届けること念頭に、ライヴの流れや演出まで考え作られた、SEAMOのニューアルバム

SEAMO | 2011.04.26

 SEAMO――彼をとりまくコミューン、そして親しきアーティスト達(後輩含む)からは、塾長、と呼ばれる男である。
 アンダーグラウンドの水も知っているアーティストとしての長い経験値、そして本年も既にスケジュールが発表となっている(自らが発起人となり立ち上げた)フェス「TOKAI SUMMIT」を開催するなど、その活動展開から、なるほど塾長ねと、納得する部分も多々あれど、そう呼ばれる要因は、他にもあるようだ。 それは、主観を貫く意志の強さと、客観で己を分析できる頭の良さ。さらには、周囲の意見や状況を否定しない人間としての許容量の上に成立する、独特のリーダーシップ感ではあるまいか。
この独特感こそ、塾長の塾長たる由縁。先頭に立って旗を振るタイプではなく、隣りにいる他人の肩をさりげなくポンと叩き、一緒に1歩踏み出すようなタイプ、といえようか。 SEAMO、2年半ぶりのフルアルバム『messenger』完成。
 新作の事はもちろん、自身のルーツについても、教えて、塾長!


EMTG:SEAMOさんは、音楽を作り始めてどれくらい経ちます?
SEAMO:ラップがどういうものかもわからず、リリックを書き始めたのは、大学入った時。19歳くらいですね。だからもう16?17年経ってるんですかね。19歳の頃なんて、本当、何もわかってませんでしたけど(笑)。バンド始めると、普通は、最初はコピーだったりすると思うんですけど、僕は、最初からいきなりリリックを書き始めたんですよね。だから自分のオリジナルの楽曲が成立してたっていうのは、今思えば、早かったのかな。19歳の時、オリジナル曲を3?4曲作って、学生主催のオールジャンルのクラブイベントでやったりしてました。すんげぇめちゃくちゃな曲でしたけど(笑)。最初に書いたのは、平サラリーマンの気持ちを書いた曲でした。
EMTG:学生だったのに、サラリーマンの曲を?(笑)
SEAMO:そうなんですよ、意味わからないですよね?(一同爆笑)。んで、サラリーマンが接待ゴルフに行って、やたら上司に気を使って、勝たせなきゃいけない。それなのに、イーグルでチップインしちゃった。それで俺は減棒だ……みたいな事をラップして。♪ イーグルだ、減棒だ、……ってライミングしてたのは、すごく覚えてるんですけどね(一同笑)。思う事をそのまま書いたって意味では、パンクだったとは思うんですけど。僕、90年代のラッパー、ヒップホップがすごく好きで、そこを聴いて育った世代なんですよ。当時は、ラップが二元化していった時代で。ひとつは、ギャングスターラップみたいに、政治的な事やアウトローな事をライミングして、自分達をラップで解放してくぞってスタイル。もうひとつは、自分の好きな女性の事だったりとか、身近な事をライミングするスタイル。日本では後者の方が多かったんですよね。で、僕は、そういう身近な事をラップするのが、正当だと思ったんですよね。自分にとっては、政治的な事よりも、こう……くだけたバカな事を、自分のすぐ周りの事をラップするのが、正義だと思ったんです。あと、これは僕の個人的な考えなんで、そうじゃないって思う人もいると思うんですけど……じつは……ラッパーって、あまりこう……頭のいい人がいないんじゃないかなって思っているんですよね(一同大爆笑)
EMTG:あはははははは(大爆笑)。せっかくなので、その考えに至った経緯を、もう少し詳しく教えていただけますか?
