外は春の嵐。会社や学校によっては早期帰宅を勧めているところがあるにも関わらず、Shibuya duo MUSIC EXCHANGEには満員のオーディエンスが詰めかけている。それもそのはず、“ライブハウスツアー 2012 セレンディピティー~人生はステージだ！！~“は、渡辺美里史上初のライブハウスツアーなのだ。スタジアム・クラスのボーカルとパフォーマンスが間近に見れるチャンスとあって、会場には期待の熱気が渦巻いている。

　暗転になると、まず６人のバンドメンバーが現われ、続いて美里が登場。そのまま挨拶がわりの１曲目「ロマンティック・ボヘミアン」へ。最新アルバム『Serendipity』からのナンバーだ。開演前は、もしかしたらアダルトな音楽性を追求するステージになるのかもしれないと予測もしていたが、始まってみればパワフルなロックバンド・サウンド。続く懐かしい初期のナンバー「Long Night」で、会場は一気に一体化する。これは美里のライブ定番曲で、♪昔のままではいられない♪という歌詞がリアルに響く。“昔”の曲を“今”歌う美里に、丁寧にキャリアを積み上げてきたアーティストならではの潔さを感じる。

「ありがとう、みんな！　会いたかったよ。凄まじい状況の中、来てくれて、みんなの愛を感じます。私にとって初めてのライブハウス・ツアーです。デビューしてすぐにライブハウスで何本かやりましたけど、今年は９月まで40本近く全国を回ります。どんな世界が待っているのか、ワクワクしてます。今日はその初日。楽しんでいただきたいのと同時に、くれぐれも無理をなさらずに！」と笑いながら美里が言うと、会場も大爆笑。そういえばオーディエンスの年齢層は、ちょっと上目(笑)。だが、ストレートな熱気が立ち込めている。なにせ、春の嵐をものともせずに集まった奴らなのだから。

　サックスの入ったバンドは、美里の今と昔の歌を的確にサポートする。たとえば昨年の曲「新月」と、大江千里のカバー「maybe tomorrow」が、何の違和感もなく続けて歌われる。違和感どころか、そこには美里のエバーグリーンなスピリットが如実に表われていて、ハッとさせられた。「私、このライブハウスは初めてなんだけど、客席の真ん中に柱がなければいいのにね(笑)。でも、柱を突き抜けて届けますからね！」。

　レゲエ・アレンジの「ココロ銀河」からが、見事だった。初のライブハウス・ツアーを美里がどんなペースのセットリストで敢行するのか大いに興味をそそられていたから、いつ終盤の盛り上がりをスタートさせるのかを注視していた。そして、予想外に早く、ここから終盤が始まった。横に揺れる「ココロ銀河」、ブギーのリズムがかっこいい「SHOUT(ココロの花びら)」、16ビートのステップを刻みながら歌う「人生はステージだ！」と、力強く畳みかける。ピークは人気ナンバー「恋するパンクス」。強烈なスカのリズムに乗って客席を挑発し、自らのグルーヴに巻き込んでいくさすがのパフォーマンスに、しばし呆然とさせられる。美里のシャープな動きに反応して、バンドのメンバーも目いっぱいのパフォーマンスを披露。

「サンキュー！　最後にキスの嵐をと思ったら、本当に嵐が来てしまいました(笑)。初日に集まってくれてありがとう。これから全国に行ってきます」とラストナンバー「世界中にKissの嵐を」を」歌って本編が終わった。

アンコールでステージに戻った美里が話し始める。

「今日は命がけで駆けつけてくれて、ありがとう。ツアーの間の８月17日に、武道館で“美里祭り”が決定しています。武道館は18年ぶり。そしてこの秋にはミュージカルに初挑戦します。『アリス・イン・ワンダーランド』で“ハートの女王”の役をやります。初めての役が女王かと思っていたら、弟に言わせると『お姉ちゃんは家でいつも女王様だから』。ハマり役と言われるように頑張ります！(笑)」。ライブハウス・ツアー、ミュージカルと、初挑戦が続く、アグレッシヴな一年の幕開けにふさわしい初日だ。

　アンコールではダンサブルにアレンジされた名曲「My Revolution」が楽しかった。最後の最後は「eyes」で締めくくった。

激しい中に大人の表情を漂わせる曲があるかと思うと、バラードを初々しく表現する瞬間もある。全体に非常にメリハリの効いたライブで、“フレッシュ”という言葉がよく似合うツアー初日だった。美里はこの５月２日に、デビュー27周年を迎える。

【取材・文：平山雄一】