この日、THEラブ人間の歌手・金田康平は、MCにて力強く、「THEラブ人間は、次のフェイズに向かって行く!!」と宣言をした。そして、今回のワンマンが、これまでにケリをつけるようなライヴであること。そして、自分たちについてくれば、これからも素晴らしい景色を見せてあげられること。だから、これからも一緒についてこい!!...そんな歯切れのよい言葉の数々が会場に放たれ、それにアライアンスを組むかのような呼応が、何度もステージと客席との間で交わされていた。

　THEラブ人間は、この5月に待望の1stフルアルバム『恋に似ている』を発表した。そして、それは彼らのこれまでと今現在を凝縮したかのような、まさに1stアルバムに相応しい、初期衝動と代表曲たちが詰まった作品だった。そんな同盤を引っ提げ、全国ツアーを行った彼ら。そのツアーファイナルが、この日、東京・恵比寿リキッドルームにて行われた。
彼らの単独公演としては最大の収容人数となった今回のライヴ。にも関わらず、開演時間が近づいていくに連れ、フロアはみるみる人で埋まっていき、彼らがステージに現れる頃には、床は全く見えないほどになっていた。

　ライヴは金田の「さぁ、一緒に迷子になりましょう」の一言から幕を開けた。1曲目は「愛って悲しいね」。少々意外な気もした。しかし、観ているうちにそれも納得。ゆったりとしながらも、一歩一歩を確かめるような服部ケンジのドラミングと、扇動感と抒情性を使い分けた、谷崎航大のバイオリンが、一緒に明るい方向へと手を取って導いてくれる。そして、曲が進むに連れ、この後、彼らがこのライヴを通し、我々を「ラブ人間劇場」へと誘ってくれる、そんな確信が強まっていく。2曲目からは、ポップな要素が呼び込まれ、明るい場所へと我々を引っ張り出す。新曲「アンカーソング」が、一緒なら宇宙までも行けそうな伴侶感とウキウキ感を、「わたしは小鳥」が、春のような温かい弾んだ感じを会場に引き込んでいく。と同時に、会場の各箇所では早くも大呼応が。鍵盤のツネモリサワもポップさや弾んだ感じを様々な音色で加えていく。
この日、一回目のハイライトは、4曲目に放たれた「西武鉄道999」だった。ポップで弾んだ4つ打ちの曲調の上、大合唱が巻き起った同曲。曲中にて歌われる西武鉄道が、自分の故郷の玄関に繋がっている光景を、多くの人が思い浮かべながら、一緒に歌っていたことだろう。

　レコ発記念と銘打っている通り、ライヴは『恋に似ている』からの曲が中心であった。でありながらも、間間で新曲も何曲か披露された。「♪生きて　まだ死んでいないなら、また海まで行こうね♪」と歌われ、観る者に"死んでたまるか!!"の気持ちを漲らせてくれた「病院」。同窓会のシーンから、自分がミドルティーンだった頃を会場中に振り返させ、これまでに得たもの、逆に今となっては失ってしまったものを省みさせた「未成年」が、次の彼らのフェイズへの期待を膨らませる。 また、ポップさや合唱等、身近さといった彼らの真骨頂の反面。「8月生まれのきみの結婚式」や「レイプミ―」では、突然断絶的で突き放すようなノイズや荒々しい音の壁が、我々にどうしようもない気持ちを吐き出させたり、魅了したりした。

　やはりこの日最大のハイライトであり、盛り上がりを見せたのは、後半部分の「これはもう青春じゃないか」「悪党になれたなら」「砂男」のステージ/会場交えての大合唱ソングの連発であった。このブロックでは、みんなが我が物顔で、まるで自分の為の歌かのように、誇らしげに心の底から一緒に歌を歌う。特に「これはもう青春じゃないか」の大サビでは、金田は歌わず、お客さんの大合唱のみで楽曲を成立させ、もはやアンセムと化した「砂男」では、会場中も終始大合唱。ラストに向けて会場全体の発光を促していった。
ラストは、ニューアルバムの1曲目を飾っていた「おとなになんかならなくていいのに」であった。比較的彼らのライヴでは1曲目を飾ることが多かった同曲が、この日は本編のラストを締めた。この位置で放たれることによって、楽曲にこれまでとは違った意味合いを帯びた印象を受けた同曲。それは安堵感や帰着感といった類の世界観。それらが会場中に発散され、例えようのない深い包容力がみんなを包んでいく。

　アンコールは2曲。「りんごに火をつけて（Light My Apple）」が、ベース&ボーカルのおかもとえみとのデュエットも交え、恋をしているかのようウキウキ感を伝え、アレンジが変わり、その変化に冒頭見まごった「京王線」では、終わってしまった恋を振り返させるも、大団円を会場に育んていく。 ダブルアンコールでは、新曲「bedside baby blue」が披露された。これまでになかった、ちょっとしたモヤモヤ感をあえて残させた同曲に、彼らのこれから進んでいくかもしれない道の一つが見えた。

　ライヴが進むに連れ、冒頭で述した金田のマニュフェストを多くの者が確信へと変えていった、この日。彼らが進んでいくその先に、これまで以上に素晴らしい景色を思い浮かべたのは、きっと私だけではなかっただろう。終演後、会場を後にする多くの人たちの嬉々とした表情が、それに同調するように映った。

【取材・文：池田スカオ和宏】
【撮影 : 坂本 正郁】