新型コロナウイルス感染拡大の影響でライブができないなら曲を作ろう――と曲作りに励んできた成果が、どれだけのものなのかが窺えるようだ。

「21年は20年の倍どころじゃないくらい曲をリリースすると思います」
フィジカルとしては1年2ヵ月ぶりのリリースとなったシングル「＆」のインタビュー（https://music.fanplus.co.jp/special/202012163940bd791）で、メガテラ・ゼロ（Vo）が豪語していたとおり、その「＆」からわずか2ヵ月。Mr.FanTastiCが早くも最新シングル「ooh」をリリースした。

「今後、それぞれテーマを決めてシングルをたくさんリリースしていこうと考えているんです」
「＆」リリース時のメガテラ・ゼロの言葉どおり、アンチ精神も含む持ち前のとがった感性とMr.FanTastiCが意外に得意としているR&B／ファンク路線を押し出した「＆」から一転、今回の「ooh」はメガテラ・ゼロ曰く「どラブソングをテーマにした」4曲を収録。恋愛対象は曲ごとに異なるものの、4曲すべてが「&」収録の「Night & Day」の歌詞を書く際、浮気を正当化する昨今のラブソングに対する抗議を込めたメガテラ・ゼロらしいまっすぐな思いが貫かれている。

　1曲目の「only」は人を愛する気持ちが受け入れられた時の歓びを、等身大の飾らない言葉で歌った泣きのロック・バラード。どラブソングにおしゃれな言葉は要らない。精一杯、自分の思いを伝えればいい。そんなメガテラ・ゼロの思いが、エモーショナルなメロディとともに紡ぎ出される言葉の数々からひしひしと感じられる。＜世界中を敵に回すとか　そんな物騒なことは言わない＞という一節がメガテラ・ゼロらしい。サビの＜あなたが良い　そういって君は　僕を選んだ　どれだけ幸せだったことか　他の誰かじゃない　僕で　よかった＞という歌詞は、ライブでこの曲を観客に届けたとき、単にラブソングということだけにとどまらない一体感を生み出しそうだ。

　続く「GoodDay」は疾走感と爽快感が入り混じるロック・ナンバー。「絶走」をはじめ、一気に駆け抜けるような曲もMr.FanTastiCの得意とするところ。前作「＆」は前述したようにR&B／ファンクの影響が色濃い曲が並んでいたから、こういう曲も聴きたかった！と快哉を叫ぶファンは少なくないはず。ある意味、応援歌と言えるこの曲の歌詞からは、毎日を懸命に生きる普通の人達に対する、愛とは違うもっと大きな愛が感じられる。

　イントロのギター・リフをはじめ、MR.BIGを愛するMr.FanTastiCらしいハード・ロッキンな魅力をたっぷりと味わえるのが、3曲目の「自分救世主」。ある意味、自分に向けたラブソングと言える歌詞もさることながら、この曲では超絶テクを誇る楽器隊の演奏を堪能したい。その意味では、つっくん（Gt）とナナホシ管弦楽団（Gt）によるギター・ソロのリレーから、ふじゃん（Dr）のドラム・ソロになだれ込み、そこからつっくんとナナホシ管弦楽団がツイン・リードを閃かせる中盤は、この曲の大きな聴きどころだ。常に自分よりも楽器隊にかっこつけて、目立ってほしいと考えているメガテラ・ゼロも大いに満足したにちがいない。

　そして、ロック・バラードの「それほど」がラストを締めくくる。同じロック・バラードでも「only」とは違い、こちらはブルージーな演奏とソウルフルな熱唱が聴きどころ。メンバーたちの表現を真似させてもらうなら、2曲の魅力の違いは、「only」がポール・ギルバート時代、「それほど」がリッチー・コッツェン時代のMR.BIGなんてたとえられるかも!?　
それはさておき、タイトルになっている「それほど」という言葉に、歌詞の中でどんな言葉が続くのか気になる方は、ぜひ曲を聴いて、タイトルに込めた思いを味わっていただきたい。ここまでまっすぐなラブソングを、照れることなく、ましてや斜に構えたりすることなく熱唱してしまえるのがメガテラ・ゼロというボーカリストなのだ。

「演奏隊がうまいからこそ、全部できるってところを、これからシングルで見せていきたいと思ってます。何がしたいのかわからないと言わせられるぐらい、いろいろやってみたいんですよ」
　「&」のインタビューでメガテラ・ゼロが語っていたとおり、どラブソングという一貫したテーマを持ちながら、曲調としては見事、それぞれにばらけたところももちろん、「ooh」の聴きどころだ。「&」に勝るとも劣らない充実ぶりに早くも今後のリリースが楽しみになってきた。この次はどんなテーマで、どんな楽曲を聴かせてくれるのだろうか？　それまでは、今回の4曲のどラブソングを存分に楽しみたいと思う。

【文：山口智男】