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PUSHIM 20th Anniversary LIVE TOUR“immature” at Zepp DiverCity TOKYO

PUSHIM | 2019.06.27

 デビュー20年目にリリースしたアルバムタイトルが“immature=未熟”と“I’m mature=成熟”のダブルミーニングを孕んでいることは、アンコールを含めトータル25曲を歌いきったこの日のライブで実感した。昨年はダンスホールレゲエという彼女のルーツを再確認するようなクラブでのプレミアムなライブをMAGNUM RECORDSとのタッグで行なったPUSHIM。そしてニューアルバム『immature』では、最新の音像やビート感を反映した「ナナメにキメるSTYLE」や「THE FREEDOM ROCK」で、再びハジけた表現を聴かせてくれた。それは20周年に向けて、音楽的に立ち止まらないスタンスを明確にしたと思う。まだまだやりたいことがある――20年、彼女の音楽と並走してきたファンはお祝いの気持ちも込めながら、アップリフトされたはずだ。

 おなじみHOME GROWNにCHINO、ルンヒャン、ZINのコーラス隊を加えた編成でのオープニングセッションから、圧倒的な音の抜けの良さーー音の大きさではなくローが気持ちいベース、とびきり乾いたスネア、最低限のギターカッティングなどなど、レゲエであると同時に現行の新世代ジャズや、生音とエレクトロを融合した世界の音楽との共振を感じる。何しろ選び抜かれた音だけが鳴っている。それだけでも贅沢なのに、冒頭から名曲「FOREVER」「Light Up Your Fire」で心地よくフロアを揺らし、盛んに「トキオ!」とパーティーの始まりを言葉でも彩る。そこに新作からアッパーなビートと灼熱の季節を想起させるギターのオブリに痺れる「THE FREEDOM ROCK」を投下。歌のパワーに圧倒されがちだが、柔軟に全身を使いながらパフォームするPUSHIMのインナーマッスルの強さたるや。低い姿勢をとったり、細かいステップを踏みながら歌ったり、そのしなやかさとブレのなさは芸術的ですらあった。

 センシュアルでありつつ、どこかイノセンスも感じ、音楽的にも新しい「DiDistance」。RUDEBWBOY FACEと歌詞を共作したレアケースだが、明瞭に聴き取れて、ライブでもフレッシュな役割を担っていた。さらにスウィートなソウル味もある定番曲「I Wanna Know You」でフロアをメロウに染め上げたあとは、「今から振りを教えるから、できる?」と、「ナナメにキメるSTYLE」のサビ“ブンバッバ、1、2、3、4、5!”のポーズを指南。ルーツレゲエをオルタナティブR&Bのニュアンスのあるサウンドで昇華したクールなアレンジは、ライブでもアップデートされ続けるレゲエを作り出すPUSHIMの際立った側面を見せた。そのあと、短くこの20年で様々な作品をともに生み出してきたプロデューサーやミュージシャンへの感謝を述べた。HOME GROWNへの感謝ももちろん多大なものがあり、新作の中でバンドと作った曲をと、「世界の何処かで」をプレイ。「世界の何処かで会いましょう 時代の変化に耐えましょう」というフレーズに秘められた力強さや寛容さ、そういったものをPUSHIMのライブ会場では自然に感じることができる。そうした心持ちでいたい人がさらに解放されているのだから、優しいバイブスが発生する。近いニュアンスを持った「RAINBOW」、そして奇しくもこの日が1年でもっとも日が長い夏至であることは偶然じゃないなと思わせる「夕陽」への流れがいい。グルーヴに身を任す美しいオーディエンスも音楽の一部のように見えた。

 一旦メンバーがはけ、改めて今日この日集まってくれたファンに感謝を述べながら、これまで歩んできた20年を振り返るPUSHIM。家族で訪れるファンも恒例になった2階席を見て「一緒に歳もとるよね」と笑う。「19からレゲエのシーンで歌い始めて、20代でデビューした頃はイキってたね。でもすぐ世の中にはすごい音楽人がたくさんいることを知ります」――以降、20代後半はディーヴァブームに乗ってデビューした反動で、自らプロデュースを行いジャマイカでのレコーディングを行うなど、いわく「男性ホルモン出まくり、非モテ期」を経て、今度は逆に女性ホルモン出まくり期に突入、母となり自分より大切な命が存在することを実感。さらには2011年の東日本大震災で「人生ってどうにもならないからこそ、笑って生きて行こう」と、その時々の彼女が楽曲にリアルに反映されていることを明かしてくれた。
ここまでが1stセットで、衣装替えのためにはけた彼女と入れ替わりにメンバーが登場し、セッションがスタート。CHINOのソロパートなども盛り込んだ「Do the Reggae」で、グッとルーツライクなレゲエが続く。このコーラス隊、男性のZINも混ざっているけれど、どこかボブ・マーリィのコーラス隊アイ・スリーズのようなピュアで強い印象を持った。その後ソロパートもあり、PUSHIMに「ぼやぼやしてたら追い抜かれる期待の次世代シンガー」として紹介されていた。

