー選手」って言っていました。幼稚園の時は、「ポケモンのニャースになりたい」って言っていましたけど(笑)。
――(笑)。ブラックミュージック的な要素と日本的なウェットなメロディが融合しているのも、この曲の独特さだと思います。
松原:皓平の歌声は、歌謡曲っぽいというか。この曲にすごく合っているんですよね。
上野:おばあちゃんの家に小さいカラオケの機械があって、それで歌謡曲をよく歌っていましたからね。僕、安全地帯とか好きですし、そういうのが自然と出ているのかもしれないです。
――夏のエネルギッシュさの中にある切なさが醸し出されている「夏の重力」も、抒情性を醸し出す上野さんの歌声が活かされていると思います。
上野:夏って、おっしゃる通り、もどかしさとかやるせない感じがありますよね。そういうものを曲にしたいなとずっと思っていたんです。
――夏が切なさも含んでいる理由って何なんですかね?
松原:夏休みの思い出とかがみんなあるからなのかもしれないですし、夏の夕陽の色合いから感じるものもあるのかもしれないですね。
上野:生命の活気が一番あって、空が明るくて入道雲がきれいなのが夏ですよね。花で喩えるならば満開の季節というか。だからこそ過ぎ去るのが惜しい感覚も生まれるのが夏なのかも。風景を胸に焼き付けておきたくて、切ない気持ちになるんだと思います。
――この曲で醸し出されている夏のまぶしい光のイメージと、その次に始まる「窓に射す光のように」の柔らかな光のイメージのコントラストは、とてもきれいですね。
松原:「窓に射す光のように」は隙間のある音にしようと、制作の序盤から4人で話していました。隙間のある音にするというのは不安もあったんですけど、皓平の書いた歌詞がすごく良かったので、それとじっくり向き合えるものにしたかったんです。
――この曲はリスナーから寄せられた手書き文字のMVも、歌詞とじっくり向き合える仕上がりですね。
松原:あのMVは、ドラムの栄秀とベースの柴っちゃんがトリミングや編集をしてくれました。手書きの文字は、リリックビデオを10本くらい作れる数を送っていただけて、とても嬉しかったです。自然に書いた筆跡でも、人それぞれで個性があるっていうのも再確認しました。
上野:自分が書いた歌詞を他の人の字で見るというのは新鮮でした。「歌詞を自分が書いた」という感覚がなくて、他の人が作った曲のリリックを客観的に観ているような不思議さがあるMVなんですよね。
――3部作の第1作がこうして完成しましたが、今後の構想は既に固まっているんですか?
上野:具体的に考えているのは、次の作品だけですね。3枚目に関しては次の作品を形にすることによって、「こういうものにしたい」っていうのが見えてくるんだと思います。
――作品を形にすることによって、「The Songbardsとは、こういうバンドである」というのが、よりはっきりと見えてきたりもするんじゃないでしょうか?
松原:そうなのかもしれないですね。「The Songbardsとは、こういうバンドである」というのは一言で表せることではないですけど、これからも大事にしたいと感じているのは、やはりコーラスワークです。そこはこれからも変わらないと思います。
上野:そういう部分をさらに深めつつ、同じ時代に生きている人たちに対して、「生きるということに対して不器用ながらも真面目に考えてる4人がいますよ」というのを何となく感じてもらえるバンドでいられたらいいですね。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

SOLITUDE

SOLITUDE

2020年09月23日

Getting Better

01.孤独と海
02.リトル・ヴァンパイア
03.Dream Seller
04.夏の重力
05.窓に射す光のように

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