前へ

次へ

clammbon、ハナレグミ、細野晴臣。最高の音楽人らの魔法にかけられた一夜

ハナレグミ | 2014.01.21

 2013年5月22日に、『LOVER ALBUM 2』(clammbon)、『だれそかれそ』(ハナレグミ)、『Heavenly Music』(細野晴臣)とそれぞれカバー・アルバムをリリースしていた3組による、カバーだらけのスペシャルなジョイント・ライブ。ハナレグミ・永積崇の弁によれば、「なにかやりたいね?」という話が膨らんだ末にこの度の開催に至ったそうだが、3組が同時にカバー集をリリースしたことも、ライブがクリスマスに開催されたことも、すべてはただの偶然なのだという。まったく、音楽愛の魔法がかけられたとしか思えない、名曲・名演に酔いしれる一夜であった。

 トップ出演を果たすのは、いきなりの御大・細野晴臣だ。高田漣(G./ペダルスティール)、伊賀航(Ba.)、伊藤大地(Dr.)という、気心の知れた若手実力派を率いる4ピース編成。まずは自らギターを爪弾き、アルバム『HoSoNoVa』でも音源化していたNYティン・パン・アレーの楽曲“Lazy Bones”を披露すると、「次の曲は4日前に仕入れた曲で、1950年代のロカビリーなんですが、暗いんですね」と“The Cheat”に繋いでゆく。確かに強いブルース色に彩られてはいるけれども、コミカルな日本語詞が乗せられたカバーだ。ロックンロールの古典“Tutti Frutti”には味わい深いスウィング感が持ち込まれ、ウィリー・ディクスンの“29 ways”については「彼女をモノにする29の方法ってことで、歌詞がちょっと意味深なんですよ。日本で言えば四十八手とかね」と説明を添えながら楽しませてくれる。

 泥臭いロック仕様の“Body Snatchers”や、高田漣のペダルスティールがアクセントを残す“Pom Pom 蒸気” といったセルフ・カバー(かつてサケロックオールスターズもカバーしていたので、このメンバーによる演奏は感慨もひとしお)でオーディエンスを沸かせると、「歳を取るとね、クリスマスが遠いんですよ。子供のときはね、親がプレゼントをくれるでしょ。その家族の感じが良いと思うんですけど。もう66か。歳を忘れちゃうんですよ。体に訊くと80だって言います。心に訊くと27だって言いますね。そのギャップがね……じゃあ一曲やって、あとはよろしくだ!」とノリノリで“House of Blue Light”に向かってゆく。自虐的な加齢ネタとは裏腹に不変のエンターテイナーぶりを発揮し、ロック・ミュージックのルーツ探訪と新たな解釈に触れるステージであった。

 続いては「メリークリスマスー!」と景気良くハナレグミが登場。トロンボーンやスティールパン含む総勢7名のバンドで、ゾウさんこと西岡恭蔵“プカプカ”のカバーからスタートだ。陽気なスカのアレンジに弾ける歌詞が小気味良い。そしてギターを手に取ると、《ウィスキぃぃいいいが……》と高らかに伸びる歌声で大歓声を誘い“ウィスキーが、お好きでしょ”へと繋いでいった。挨拶を投げ掛ける男性オーディエンスに対しては「ちゃんとカップルで来たの? 一人で来たの!? うわああああっ!! そんなお前に、この曲を贈るぜ!!」と応え、本家ORIGINAL LOVEのソウルフルな歌唱にも引けを取らない“接吻 kiss”の熱演へと傾れ込んでゆくのだった。

 「一週間ほど前でしょうか、バーに飲みに行きました。男友達とふたりで。ベロンベロンになりまして、気づけばバーテンの人がめちゃくちゃ怒ってるんですよ。出てってください!って(笑)……二十歳くらいの頃でしょうか、渋谷系というのが流行ったんですよ。フリッパーズ・ギターかっこいいぜ、俺もあんなバンドをやりたいぜって。そして組んだバンドが、SUPER BUTTER DOG。なんで俺の歌詞はこんなに汗臭いんだ!って(笑)。そんなフリッパーズの小沢健二さんの名曲“ラブリー”をやります」。トーキング・ブルース風の歌い出し、そしてバンドの力強いグルーヴで客席を総立ちにさせ、踊らせてしまう“ラブリー”である。ストレートに『だれそかれそ』の収録曲を披露しているようでありながら、それだけでは収まりがつかないのがハナレグミのライブ。長尺の自由闊達なジャム・セッションで興奮の渦を生み出し、ロックステディ風の“オリビアを聴きながら”から、切々とした情感が滲む“ガラス越しに消えた夏”へと、楽曲を披露してゆくのだった。

