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GRAPEVINE、音楽の奥深さ、気持ち良さだけが豊洲PITに響き渡る

GRAPEVINE | 2015.06.23

 会場の照明が落されてもなかなか登場しないメンバーを促すように、フロアから手拍子が巻き起こる。しばらく経って田中和将(V&G)、西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)、金戸覚(B)、高野勲(Key)が姿を見せると大きな歓声が生まれ、会場のテンションも一気に上がる。あとはもう、このバンドの音に身を任せるのみ。演出らしい演出もなく、ただひたすら音楽の奥深さ、豊かさ、気持ち良さだけが響き渡る、じつに彼ららしいライブだった。

 最新アルバム『Burning tree』をリリースしての全国ツアー最終日、豊洲PIT公演。この日のライブでGRAPEVINEはブレることのないスタンスと意欲的に変化し続ける音楽性をきわめて自然に体現してみせた。オープニングナンバーは『Burning tree』のなかでももっとも渋い曲のひとつ「IPA」。ギターのフィードバックノイズと高野勲のオルガン、亀井のシェイカーによるイントロから田中が憂いのあるメロディを描き、中盤でリズムセクションが加わった瞬間にしなやかなグルーヴが生まれる。少しずつ形が変わる楽曲に耳を傾けているうちに、気が付けば体を揺らされているのだ。

 そして「こんばんは、TOYOSU! 新しいアルバムから・・・」という田中の声とともにシングル曲「Empty song」へ。心地よい疾走感とドラマティックな旋律によってオーディエンスにも高揚感が広がる。GRAPEVINEのストレートなロックを意識して制作されたというこの曲は、今回のツアーでライブの定番曲の座を手に入れたようだ。

 その後は「SOUL FOUNDATION」(1998年の2ndシングル「君を待つ間」収録)、「Tinydogs」(2002年の5thアルバム「another sky」収録)が続く。どちらも隠れた名曲的な存在であり、ライブで披露されることが少ないナンバーなのだが、曲が始まった瞬間に「おぉ!(この曲をやるのか!)」という感嘆の声が上がる。最新アルバムのリリース・ツアーでいきなりマニアックな曲(?)を挟んでも、オーディエンスはしっかりと受け入れて自由に楽しんでいる。これ、ロックバンドとして理想的な状態だよなと思う。

 しかし、今回のツアーの軸になっているのはやはり『Burning tree』の楽曲。「ふがいのない過去のためじゃないが/歌うのさ/それは大それた歌じゃない」というフレーズが広がる「Big tree song」では間奏のパートで田中が手拍子を促し、会場全体にカーニバル的な一体感が生まれる。GRAPEVINEはコール&レスポンス、“いっしょに歌おう”みたいなことがほとんどないので、これだけでもかなり新鮮だった(次の「Darlin’from hell」ではサポートベーシストの金戸覚がハンドクラップを促していました。これもレア)。

 個人的にもっとも印象に残った新曲は「死番虫」だった。CD音源よりも濃密なグルーヴが加えられ、ブルース、サイケデリックロック、オルタナカントリーなどの要素が自由自在に混ざり合うこの感覚は、まさにGRAPEVINEの真骨頂だろう。

 ガレージロック的なテイストを反映させた「KOL(キックアウト ラヴァー)」によって、ライブは後半へ。そのピークを演出したのは「覚醒」、そして、エッジの効いたギターサウンドと「愛された記憶の中/犠牲は報われるか否か」という歌詞がひとつになった「サクリファイス」だった。1997年のメジャーデビューミニアルバムの表題曲と最新アルバムの楽曲をナチュラルに共存させ、奥行きのあるアンサンブルとともに描き出す――この2曲は、現在のGRAPEVINEの充実ぶりを端的に示していたと思う。

 アンコールでは代表曲のひとつ「羽根」を披露。「南部の男になってくれ!」という田中の決めゼリフとともに放たれた「B.D.S.」で充実のツアーはエンディングを迎えた。「新しいアルバム、聴いてくれた?」とか「これからもよろしくね」みたいなお決まりの挨拶は一切なく(というか本編ではほとんどMCがなかった)、音楽による純度の高いコミュニケーションに徹したGRAPEVINE。終演後の会場では「相変わらず演奏するだけなんだね」「海外のバンドみたい」「安定感、ハンパない」「新しいアルバムの曲、ライブ映えするね」など様々な感想が飛び交っていたが、その表情は“素晴らしい音楽をたっぷり堪能した”という満足感で溢れていた。

 この日、東京・日比谷野外音楽堂(9月12日)、大阪・大阪城音楽堂(9月26日)でのワンマンライブも発表された。アルバム「Burning tree」のリリース、バンドサウンドの新たな進化を提示した今回のツアー、そして、約6年ぶりとなる野音のワンマンライブ。GRAPEVINEはここから、何度目かの充実期を迎えることになりそうだ。

【取材・文:森朋之】
【撮影:TAKU FUJII】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル GRAPEVINE

リリース情報

Burning tree(初回限定盤) [CD+DVD]

Burning tree(初回限定盤) [CD+DVD]

2015年01月28日

ビクターエンタテインメント

[CD]
1.Big tree song
2.KOL(キックアウト ラヴァー)
3.死番虫
4.Weight
5.Empty song
6.MAWATA
7.IPA
8.流転
9.アルファビル
10.Esq.
11.サクリファイス

[DVD]
1.「Empty song」Music Video
2. VIDEOVINE Vol.2(RECORDING / SHOOTING / LIVE)

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セットリスト

GRAPEVINE tour2015
2015.6.6@豊洲PIT

  1. IPA
  2. Empty song
  3. SOUL FOUNDATION
  4. Tinydogs
  5. スラップスティック
  6. アルファビル
  7. MAWATA
  8. 1977
  9. 流転
  10. Big tree song
  11. Darlin’ from hell
  12. 片側一車線の夢
  13. 死番虫
  14. Weight
  15. Silverado
  16. KOL
  17. 疾走
  18. Esq.
  19. 覚醒
  20. サクリファイス
  21. 吹曝しのシェヴィ
Encore
  1. NOS
  2. 羽根
  3. アンチ・ハレルヤ
  4. B.D.S.

お知らせ

■ライブ情報

野音ワンマンライブ
2015/09/12(土)日比谷野外大音楽堂
2015/09/26(土)大阪城音楽堂

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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