SEAMO:例えば、90年代頭の海外のアーティストのリリックの日本語訳とかみると、本当に足りないな、バカなヤツだなって思う内容ばっかりで(笑)。どっちかっていうと、日本人の方がインテリが多いっていう印象。特に、今、日本でラップで成功している人達って、インテリの人が結構多いと思うんです。最近は海外でも、COMMONとか、インテリジェンスを感じる人もいるんだけど、だけど、昔は、本当……僕が言うのもなんだけど、バカだなぁって思うようなヤツばっかりだった。僕、大学時代に、自分で論文にも書いた覚えがあるんですけど、90年代初頭のラップ、特に海外のラップって、インテリじゃない人達が書いたリリックだから、多くの人に響いたと思うんですよ。すごくお金持ちとか、すごく頭がいいとか、そういう特別な環境や才能を持っている人が書いていたら、響いてなかったと思うし、逆に特別じゃない人が書いたものだから響いたと思ってるんです。僕自身、自分の事を省みた時、自分の目線が、圧倒的に特別な人じゃないっていうか。そういう自分の目線があったから、たくさんの人にリリックが響いたと思ってるんですよ。その感覚は例えば、こういう事で……。僕は、留学していたわけじゃないし、子供の頃からジャズを聴いてたとかも、まったく無い。子供の頃は、当時のアイドルを聴いていたっていう、普通の音楽キャリアなんですね。もちろん、ある時から、ヒップホップに感化されて聴くようになったけど、基本はどこにでもいる普通の感覚っていう。例えば……今でもバイリンガルの人と話をすると壁を感じるんですね。でもそれは偏見じゃなくて。もっとこう……ガンダムの話ができるかとか、ジャンプだとどの漫画かとか、そういう単純な話なんですよ(笑)。こういう感覚……普通に日本で育ってきたからこその感覚っていうのは、やっぱり今でも根強くあるっていう感じで。ヒップホップって、ある意味、自分を大きくみせる事も大事な音楽なんですけど、そういう中で、僕はこんなにダメだし、こんなに泣いたしっていうのをリリックにしたんで、そこがたくさんの人に受け入れられたのかなって思うんですよ。
EMTG:でも、ヒップホップの世界では、そういう……情けない自分を見せた上での、泣きのメッセージ性、みたいなのは、タブー視されていたりしませんでしたか?
SEAMO:そうなんですよね。なぜなら、自分のカッコ悪い部分だから。だけど、カッコ悪い部分を率先してリリックにできたかできないかってところが、僕の曲がたくさんの人に聴いてもらえるようになった理由のひとつだと思うし、今のスタンスにつながっているのかな、と。
EMTG:なるほど。その、タブー視されている事に挑んだのは、やっぱり自分の曲をたくさんの人に聴いてもらいたいという想いが強かったからでしょうか?
SEAMO:それはもちろんそうです。そうですし、あとは…………僕、昔からそうなんですけど、目立ちたがり屋で(笑)。他の人と同じ事をやるのはイヤだっていう、天邪鬼なところもあったんですけど……でも、根本は目立ちたいっていうところなんですよね。他の人と同じ事やってても目立たないだろう、じゃあ、違う事をやろうっていう。大学時代の事なんですけど、僕、目立ちたくて、軽トラックで学校行ってましたしね(一同大爆笑)。今考えると、本当、考えが足りなかったな、バカだなと思いますけど(笑)、当時は、それがカッコイイと思ってましたから。天狗のお面も、その延長線上で。とにかく目立たないとダメだ、他の人と同じじゃダメだって思ってたんですよね。まあ、天狗のお面は、今でもライブやイベントで登場しますけど(笑)。そういう、目立ちたいって気持ちは今でも変わらないんだけど、年を重ねていく上で、その方法が変わって来て、今の形になっていったんだと、思っているんですよね。
EMTG:ニューアルバム『messenger』は、勢い、楽曲のバリエーション、サウンドのクオリティが揃った快作になりましたね。
SEAMO:ありがとうございます。今回、リリース後にスタートする、ライブツアーとかも見える内容だと思うんですよね。作品として、ライブでお客さんと盛り上がってってところも含めて、作品が完成するって気持ちもあって。正直なこと言っちゃうと、アルバムの曲順そのままで、ライブもいけるんじゃないかなって思ってるんですよね。このアルバムだけで、次のツアーがひとつ完結するってみたいなイメージまで考えて作ったっていうか。これまでも、ライブを想定して作った作品はあったけど、ライブの流れや演出まで考えて作ったのは、なかったかもしれないですね。僕、ツアーとかじゃなくても、ライブはいつもやっていて。例えば、地元・名古屋のクラブのイベントも、ずっと毎月やってる。で、そこは、自分にとっては実験場みたいなもんなんですね。新しい楽曲を試したりとか、振りやレスポンスを試したりとか。そういう事を年中、試しながらやっていて、その中で、どんどんブラッシュアップしていくっていうスタイルなんですよ。実際、今回のアルバムの中でも、イベントでやってみて、これはもうちょっとこうしたほうがいいなって、曲の構成を変えた曲もあるんですよね。