 穏やかに乗れるオーセンティックなレゲエチューンをメドレー的に矢継ぎ早に披露していく。その中に新曲「on 7th street」も盛り込み、ベーシックなバックビートの心地よさ、そして改めて新作『immature』の音楽的なレンジの広さにも気づく。どこか唱歌的な素朴さのある「For Your Song」もあれば、グッとAOR的なメロウ・グルーヴの「Anything For You」も穏やかに乗れるBPMで統一されており、ルーツに根ざしながらレゲエをPUSHIMのポップ・ミュージックとして更新してきたことが理解できるタームだった。

 すっかり心身ともにマッサージを受けたような気持ちになったところで、デビュー曲「Brand New Day」のコーラスが。自然と起こるハンズクラップ。後半、テンポアップしていく様はビッグバンドを率いるソウルシンガーのようで、パワフルな熱唱で迎えたエンディングに大きな拍手が起きた。さらにはクラブジャズ的な「Feel It」ではフロアのダンスモードも加速する。MPCとドラムの応酬という見せ場でも大いに沸かせた。その今のセンスをピアノ・リフが力強く踏み出す一歩のように響く「Neighbors」へ。レゲエやヒップホップの精神と、その音楽で繋がってきた仲間のことを歌ったこの曲が淡々としていることの説得力はライブでさらに増す。さらに歌うことの意義をPUSHIM流のゴスペルと言えそうな曲調で表現した「In my village」の2曲は、新作のツアーとしても大きな意味を感じた。

 ここまで22曲、新作からも半分以上セットリストに盛り込みつつ、20年のレパートリーからルーツと今を同時に感じさせる選曲、HOME GROWNの演奏で表現してきた彼女。歌い手としての実力はもちろん、サウンドメイク、プロデューサーとして目利きであり続ける事実も証明されたと思う。本編ラストは子どもたちの未来に向けて、「時代に参加してください」と呼びかけ「I pray~ルネサンス」を真心を込めて歌いきったのだった。

「PUSHIMかっこいい!」という男性の声や、ひたすら名前を呼ぶ子どもたちの声、愛と親しみを込めた女性たちの「プーちゃーん!」という声。テンプレのアンコールとは違う、思い思いの声。PUSHIMもすごいがファンもすごい。

 アンコールには音楽的にも精神的にもPUSHIMがリスペクトして止まないキヨサク(MONGOL800)との「ララバイfeat. キヨサク(MONGOL800)」がアコースティック・セットで、そしていい意味での脅威、学びしかない存在であるというEGO-WRAPPIN’からこの日は中納良恵(Vo)と森雅樹(Gt)も参加して、内なる炎に気づかせてくれる「HEAT feat. EGO-WRAPPIN’」を共演。PUSHIMと中納良恵の上手さを超えた何かが心を震わせる。正真正銘のラストは「君一人、この僕は安らぎさえも手渡せないけど 力の限り この場所で 歌い続け 君に届け」というシンガロングが各々精一杯生きるという意思の塊になって、PUSHIMの熱唱にパワーを注ぎ込んでいるようだった。繰り返しになるけれど、ここは美しい場所だ。この20年でPUSHIMは“大きな家”を作ったのだ。

【取材・文:石角友香】
【撮影:@_24young_】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル PUSHIM

リリース情報

immature

immature

2019年03月13日

徳間ジャパンコミュニケーションズ

1.immature
2.DiDistance
3.ナナメにキメるSTYLE
4.ALFEE
5.世界の何処かで
6.on 7th street
7.Girls Anthem
8.COME BACK
9.Neighbors
10.THE FREEDOM ROCK
11.AFROMATIC
12.In my village

お知らせ

■ライブ情報

夏びらき MUSIC FESTIVAL 2019
07/06(土)天神コア 屋上広場
07/13(土)アリーナ立川立飛
07/14(日)アリーナ立川立飛

ウトテオドレバ 紀北音楽祭
07/07(日)城の浜地区 野外ステージ(三重県)

PUSHIM 20th ANNIVERSARY LIVE TOUR “immature”
07/20(土) 沖縄 ミュージックタウン音市場

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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