シンプルなステージ・セットに、まずはウラヤマイチゴが現われドラムを柔らかく叩き始め、次いでサトウマサトシがアコースティック・ベースで加わる。そしてオオキノブオが一礼してギターを抱え、歌い出したのはアルバム『Second line ＆ Acoustic collection』でも１曲目に収録されている「REMIND」。オリジナルはアグレッシヴな熱気に溢れた曲を、穏やかなアコースティック・ヴァージョンにした新録より、緊張感を増しながらも柔らかさのある演奏によって、素晴らしい幕開けとなった。

　「FREAK OUT」「spaced out」とアルバム収録順に進む曲をじっと聴き入るオーディエンスに、「普段のライヴと全然違うけど」と場内を明るくして軽妙に語りかけたのは、より近くに感じて欲しかったからだろうか。「リラックスして聴いてください」とイチゴの一発ギャグなどで和ませながら、「３人で初めて作った曲」と「赤橙」 を、またジャジーな「アイソトープ」にラテン風味の「Ｏ」を続けた後では、「Ｏ」とは水のことと説明したくせに、「俺、クールに喋り過ぎですかね？」と崩してみせる。こんなスタイルでやるとは想像してなかったと３人で笑いあったのは半ば本心だろうが、「気持ちよくて俺が寝そう」とサトウが言ったほど彼等も このスタイルを楽しんでいたのは確か。曲が進むほどに会場全体の緊張感も解け、演奏もより伸びやかになっていった。

　いい具合に進んできた中盤。サトウがアップライト・ベースに持ち変えるとグランドピアノが運び込まれ、録音にも参加したジャズ・ピアニスト板橋文夫が登場した。にこやかに挨拶をしてピアノに向かった板橋は「シンプルストーリー」が始まると一転、椅子から立ち上がり髪を振り乱しながら持ち前のアグレッシヴな即 興演奏を炸裂させて、曲に息吹を加えていく。ACIDMANの３人も負けじと熱っぽい演奏で応え、この日この場所でしか聴けない熱演でオーディエンスを圧倒した。こんな演奏が見られるとは、このライヴに来て良かったと思った瞬間だったが、これもまた一番楽しんだのは３人だったことだろう。

　ヒートアップした演奏の後は、高校時代の結成当時の話から15年を振り返る流れに。イチゴ加入のいきさつを互いにいじりながら話す３人に、演奏から伝わる阿吽の呼吸には長い歴史が刻まれていると実感する時間だった。そしてファースト・アルバム『創』からの「香路」をひんやりとした手触りの演奏でオオキが熱唱、次いで「ビッグバン以前の宇宙は全部が一つだった。そう思うと戦争してる場合じゃない」と、穏やかな弾き語りからダイナミックな演奏へと広げていった「銀河の街」、そして「新たな挑戦のライヴに来てくれて感謝します」と言ってからの「Under the rain」は、アコースティック・セットと思えぬ迫力で圧倒した。そのエネルギーを保ったままでの「Ride the wave」から、「あらゆるものがいつかは終わって行く。この瞬間を悔いのないように」と語りかけた「季節の灯」へと、終盤はスケールの大きな演奏で場内を包み込んで行った。

　アンコールは、オオキ一人で現われて今回の大震災と原発事故への彼の思い、そのためのチャリティーグッズを作ったことなどを語り、「ALMA」をソロで演奏するサプライズ。そして最後は珍しくメンバー紹介をして３人で「Your Song」。退場の際もイチゴをいじって気の合うところを見せつけたACIDMANに、真摯な人間性と豊かなミュージシャンシップを改めて感じた。新境地とも言えるこのアコースティック・ツアーを経て、彼等はまた大きく前進するに違いない。

【 取材・文：今井智子】