EMTG:お客さんの反応を見ながら、曲をブラッシュアップしていったということですね。
SEAMO:そうです。例えば……「君がいるから」って楽曲があるんですけど、この曲は、去年の秋くらいに、ファンクラブのイベントがあって、その時に歌ったんですよ。すげぇいい曲で、響く曲ができたなと思って歌った。で、その時、すげぇいい曲なんだけど、なんか、あっさりしすぎてるかなって感じたんです。それで、よりメッセージを聴く人の心にねじこむためには……って考えて、平歌の部分のメロディを変えた方がいいなと。こう……曲の中に、駆け上がるような演出を加えた方がいいかなと思ったんですよね。この曲に対して、決してお客さんの反応が悪かったわけじゃなかったんだけど、より響かせるためには、もっと曲に浸らせたほうがいいなと思って、変えて行ったんですよ。
EMTG:SEAMOさん言うところの“実験の場”には、新しいチャレンジが、含まれていたりも?
SEAMO:そうですね……これ、ちょっと情けないエピソードになっちゃうかもしれないんだけど(笑)。「That’s Right」って曲は、早い曲作ろうって思って作った曲で。どんだけ早くできるか挑戦だと思って作った。自分では、速い曲は得意だと思ってたんですね。だから、自分の中で理想のポイントもちゃんと決めて、それに向かってやってみたんですけど、ちょっと理想どおりにはできなくて。というのは、年明けに、僕、歯の矯正を始めたんですよ。ラップにはそんな影響が出ないだろうって思ってたんですけど、でも実際にやってみたら、想像以上に、これまでと滑舌が違ってきてるのがわかった。出来る事はできるんだけど、実際にテイクを聴いたら、ちょっと足りないな、自分の理想には届いてないと思った。だから、悔しかったんですけど、アルバムでは、元よりもちょっとだけ、BPM(テンポ)を落としてレコーディングしたんですよ。でも、矯正はツアー始まるまでは終わらせるつもりなんで! ツアーは大丈夫です!(笑)。
EMTG:つまり、ツアーでお披露目する際には、BPMが速くなってるかも……理想の速さになっているかもしれない、と?
SEAMO:そうですね。ライブの時は、のってきたら、どんどんどんどんBPMをあげてやっていこうかなと(一同笑)
EMTG:では最後に。アルバムタイトル『messenger』に決まった経緯と、その意味を教えてください。
SEAMO:まずは単純に『messenger』ってなんかカッコイイなって思って。“あいつは、メッセンジャーだな”って言われたいなと思ったっていうのもある。それから、僕がいちばん勝負できるところは、何なんだろうなって考えた時、歌としてのメッセージかな、と思ったんですよね。ヒップホップって、結構、サウンドの聴こえが重視だったり、ライミング重視だったりってところがあるんだけど、僕が他の人に負けないものは、やっぱりメッセージかなって思ってて。例えば、最近の若いアーティストって、流行りのいろんな音楽のエッセンスをうまく取り込んでいくし、歌もうまい、ラップもうまい、ダンスもうまい。そういう意味では、僕よりも完成してるようなヤツがいっぱいいる。イベントやライブも、すごく盛り上げるし、すっごいカッコいい。それは本当すごいなと思うし、頑張って欲しいなとも思うんですよね。でもそういう中で、自分を省みた時、僕は年を重ねてきたぶん、この年齢だから出てくるメッセージをしっかり吐くべきだなと思って。だから、メッセージを吐く人=メッセンジャーっていう意味もある。あと僕、自転車もすごく好きで。自転車で封筒を届ける人をメッセンジャーっていうんですけど、メッセージを届ける人っていう。そういう思いをこめて、このタイトルをつけたんですよね。

