オリジナル作品としては２年ぶり、ノルウェーでレコーディングしたミニアルバム『Sang』を2012年４月にリリースし、５月25日仙台を皮切りに竹仲絵里 ツアー2012『Sang ?手のひらの愛で?』がスタート。大阪、追加公演の金沢を残すのみとなった東京公演がshibuya duo MUSIC EXCHANGEにて行われた。
　会場に一歩入ると、すぐ左手のスペースには、東京・大阪・金沢で開催された竹仲絵里写真展『Sang ?歌がきこえる?』に出展された写真が展示。ノルウェー滞在中に竹仲自身が撮影したものである。そして、ステージのスクリーンには、同じく彼女が撮影した写真の数々をスライドショーにて上映。開演を待つファンは、『Sang』の世界へと気持ちを高めていく。

　客電が消え、拍手で迎えられた竹仲絵里。黒地に金色の花柄をあしらったパーティードレス風衣装に、右耳にはトレードマークでもある羽根のついたピアス。笑顔の彼女はアコギを抱え、『Sang』同様に「Gray」でオープニングを飾った。包み込むような優しく温かな歌声が場内に響き渡る。そんな歌声とともに、もつれた糸がほどけていくように、静かにゆっくりと心が解放されていった。
　“ツアーもあっという間に終盤ですごくさみしいんですけど、悔いのないように１曲１曲、心を込めて届けていきたいなと思います。最後まで是非楽しんでいってください”と言うと、ファンは拍手で応えた。この日ステージは、アコギを持った竹仲以外に、キーボードの上田壮一氏、バイオリン他の岡村美央氏の３人編成。美しいピアノとヴァイオンの音色が響き、弾むような明るい歌声で「シャリラリラ」を歌った後、未収録の「やさしい嘘」をアコギは持たずハンドマイクで披露。恋する女心がリアルに描かれ、同世代の女性の共感を呼ぶラブソングだった。

　ノルウェーでのレコーディングエピソードを語り始めた彼女。頭で考えるよりも心のままに、感性を大切にするミュージシャンたちに衝撃を受けたそう。制作的にも精神的にも充実ぶりが伺え、さらには私たちの生き方へのヒントをも与えてくれるようなエピソードであった。“ミュージシャンもスタッフも一緒に合宿レコーディングしたときのアットホームな雰囲気がいちばん出ている曲”として紹介した「赤いラブレター」を演奏。アコギにピアノ、タンバリン、シェイカー、そしてファンは手拍子で参加。会場もアットホームな雰囲気に包まれた。ここから過去に発表した楽曲を織り込みながら７曲続けて披露。過去の楽曲たちもアコギを軸に、ピアノとヴァイオンの温かいサウンドにアレンジされ、『Sang』の世界観で表現していった。
　一音一音、ひと言ひと言、丁寧に音と言葉を紡いでいく彼女。やさしくて、あたたかくて、凛とした芯の強さも感じさせる、ひと言では形容できない歌声とともに、楽曲の持つメッセージがダイレクトに心に響いた。彼女にとって“この曲を書けたことが新しいスタートとなった”という「歌がきこえる」に続き、本編ラストは大きな愛にあふれた「palm love」で飾った。

　アンコールでは、『秋晴れモノラル』に収録されたボブ・ディランの「I want you」、Fairground Attractionの「Perfect」をカヴァー。アンコールラストは、あの2011年3月11日の大震災を受け、“誰かを勇気づけたり優しくできるために私がんばれ”という自分自身に向けた応援ソング「おなじ星空の下で」。『Sang』同様に弾き語りで披露した。“またライブでお会いしましょう！”と言って深々と頭を下げ、笑顔でステージを降りて行った。

　本編終盤で、“実はこんなにしゃべらずに歌いまくるライブは初めて。結局は、曲の中で想いを綴っている”と話した彼女。その言葉通り、今彼女が感じていること、伝えたい想いは、すべて“楽曲”を通して表現され、ファン１人１人に“歌を届ける”ことに徹したライブだった。これからも彼女は、音楽、そして写真という２つの表現方法を軸に、リアルな想いを届け続けるだろう。

【取材・文：牧野りえ】