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ツアー連載3回目は少し視点を客席に……そこで見たフミヤ×お客さんの素敵な関係

藤井フミヤ | 2013.10.21

 開演時間が迫っていた。
 客席の最後尾で、座席ナンバーを確かめている男性の2組。30代前半くらいだろうか。手には、デザインチケットが握られている。ファンクラブ会員の特別チケットだ。2人とも大きなリュックを背負っている。地方から来たのだろうか。「間に合って良かった」と呟きながら、小走りで客席の中に消えていった。
 客席が埋め尽くされていく。
 いつもよりも、大きいざわめきが空中を舞う。
 最前列に座っていた1人の女性。プレミアライヴでの最前列に、何を思っているのだろう。彼女は、膝を揃え小さく体を丸め、顔の前で両手を固く組み、祈るようにステージを見つめていた。
 まだ明るいままの会場には、BGMが流れている。80年代の洋楽ヒット曲。マドンナの「ラッキースター」が流れたところで「あ、この歌知ってる」と笑いあうカップル。夫婦だろうか。広く客席を見渡せば、ほとんどの人が会話をしていた。その様は“話に花を咲かせている”という形容がぴったりな感じ。思い出話は、どんどん饒舌に、そしてだんだん声が大きくなるのが常である。ざわめきをいつもよりも大きく感じたのは、決して気のせいじゃない。
 定刻を少し過ぎた頃、ライヴはスタートした。

 9月21日からスタートした藤井フミヤの全国ツアー「藤井フミヤ 30TH ANNIVERSARY TOUR vol.1 青春」。約3カ月かけ全国で35公演を行うロングツアーだ。80年代?90年代初頭にかけムーブメントにもなったヒット曲「NANA」や「I love you,SAYONARA」「素直にI’m sorry」などはもちろん、ライヴで人気の高かったアルバム曲なども含め、たっぷり歌う内容である。 オープニングから、惜しみなくばんばん披露される“青春”の曲達。その象徴のひとつである藤井尚之のサックスがフィーチャーされたイントロが続く。1曲毎、尚之がワンフレーズ吹いただけで、半分泣き声のような歓声があちこちで上がった。

 本ツアーでは、藤井フミヤ本人がMCで“青春”の思い出を語るのも大きな特徴だ。彼の思い出の中には、いつでも観客=ファンの存在があった。それが、顕著に感じられたのがこのMCだった。「NANA」から、バンドメンバーで曲を作るようになった、作詞はほとんど自分がしてた、だからどんどん歌が“エロく”なった、それで放送禁止になったりもしましたと、フミヤ。「当時は何も考えてなかったんですねー、バカでした(笑)」と笑いをとった後、こう締めくくった。
「皆さんもしっかり成長したので(笑)。もうこんな歌も大丈夫ということで、ここからは大人の曲を何曲か。みんな十分大人になったでしょ? ……っていうか、もう実際、大人だもん、わかるよね?(笑)」
 フレンドリーな呼びかけに、会場は大爆笑。暗転するステージが、濃いピンクに染まる。リズムを刻むクレイジーなピアノのフレーズ。そこに尚之のサックスが、しなやかにと絡んでいく。まるで、狙った獲物に忍び寄るように。無数の真っ赤なピンスポットが、一斉に動き、ステージ中央のフミヤを捕える。フミヤは、ところどころに“あの日”のダンスを入れながら、フリースタイルでパフォーマンスし、あの日と同じ声で「ONE NIGHT GIGOLO」を歌う。
 サビ。客席の口元を追ってみる。ほとんどの人の口元が、フミヤの歌と一緒に動いている。小さな女の子を抱き上げ、女の子の顔を覗き込みながら歌っている女性。その女の子のリボンと洋服は、カラフルなチェック模様だった。曲のエンディング。フミヤが大きくターンし、お馴染のパフォーマンスを決める。大喜びするお母さんを見て、女の子が小さな両手で拍手した。

