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尾崎世界観(クリープハイプ)自主企画 「尾崎世界観の日 特別篇」2019を開催

尾崎世界観(クリープハイプ) | 2019.05.31

 わかりやすい熱狂、客席一面に拳が突き上がって揺れるような狂騒の光景は一切ない。けれども空気はたしかに沸き立っていた。アコースティックギターが奏でる人肌の音色とはっきりと彼だとわかる歌声だけが響き渡る場内、立ち見が出るほどの盛況ぶりを見せながら面白いくらいに静まり返ったその空間は、しかし同じ瞬間のどの場所よりも深いところで熱く滾っていたに違いない。

 5月18日、梅雨にも真夏日にもまだ少し早い薄曇りの空の下、東京・日比谷野外大音楽堂にて開催された“「尾崎世界観の日 特別篇」2019”。ちなみに“尾崎世界観の日”とはタイトルそのまま尾崎世界観(クリープハイプ)の自主企画であり、毎回、尾崎本人がゲストをブッキングすることでも知られている不定期開催のイベントだ。今回、東京と大阪にて行なわれる“特別篇”は2年ぶり3回目。ただし今回は過去の特別篇とはかなり趣が異なっていた。

 リボンのように垂らされたオーガンジーの布が心地好く風にたなびいているのと華奢なライトスタンドが7灯並んでいる以外は、ギターとマイクと椅子という弾き語り用セットのみ、とステージの構えは至ってシンプル。開演のときを今か今かと待ちながら客席からまだ無人の壇上に注がれる視線は早くも熱く、満員御礼状態でありながらの静寂が却って秘めた期待度の高さを物語っているようだ。場内にはBGMさえ流れていないから、募りゆく想いの熱がいっそう際立って感じられる。そんなオーディエンスの熱望をあえて躱すかのごとく、開演時刻を回るや、尾崎がふらりとステージにやってきた。白いTシャツにジーンズのラフな出で立ちで、SEも何もなく、まるで自宅にでも帰ってきたようなニュートラルな登場。あまりにニュートラルすぎて刹那、客席にポカンとした間が生まれてしまったのも致し方ないだろう。そのぶん遅れて沸き起こった歓声のなんと凄まじかったことか。

「早く席に着きなさい、もう。ほら早く! ……意外と余裕ですね、ツッコまれてるのに」

 慌てて座席に向かう観客をイジって愉快そうな尾崎の第一声。そして「いつもはゲストを呼んでやってるんですよ。だから、これで喜んでもらえなかったら落ち込むなと思って今、ドキドキしてるんだけど」と言葉を続け、きっぱり「今日はワンマンでやります」と宣言をするや、客席には驚喜のどよめきが広がった。イベントだと思いきやまさかの弾き語りワンマンというサプライズ。文字通り“尾崎世界観の日”であり、“特別篇”の名にもふさわしい。「ゆっくり楽しんでください」と告げて、抱えたアコギをかき鳴らし始める尾崎。1曲目は「自分の事ばかりで情けなくなるよ」だった。クリープハイプの2ndアルバム『吹き零れる程のI、哀、愛』初回盤のみにボーナストラックとして収録されたこの曲。ちっぽけな自分のちっぽけなエゴを自虐混じりに紡ぐ、どうしようもなくやるせない歌声が日比谷の風景にも染み込んでいくようだ。

 尾崎のMCによれば今日は1人でやってきた観客、いわゆる“ぼっち参戦”が多いらしい。場内に渦巻く不思議な静寂と尋常でない熱量の理由はそこにもあるのだろう。1人だからこそじっくりとその音楽に対峙し、浸ることができる。アウトプットし合える相手がいるライブももちろん楽しいだろうが、自分のペースで心ゆくまで味わい尽くす喜びだってかけがえない。詰めかけた3000人、そのひとり一人が彼の放つ音の一粒一粒、歌の一言一句をつぶさに追いかけ、各々に胸を震わせている情景は実際とてもいいものだった。おそらく尾崎もその得難さを噛み締めていたことだろう。バンドサウンドの分厚い魅力を知る一方で、ひとり繊細に音を紡ぎ、歌と、そして何より来てくれたひとり一人と対峙して自身の一部とも呼ぶべき音楽を手渡しで届けられる確かさと愛しさ。時に「(ぼっち参戦は)寂しいと思いますけど、僕も1人なのでちょうどいい。お互い最後まで楽しんでいきましょう」と呼びかけては、時に「楽しんでますか? 反響がないからすごい気になる」と漏らしてはすぐさま大きな拍手に包まれて相好を崩したり、「もう頷きしかないもんね。でも声を出すのは恥ずかしいけど、その代わりに気持ちを伝えてくれようとして」と客席を真似て大きく首を縦に振ってみせるなど、いつに増して距離感がフレンドリーだったのもその実感ゆえではないだろうか。

