セットリスト、MC、オーディエンスとのコミュニケーション…。
この日は、かりゆし58、4年ぶり2回目となる全都道府県ツアー『ハイサイロード ビヨンド 2013-14』全52公演の初日。ワンマンライヴとしては久しぶりということもあり、超満員となった渋谷O-EAST公演は、彼らがまた一歩、次のステップに果敢に挑もうとしているのが非常に伝わってくるライヴであった。

　振り返ると、かりゆし58の最新アルバム『8』は、楽曲のタイプも幅広く、サウンドのバリエーションも豊富。新要素満載の上、これまで以上にライヴでのお客さんとのコミュニケーション場面が浮びやすい作風だった。それらの要素が、この日、集まった満場のオーディエンスの下、見事に表れていた。

　話をちょっと『8』発売の際の彼らのインタビューに移させてもらおう。あのアルバムは今回のツアーがライヴハウスツアーということもあり、よりオーディエンスと近い距離で、みんなが一緒になって参加したり、歌えたり、声を重ねたり出来ることを前提に作られた作品でもあった。ボーカル＆ベースの前川真悟もそのインタビューの際、「秋から、このアルバムと共に全都道府県ツアーを回ることが先に決まっていたんで、そこで一緒に遊べる作風にしてみました。いわゆる理屈よりも体感できる作品とでも言うか。だから、これまでよりみんなで大合唱できる曲も増えたし。たぶん今回の各曲はライヴで演っていても、お客さんと同じで自分も高揚しっぱなしな気がする（笑）」と語ってくれた。そして、それを立証するかのように、終始この日のステージとフロアでは、唄と言葉というコミュニケーションツールを共有した、これまで以上に大きな<遊び場>が形成された。

　「ライヴは1本1本特別なものだけど、初回は特に何が起こるか分からない。だけど、何が起きてもハッピーに行こう。さぁ、遊ぼう!!」「今回、なんでライヴハウスツアーをやったかと言うと、ぐちゃぐちゃになりたいからなんだわ」と、前川がライヴのブロックブロックの区切りで、会場を自らの遊び場へと誘っていく。

　今回のツアーは、やはり『8』の曲たちが中心であった。中でも印象的だったのは、それまでベースやアコギを持ち弾きながら歌っていた前川が、楽器を置き、マイクスタンドを掴み歌い出した、ダイナミックなロッカバラード「恋の矢」(読売テレビ・日本テレビ系新ドラマ『ハクバノ王子サマ 純愛適齢期』主題歌)だった。マイクスタンドを持つ両手に力を込め、ことさら感情移入て歌う佇まいとその歌声は、上手（かみて）ギター新屋行裕と、下手（しもて）ギター宮平直樹の生み出すサウンドと、中村洋貴が叩き出すダイナミズム溢れるドラムと共に、満場の人の心をとらえていた。また、ニューアルバムからのパイロットシングルでもあった「青春よ聴こえてるか」では、力強いコーラスと、「青春はまだまだこれからも続いていく!!」という強い想いがオーディエンスたちを鼓舞。みなを心の中で「そうだ、その通り!!」とうなずかせるものだった。

　とは言え、何もこの日はニューアルバムの曲たちばかりが会場を沸かせていたわけではない。
「緊張する新曲は最初の方にやったから、ここからは盛り上げていくゾ」の言葉の後は、新曲に混じり、彼らの代表曲たちも会場を盛り上げていく。特に「アンマー」が始まると、「待ってました!!」の歓声が一際大きくなる。と同時に、曲が進むにつれ優しい気持ちに包まれ、浮かんできた両親への感謝の気持ちが場内の隅々に広がっていく。それはまるでささやかな幸せが会場の隅々にまで染み渡っていくが如し。気づけば私も目を細めて、両親へと想いを馳せていた。そして、「次会う時はもっと楽しくするよ」。そんな前川の言葉を残し、彼らはこの日のステージを降りた。

「これまでは新しい曲をやるのがどこか怖かったけど、このツアーでは新しい曲をバーンとやっていこうと思う。だから、これまでとはちょっと違ったセットリストになるかもしれない」、これは、ライヴ中の前川のMCだ。その言葉通り、この日のセットリストからは、これまでの殻を突き破りたい、これまでの自分たちを脱皮し、新しい自分たちを魅せたい、感じさせたい――そんな意欲や気概みたいなものも感じた。

　この日を初日に彼らは来年の2月まで、全国各地のライヴハウスで唄を届ける。きつと至近距離から伝えられる彼らの唄たちは、作品以上にダイレクトに心を鷲掴みにしたり、気持ちを鼓舞してくれたり、優しい気持ちに浸らせてくれたり、愛しい人の顔が姿を思い起こさせたりすることだろう。

　ニューアルバムという遊具や代表曲というアトラクションを使った最新の遊び場と共に、今度はみなさんの街に彼らがやってくる。こうなったら思いっきり至近距離で、彼らの唄に心を鷲掴みにされ、鼓舞され、愛撫され、優しい気持ちに浸らせてもらおうではないか。

【取材・文　池田スカオ和宏】