【 取材・文:伊藤亜希 】

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ビデオコメント

リリース情報

messenger

messenger

2011年04月27日

(株)アリオラジャパン

ディスク:1
1. SEAMO行進曲
2. STRONGER FEAT.MAY-LU ~モンハン音楽部MIX~
3. LOST BOY
4. GGDM
5. SEABREEZE FEAT.草川瞬&BLADe (FROM BRIDGET)
6. 海へいこう
7. 約束
8. ME.N.DO.KU.SA.I
9. その手は何のためにある?
10. THAT’S RIGHT
11. ヒーリングバス
12. 君がいるから
13. 終わりと始まり
ディスク:2
1. SEAMOの私が総理になったなら ~日本改革大作戦!!TOUR~ -ZEPP TOKYO ON MARCH.19.2010-

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INFORMATION

■マイ検索ワード
SEAMO
キャンター


僕、競馬が好きで、中継を聞いたり、新聞や雑誌を読んでいる時に、”キャンター”って言葉の意味を文脈から解釈して”駆け足”って意味だろうって思ってたんですよね。でも、言葉自体に興味を持ってちゃんと調べたら、駆け足ってより、並み足で。普通に歩くよりもちょっと早目に歩く事を指す言葉だったんですね。すごくいい言葉だと思って。新しくなんか仕掛けるんだったら、歩くよりもちょっと急ごうぜって感覚が、今の自分には、一番ぴったりなのかなって。今の自分の求められてるって部分では、すごくぴったりなペースが、キャンターかなって思ったんですよ。本当はね、この言葉、アルバムのタイトル候補にもなったんですけど、でもまぁ……タイトルはより誰でもわかりやすくっていうんで『messenger』になったんです(笑)


■ライブ情報

♪TOKAI SUMMIT’11
◆2011年7月23日(土)
ナガシマスパーランド芝生広場・野外特設ステージ
[出演]SEAMO、HOME MADE 家族、三浦大知、九州男、nobodyknows+、mihimaru GT(五十音順)
[問]サンデーフォークプロモーション
052-320-9100(全日/10:00?18:00)
TOKAI SUMMIT’11 OFFICIAL HP

SEAMO LIVE TOUR 2011 SEAMO THE MOVIE
?目指せ!バカデミー主演男優賞!?

◆2011年6月4日(土)
PENNY LANE24
[問]WESS
011-614-9999

◆2011年6月5日(日)
PENNY LANE24
[問]WESS
011-614-9999

◆2011年6月10日(金)
新潟LOTS
[問]サウンドソニック
076-291-7800

◆2011年6月11日(土)
長野CLUB JUNK BOX
[問]サウンドソニック
076-291-7800

◆2011年6月16日(木)
DRUM Be-7
[問]キョードー西日本
092-714-0159

◆2011年6月18日(土)
DRUM LOGOS
[問]キョードー西日本
092-714-0159

◆2011年6月19日(日)
DRUM LOGOS
[問]キョードー西日本
092-714-0159

◆2011年6月23日(木)
CRAZYMAMA KINGDOM
[問]ユニオン音楽事務所
082-247-6111

◆2011年6月25日(土)
広島クラブクアトロ
[問]ユニオン音楽事務所
082-247-6111

◆2011年6月26日(日)
広島クラブクアトロ
[問]ユニオン音楽事務所
082-247-6111

◆2011年8月19日(金)
富山県民会館
[問]サウンドソニック
076-291-7800

◆2011年8月25日(木)
宝山ホール
[問]K&Mコーポレーション
099-223-7710

◆2011年8月26日(金)
熊本県立劇場演劇ホール
[問]GAKUONユニティ・フェイス

◆2011年9月3日(土)
Zepp Tokyo
[問]キョードー東京
0570-064-708

◆2011年9月17日(土)
サンポートホール高松・大ホール
[問]DUKE高松
087-822-2520

◆2011年9月18日(日)
松山市総合コミュニティセンターキャメリアホール
[問]DUKE松山
089-947-3535

◆2011年9月22日(木)
なんばHatch
[問]夢番地大阪
06-6341-3525

◆2011年9月23日(金)
なんばHatch
[問]夢番地大阪
06-6341-3525

◆2011年9月29日(木)
Zepp Nagoya
[問]ZOOMenterprise
052-290-0909

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