才能が先か、努力が先かーースガシカオ、約6年ぶりのベストアルバム２タイトル（両作とも２枚組。延べ64曲！）を通して聴き終えた後に、ふと浮かんできた言葉である。

決して煙に巻くつもりはないが、スガシカオの場合「両方とも先」だと思う。才能と努力を、トップギアに入れたまま走り続けた軌跡が、同日発売となる２タイトルのベスト盤『BEST HIT!! SUGA SHIKAO-1997?2002-』と『BEST HIT!! SUGA SHIKAO-2003?2011-』である。２枚とも、タイトルの年代を踏まえたヒット曲、ライヴでの定番・人気曲、セルフカバー曲などが収録されている。ベスト盤ゆえ、作品コンセプトなどを抜きにして、フラットなスタンスで聴くことができるが（個人的にはこれがベスト盤のひとつの魅力でもあると思う）、１曲、１曲のクオリティーが半端ない。才能と努力を同等のモチベーションでキープし続けた結果のハイクオリティーの集大成ゆえ、濃密さ（収録曲の多さからもう濃密過ぎるでしょ）もひとつの魅力だが、同時に日常のシーンに馴染む魅力もある。この“濃い”けど“日常に馴染んじゃう”のが、スガシカオが作り出す楽曲の最たる魅力だと私は思っている。
その理由は何か。おそらく、楽曲とリスナーとの距離感だと思う。スガシカオの曲は、図々しくない。ズケズケと他人（この場合、聴き手）のテリトリーに入ってこないというか。こっちを気にしてるけど、詮索しないみたいな、そんな“距離感”があり、そこに聴き手との独特の共有感が生まれるのだと思う。この前置きの無い“共有感”に、聴き手は“ハッ”とする。
それは、時にロマンチックなメロディーだったり、歌詞のフレーズだったり、ボーカルワークだったり、ループするリズムマシーンだったり、ゴージャスなトラックだったり、ファンクのグルーヴだったり、バラードの歌声だったりと、多種多様で枚挙に暇がない。
私も聴きながら、何度も何度も“ハッ”として、日常生活の営みがストップした。
しかし、やっぱりあの声、反則。動物学的にも、女性は男性の出す音、つまり人間でいえば声に、最もセックスアピールを感じるそうだ。そういう意味ではスガシカオは、歌うだけで一人勝ち状態とも言えようか。もちろん他にもたくさんいい声の人はいるけど、スガシカオさんには、これからもじゃんじゃん、一人勝ちしてくださいとお願いしたい。不変の期待に、いつでもハイクオリティーで応えてくれる、数少ないアーティストなのだから。

【文・伊藤亜希】