2011年はユニコーンでアルバム『Z』と『ZII』のリリースとツアー、そして世界遺産・広島厳島神社での“ひとり股旅スペシャル”と大活躍の奥田民生(以下、OT)が、今度はソロ・ツアーをスタートさせた。

一時は“のんびりマイペース・アーティスト”の代表格のように言われていたOTだが、ユニコーンの復活を機に、“日本一忙しいアーティスト”の代名詞になった感じ。それでも納得のいかない活動はしない人だけに、ここに来てやりたいことが満載という、ベテラン・アーティストとしてアブラの乗り切った時期に突入したと見るべきだろう。
　さて、その『okuda tamio tour~おとしのレイら~』の初日の11月30日、千葉県の浦安市文化会館に足を運んだ。

　OT、ベース小原礼、キーボード斎藤有太、ドラムス湊雅史という凄腕４人からなるバンドの、小原さんが還暦を迎えるのを祝ってのツアーだ。なので、ツアー・タイトルはクラプトンの名曲にちなんで付けられている。開演前、楽屋にお邪魔すると、なんと小原さんの髪が真っ赤っ赤。それだけでもバンドの並々ならぬ気合を感じる。他のメンバーは赤髪の“おとしのレイら”を囲んで、シャンパンをグビグビ。なんともロックンロールな雰囲気だ。

　その気合のまんま、ライブが始まった。以前にも増して、ロック色の濃い演奏だ。鳴りまくるOTのギター、暴れまくる湊のドラム、シュワシュワしまくる斎藤のオルガン、グルーヴしまくる小原のベースに、叫びまくるOTのボーカルが乗っかる。特にパワフルだったのが、初期の名曲「ロボッチ」だった。象の行進のようなへヴィーなリズムで会場を圧倒する。また、これも初期の名曲「手紙」では、PAスピーカーがヒイヒイ言うほどの轟音で会場を鳴らしまくる。この曲のギター・ソロで「いとしのレイラ」を彷彿とさせるフレーズを織り込むOTのセンスが心憎い。そんなこんなもあって、ライブ終盤では湊のペダル(バスドラムを足で叩く部品)が見事に損壊したのだった。 「本日はてっしーもEBIもいないのに、たくさんの方に来ていただいて、ありがとうございます。今日から始まりました“おとしのレイら”は、俺のツアーです」とOTが挨拶すると、早速、レイさんが「お笑いのツアーか？」と突っ込む。「“面白い恋人”・・・みたいな」とOTが返す。「僕的には新作が出たわけじゃないし、まあネタとして、レイさんの還暦を気にしたり、気にしなかったりの展開でお送りします」。
　当然、小原礼コーナーも特設されている。バックには彼の輝かしいキャリアを表わす世界的ミュージシャンとの２ショット写真が連写され、その前でリードボーカルを取るレイさんのかっこいいこと。まったく“おとし”には見えないのだった。
　そして、そんなロックに混じって、美メロ曲が演奏されるから、たまらない。超メリハリの利いたセットリストだ。
「ひとりでずっと歌うのは、しんどいね。阿部、こねーかな。ひとりでこんなに歌ってると、だんだん恥ずかしくなる」とOTは笑いながらボヤく。「ユニコーン(の活動)が入ってくると、気を遣うわけではないんだけど、なんなんだろうね、あの現場の疲れは。みんな、よくしゃべる。焼肉屋に週３回は行けないって感じですよ。もっと野菜を摂らないと。こんなことしてると、すぐ還暦が来ますよ」とOT。と、レイさんが「すぐだよ、すぐ。だって俺、昨日、学校に行ってたと思ったら、もう還暦だもん」。

　こんな具合に、バンドのムードはもちろん、脱力系MCも、セットリストも、もちろん演奏も、ロックなユーモアに満ちたツアーが始まった。正直、初日だけに“ペース配分”に課題はあったが、そこは凄腕たち、早めに仕上がるに違いない。

　日本では、還暦を迎えたメンバーを擁するバンドは、まだほとんどいない。しかも、渋くなるどころか、ますますパワーアップしているバンドなんて、皆無だ。中でこのバンドのこのツアーは、ロックシーンの未来を目指しているとは言えないだろうか。小原礼と、アッという間に還暦を迎える３人(笑)が、どんなファイナルにたどり着くのか。楽しく見守りたい。

　このツアー真っ最中、1月11日にリリースされたOTのニューシングルのレビューも掲載したので、そちらもお楽しみに！

【取材・文：平山雄一】