 ライヴは後半へ。アッパーでブライト、オールドスクールでポップ……と、バンド時代の “とことん明るい”部分をデフォルメしたような曲の中に、この夏にリリースされたシングル「青春」収録のアップチューンが、無理なく挟みこまれていく。過去と今、思い出と現実を混ぜ合わせた張本人が、軽やかにステージを行き来する。ハンドマイクをくるくる回しながら、ステージ左右の花道へ。花道近くの観客が両手を振りながら、ステージ前に詰めよっていく。上体を折り、自分に向けられた無数の手の直前まで顔を近づけるフミヤ。次の瞬間、くるっと背を向けヒップを突き出した。一層、沸く観客。肩越しにその様子を眺めていたフミヤは、ステージ中央に戻りながら、思いっ切り大爆笑。この様子に、会場全体のボルテージが、一気にあがっていった。

 本編最後のMC。
藤井フミヤは、自分自身をこう振り返った。
「いろんなことがあった人生ですが、今もステージの上でこうやって歌うことができていて、幸せもんです」

「藤井フミヤ 30TH ANNIVERSARY TOUR vol.1 青春」。デビュー30周年とソロデビュー20周年を彩る、この全国ツアーの後、スペシャル公演として、日本武道館でのカウントダウンライヴも待っている。

 青春は、年を越えて、来年へ向かう。

【取材・文・構成/伊藤亜希】




※次回は、10月31日のハロウィーンスペシャルをレポートします。お楽しみに!!

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リリース情報

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2013年07月10日

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1.青春
2.GO BACK HOME
3.孤独のDreamer
4.夜明けの街

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お知らせ

■ライブ情報

藤井フミヤ 30TH ANNIVERSARY TOUR
vol.1 青春

2013/09/21(土)神奈川 パシフィコ横浜 国立大ホール
2013/09/22(日)神奈川 パシフィコ横浜 国立大ホール
2013/09/26(木)大阪 岸和田市立浪切ホール
2013/09/28(土)香川 サンポートホール高松
2013/09/29(日)広島 広島アステールプラザ
2013/10/04(金)福岡 石橋文化ホール
2013/10/06(日)埼玉 狭山市市民会館
2013/10/11(金)秋田 大仙市大曲市民会館
2013/10/12(土)宮城 東京エレクトロンホール宮城
2013/10/14(月・祝)栃木 佐野市文化会館
2013/10/19(土)滋賀 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
2013/10/20(日)兵庫 神戸国際会館 こくさいホール
2013/10/23(水)埼玉 三郷市文化会館
2013/10/26(土)長野 塩尻市レザンホール
2013/10/27(日)静岡 静岡市清水文化会館 マリナート・大ホール
2013/10/31(木)東京 渋谷公会堂
2013/11/01(金)三重 三県総合文化センター
2013/11/03(日・祝)新潟 柏崎市文化会館アルフォーレ
2013/11/04(月・休)石川 本多の森ホール
2013/11/09(土)神奈川 伊勢原市民文化会館
2013/11/10(日)東京 中野サンプラザ
2013/11/16(土)兵庫 姫路市文化センター
2013/11/17(日)熊本 市民会館崇城大学ホール(熊本市民会館)
2013/11/23(土・祝)大阪 オリックス劇場
2013/11/24(日)大阪 オリックス劇場
2013/11/30(土)奈良 なら100年会館
2013/12/01(日)愛知 名古屋国際会議場 センチュリーホール
2013/12/05(木)山梨 コラニー文化ホール
2013/12/07(土)千葉 市川市文化会館
2013/12/08(日)千葉 市川市文化会館
2013/12/14(土)大阪 フェスティバルホール
2013/12/15(日)大阪 フェスティバルホール
2013/12/19(木)大阪 堺市民会館
2013/12/21(土)鹿児島 宝山ホール(県文化センター)
2013/12/22(日)福岡 福岡サンパレス

藤井フミヤ 30周年スペシャルカウントダウンライブ
2013/12/31(火)日本武道館

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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