当日の東京地方、天気予報では「大気の状態が不安定」。ハズレも多いが、この日の予報は見事に的中。新木場の駅には暗雲が垂れこめ、巨大な雨粒がバチバチと大きな音を立てコンクリートに散らばった。WHITE ASHのワンマンツアー、タイトルは「DARK EXHIBITION」。薄暗く不穏な風が吹く中で浴びる攻撃的な雨の弾丸。ライヴ前の演出にしては出来過ぎだ。

　ツアー最終日。幕開けは、この曲以外には考えられない「Orpheus」。ステージを覆う紗幕がハラリと落ちると同時に、静かな興奮が早くも沸点に達した。この大きなステージでしか映えない演出が、WHITE ASHの急成長ぶりを窺わせる。「Just Give Me The Rock ‘N’ Roll Music」「King With The Bass」と新作からのナンバーを畳み掛ければ、そこはもう、『THE DARK BLACK GROOVE』な世界。のび太がギターを置き、ハンドマイクでダンシングする一幕も。この日、初めて彼らのワンマンに足を運んだというリスナーも多い。黒いってどういうこと？グルーヴって何？自由にノるってどうやるの？の答えを、メンバーとのび太が、生で体現してみせる。音楽を聞いて体がどう反応するかに身を委ねればいいだけのことなのだと、それこそが自由なのだと、メンバー4人のパフォーマンスが、そう物語っていた。そして一体感というのはお揃いの動きをすることではないということも。事実、2階から見れば、皆それぞれが、それぞれの楽しみ方をしているのが如実に伝わってくる。「Speed It Up」では観客全体からコーラスが沸き起こった。客席横に設置され、時折、大きく弧を描いていたクレーンがWHITE ASHの4人と観客のフリーダムな様子を、しっかりと捉えていたことだろう。

　この日は新作『THE DARK BLACK GROOVE』を中心としながら、彼らがこのアルバムに到達するまでの道程を指し示す楽曲、ライヴでのキラーチューンを盛り込んだ、特別なセットリストとなった。『THE DARK BLACK GROOVE』が強力なコンセプトと揺るぎない流れ、高い完成度を誇っていただけに、旧曲がどう作用するかが気がかりではあったものの、それはまったくの杞憂に終わる。WHITE ASHにとって最も大箱でのワンマン、ツアーファイナルとしての特別な演出と、親しみやすい彼らの素顔が覗いたMCを挟みながら、4ブロックに分かれた構成は、とにかく見事。白熱と静謐が綿密に考えられており、緊張感を緩めることなく全26曲を一気に提示してみせた素晴らしいライヴだった。ライヴ終了後、興奮冷めやらぬうちに改めてツアータイトル“DARK EXHIBITION”を振り返った時の、してやられた感と充足感を、この先しばらく忘れることはないだろう。

　WHITE ASHはあまり事細かに説明などしないバンドだ。ただひたすら、自分たちが「かっこいいと思うもの」に忠実であるだけだといっていい。音源を聞けばそれはすぐわかるが、最近の彼らは音源を超えたライヴという場での存在感を圧倒的なものにしつつある。「すごい濃いツアーだった」と最後に短く感想を述べたのび太から窺えるバンドの充実度。ひとつ到達点を迎えた最新作、そしてまた新たな到達点となったこの日のライヴ。そして5月の追加公演「DARK EXHIBITION -back to basics-」では再び原点に帰るであろう彼ら。アンコールで披露されたフック満載のキャッチ―な新曲に思いを馳せながら、次に聞かせてくれる「かっこいいと思うもの」を今からとても楽しみにしている。

【取材・文：篠原美江】
【撮影：柴田恵理】