 今や廃盤となりレコーディング音源としては残っていない名曲「ヒッカキキズ」や、「ボーイズENDガールズ」「イノチミジカシコイセヨオトメ」などインディーズ時代から大切にされてきた楽曲も含めつつ最新アルバム『泣きたくなるほど嬉しい日々に』に至るまでのクリープハイプの作品からピックアップされた曲を中心に、尾崎の責任編集で2014年に発売された雑誌『SHABEL(シャベル)VOL.1』の特別付録CDに入っていた「風邪をひく日」や、これまでにあまりやったことがないという他アーティストへ提供した曲のセルフカバー等々、この日演奏された厳選の20曲からは彼の足跡が色濃く立ちのぼってくる。未音源化の「商店街、手紙、天気予報」では歌詞の一節を“東京の真ん中で弾き語りをしている”とさりげなく今日を織り込んだ替え歌にして披露。YUKIに提供した「百日紅」も、SMAPへの提供曲「ハロー」も、尾崎の喉を通せばまるで表情を変える。当たり前かもしれないけれど、歌とはやはりその人そのものをあからさまに映し出すのだと改めて知った気がした。

 特筆すべきはやはりシークレットゲストとのコラボレーションだろう。「ワンマンと言ってもずっと1人でやり続けるのは寂しいので」と前半戦に呼び込まれたのはコレサワだ。4年前、下北沢で行なわれた“尾崎世界観の日”にも出演したという彼女は「私の演奏が終わったあとに“俺、あの曲好きだったんだけど、歌わなかったね”って尾崎さんに言われて。最初から言っといてくれたらよかったんですけど」と当時を告白、「でも今回は5日前くらいに“あれ歌ってね”って言ってもらった」と「恋せよ乙女」を単独で演奏。その後は2人でクリープハイプの「燃えるごみの日」、コレサワの「あたしを彼女にしたいなら」をデュエットする。前者ではコレサワがピアニカを、後者では尾崎が「生まれて初めて持った」というタンバリンを担当、今日ならではのアンサンブルがなんとも楽しい。

 そして後半戦、予定していた1曲を飛ばした尾崎に「もう呼んじゃおうかな」と急遽、登場を早められてしまったのは、2016年以来2度目の“尾崎世界観の日 特別篇”出演となるMy Hair is Badの椎木知仁だった。「楽屋で“あと2曲で呼び込みです”って言われて緊張してたら“ちょっと緊急事態なんだけど、尾崎が呼んでる”って」と苦笑いでアコギを手にしてコレサワ同様、まずは単独で弾き語り。「自分の曲をやってくれって言われたんですけど、せっかくなのでクリープハイプの曲をやらせてください」と選んだのは「週刊誌」、2ndシングル「社会の窓」のカップリング曲だ。かつてクリープハイプの追っかけをしていたという彼の、実に“らしい”セレクトだが、見事にマイヘア節に昇華されているのがまた素晴らしい。追っかけ時代、一緒に写真を撮ってほしいとお願いしたところ、椎木がバンドをやっていることを知った尾崎に“オマエとは撮らない。人を追っかける前に自分のことをちゃんとやれ”と発破をかけられたというエピソード、「それからクリープハイプのライブに行くのを我慢してやめて、で、こういう機会をまた今日も作ってもらいました」と感謝を語ったうえでの演奏だったことも手伝ってか、彼の親愛と矜持がビシビシ刺さってくるようだ。仲の良さが滲み出たトークを挟み、クリープハイプの「一生のお願い」、My Hair is Badの「優しさの行方」を2人で演奏。シンクロする手の動き、重なる音色と歌声にただもう聴き入るしかなかった。