 幽玄のイントロから挑発的な音響美へと移行する、矢野顕子“PRAYER”でパフォーマンスを切り出したclammbon。続いて、学生時代に同級生だったという空気公団の“呼び声”を届けると、冒頭2曲でそれぞれ6弦/5弦ベースによる雄弁なサウンドを繰り出していたミトは「いざ蓋を開けてみれば、12月25日。なんだろう、この勝ち組感は。みなさんお忙しいんでしょうね。我々を選んで頂いてありがとうございます。カバーですけど、オリジナルに負けないくらい頑張ります!」と意気込みを伝えていた。キャッチーでありながらも前衛的なclammbonのアンサンブルに、アニメ『らき☆すた』のキャラクターソングである“幸せ願う彼方から”といった選曲の妙も映える。原田郁子の歌声が、宙にぽっかりと浮かび上がるようだ。

 圧巻だったのは、ルー・リード“ワイルド・サイドを歩け”のベース・イントロで始まり、いわゆるハチロク・ビートのアレンジが施されたフジファブリック“茜色の夕日”だ。更にはアレサ・フランクリン“ナチュラル・ウーマン”のコーラスまでが盛り込まれるという、スゴ技カバーなのである。この10月に他界してしまったルー、そして前日の12/24が4年目の命日だったフジファブリック・志村正彦。そんなアーティストたちとの別れを惜しむ音楽ファンにとっても、最高の追悼カバーとなった。『LOVER ALBUM』『LOVER ALBUM 2』に収められたレパートリーだけには留まらず、2013年末ならではの趣向が盛り込まれたステージは、フォッシュマンズ“ナイトクルージング”の陶酔感に満ち溢れたカバーで美しくフィニッシュ。

 「ここからが本当のクリスマス・プレゼントです!」と始まったアンコールでは、原田郁子の手作りであるというマントを羽織ったclammbon+ハナレグミの編成で、学生時代(ハナレグミはclammbonの一学年先輩)の思い出を振り返りながら、はっぴいえんど“あしたてんきになあれ”やclammbon“ある鼓動”を披露し、「毎年やりたい気分だ!」という言葉に喝采が巻き起こる。ここでサンタ帽を被った細野晴臣をはじめ、この日の出演者全員がマント姿で再登場すると、ハナレグミ“MUSICA”のホーリーな響きが降り注いで大団円を迎えていった。冒険心と探究心、そして遊び心を失わない音楽人たちによる、最高のクリスマス・プレゼントだった。

【取材・文:小池宏和】

tag一覧 ライブ ハナレグミ 細野晴臣 clammbon

リリース情報

ハナレグミ・So many tears  「どこまでいくの実況録音145分」

ハナレグミ・So many tears  「どこまでいくの実況録音145分」

2014年01月29日

ビクターエンタテインメント

ディスク:1
1. WALKING IN THE RHYTHM
2. FUNKYウーロン茶
3. Same ol’thing
4. 音タイム
5. いかれたBABY
6. Sunset
7. 踊る人たち~Superstition
8. コミュニケーション・ブレイクダンス
9. HUMAN NATURE
10. Time
11. FUNKY きっちん !!
12. Jamaica song
13. 愛にメロディ
14. Crazy Love
15. 追憶のライラック
16. オリビアを聴きながら

ディスク:2
1. 女神大橋~Venus Wing Bridge
2. 青いライオン
3. 360°
4. 明日天気になれ
5. 光と影
6. Amazing Melodies
7. ナイト・クルージング
8. オハナレゲエ
9. Move on up

このアルバムを購入

お知らせ

■ライブ情報

<ハナレグミ>
ハナレグミ・So many tearsの竹取物語

2014/02/03(月)なんばHatch
2014/02/06(木)新木場STUDIO COAST

Laughin’8周年記念イベント「La族がやって来るラァ!!ラァ!!ラァ!!」
2014/04/05(土)大阪城音楽堂
2014/04/06(日)日比谷野外大音楽堂

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る