「おんなじような曲ばっかりでしょ? 自分で練習してても思ったんだけど。でも、これしかないしな。こういう曲しか歌えないし」 

 ライブの終盤、今日を、さらには自身の来し方を振り返るようにして、そう尾崎は言った。自嘲でも開き直りでもない、むしろ慈しみをたたえた柔らかな口調が印象的だ。今日歌った曲には1人でやってた頃の曲も少なくないこと、バンドメンバーがいないときにそれでも何かをしていないと落ち着かないからと1人でやるための曲をたくさん作っていたこと、そんな状況だからしみったれた曲しかできず、けれどそれを持って定期的にライブハウスで1人で弾き語りをやっていたこと。行く先に不安しかなかったあの頃に思いを馳せながら「今はこんなに大勢の前で歌えてありがたく思ってます」としみじみと口にする。「そして何がいちばんありがたいかって、今のバンドメンバーがいることですよね」とも。今のメンバーになってクリープハイプは今年で10年目を迎える。紆余曲折も波風も満身創痍で乗り越えてきた4人の歴史が、今、1人の舞台に立つ彼にそう言わしめたのだと思えばいっそう胸が熱い。

 ラストは「傷つける」が飾った。オープニング曲と同じく『吹き零れる程のI、哀、愛』に収録の1曲だ。“後悔の日々があんたにもあったんだろ”で始まって終わる、不器用すぎる思慕の歌。ボールペンのインクになぞらえられた愛がすっかり夜の帳を下ろした空の漆黒に溶けていく。

「あんまり言うことないね、ちゃんと出せた気がする。またどこかで会いましょう」

 そう言い残して尾崎はステージを去った。彼の言葉そのままに全力を出し尽くし、オーディエンスと真摯に向き合った時間の濃密と手応えを物語るかのようにその足取りは軽やかだった。

【取材・文:本間夕子】
【撮影:冨田味我】

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リリース情報

泣きたくなるほど嬉しい日々に

泣きたくなるほど嬉しい日々に

2018年09月26日

ユニバーサルシグマ

1. 蛍の光
2. 今今ここに君とあたし
3. 栞
4. おばけでいいからはやくきて
5. イト
6. お引っ越し
7. 陽

セットリスト

尾崎世界観の日 特別篇2019
2019.5.18@日比谷野外大音楽堂

  1. 01自分の事ばかりで情けなくなるよ
  2. 02ヒッカキキズ
  3. 03.ボーイズ END ガールズ
  4. 04.二十九、三十
  5. 05.大丈夫
  6. 06.イノチミジカシコイセヨオトメ
  7. 07.笑えよ乙女(コレサワ)
  8. 08.燃えるごみの日(尾崎世界観×コレサワ)
  9. 09.あたしを彼女にしたいなら(尾崎世界観×コレサワ)
  10. 10.商店街、手紙、天気予報
  11. 11.風邪をひく日
  12. 12.百日紅
  13. 13.ハロー
  14. 14.週刊誌(椎木知仁)
  15. 15.一生のお願い(尾崎世界観×椎木知仁)
  16. 16.優しさの行方(尾崎世界観×椎木知仁)
  17. 17.さっちゃん
  18. 18.タイトル未定
  19. 19.exダーリン
  20. 20.傷つける

お知らせ

■ライブ情報

[クリープハイプ]
FM802 30 PARTY SPECIAL LIVE RADIO MAGIC
06/01(土)大阪城ホール

森、道、市場2019
06/02(日)ラグーナビーチ&遊園地ラグナシア

SUPER BEAVER「都会のラクダ”ホール&ライブハウス”TOUR2019〜立ちと座りと、ラクダ放題〜」
06/07(金)仙台GIGS

東京スカパラダイスオーケストラ 30th Anniversary「Traveling Ska JAMboree」
06/09(日)高松festhalle

京都大作戦2019〜倍返しです!喰らいな祭〜
06/30(日)京都府立山城総合運動公園 太陽が丘特設野外ステージ

Saucy Dog Two-Man Live「One-Step Tour」
07/14(日)名古屋ダイアモンドホール

rockin’on presents ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019
08/10(土)国営ひたち海浜公園

SUMMER SONIC 2019
08/16(金)ZOZO マリンスタジアム&幕張メッセ

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019 in EZO
08/16(金)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
08/17(土)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ

WILD BUNCH FEST. 2019
08/25(日)山口きらら博記念公園

SPACE SHOWER TV 30TH ANNIVERSARY SWEET LOVE SHOWER 2019
08/31(土)山中湖交流プラザ きらら

OTODAMA’18-’19〜音泉魂〜
09/08(日)泉大津フェニックス

秋田CARAVAN MUSIC FES 2019
09/14(土)大仙市サン・スポーツランド協和野球場

PIA MUSIC COMPLEX 2019
09/28(土)新木場 若洲公園

マグロック 2019
10/06(日)清水マリンパーク

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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