シクラメンから夏をテーマにしたコンセプトアルバム、タイトルもズバリ、『シクラメンの夏』が届いた。
　夏にまつわる物語や想い、光景が13編に渡り広がっている今作は、曲毎に違ったプロデューサーと制作。生楽器をふんだんに起用した贅沢な音作りが特徴的である。聴く者に様々な情景を浮かばせ、歌の主人公に想いが重なるような楽曲ばかりだ。
　彼らが思い描いた歌世界が具現化された、人の心に寄り添ってくれる今作について3人に話を訊いた。

EMTG : 今回は約1年という短いタームでのニューアルバムの登場になりました。

DEppa :そうなんです。これまでアルバム1枚で2年は引っ張ってましたが（笑）、今回は早めに色々な曲をみなさんに届けたくて。

EMTG : 今回は夏のコンセプトアルバムということですが、その発想はどこから？

DEppa : 最初に「ナツノカゼ」という初期に作った曲を入れることになってからですね。ライヴでも数回しか歌っていないコア曲だったんですけど、今回、宮井さんにアレンジをしてもらったところ、サウンドがガラッと生まれ変わって。まさに夏のドライブにぴったりの曲に仕上がったんです。それを聴いた時に、「これを早く出したい!」「どうせ出すなら、夏をコンセプトにしたアルバムにしよう!!」という話になったんです。

EMTG : 今、「ドライブにピッタリ」といった話が出ましたが、今作は他にも景色が思い浮かぶ曲が多いですよね?

DEppa : そうなんです。今作ではそういうところをようやく出すことが出来て。僕、ケツメイシさんたちのことを、＜情景描写の天才＞と呼んでいるくらい、あの世界観が大好きなんです。自分たちの作品でも、是非ああいった要素が欲しいとは常々思っていて。その辺りを今作ではそれぞれのプロデューサーさんの協力の下、上手く出せましたね。

EMTG : 今作のコンセプトを聞いた時は、きっと暑苦しいアルバムに違いないと決めつけてました(笑)。

DEppa : (笑)。 いい意味で裏切れたかなと。だけど、以前は僕ら、それこそ夏を暑い面でしか歌い表せなかったと思うんです。なのでここに来て、ようやく外に出れた感じがしています。

桃紅茶 : 「ナツノカゼ」にしても、夏を基調にしながらも、キチンと涼しさもありますからね。

肉だんご : さまざまな時間に合う曲が揃ってますから。その分、色々と楽しめるアルバムになったかなと。"ちょっと涼しくなってきたから、この曲を聴こう"とか。聴いていて飽きない、そんな作品になったと思います。

桃紅茶 : 昔からある曲でようやく陽の目を見た曲や、おふざけ曲、それから新たにチャレンジしている要素はたくさんありますね。音遊びも詰め込めたし。ホント多くの人に聴いてもらいたいです。

DEppa : いままでの作品と比べてもらえれば、初めて聴いた方も、これまで聴いて下さっていた方にも、しっかりとシクラメンらしさを感じてもらえると思います。

肉だんご : 色々なことをやっていても、夏というコンセプトがキチンとあるから統一感もあるし、その中のバリエーションも含めバランス良く自分たちが出せたかなと。聴いた人によって好きになってくれる曲も違ってくるでしょうし。

EMTG :今回は制作時間もかなり費やしたのでは?

DEppa : 曲のタイプやイメージによって、色々なプロデューサーさんにお願いしたんですけど、それほどはかからなかったですね。とは言え、みなさんかなりこだわって下さって。「B.G.M」なんて、かなりアーバンな曲で。YANAGIMANさんにプロデュースをお願いしたんです。都会を抜けて海岸線をドライヴするイメージをこの楽曲に持って下さったみたいで。その海へとたどり着くまでのイメージ通りのトラック作りで色々と苦労してましたね。そうそう、そのトラックを作っていただいている時に立ち会ったんですけど、その日が関東に記録的な大雪が降った日で。雪が激しくなったんで、早く帰りたかったんですが、YANAGIMANさんに創作スイッチが入りっぱなしで、帰るに帰れず(笑)。終わって外に出ると車が雪に埋もれてました(笑)。「101」は初めてJazzin’parkさんとやらせてもらったんですけど、色々とモチーフやコンセプトを伝え、それを音やサウンドで見事に具現化して下さいました。この「101」の、盛り上がるけどキュンとするタイプのラブソングも自分たち的には新境地で。いつかはやりたいタイプの曲だったので、仕上がった時は感激でした。

EMTG : その「101」では、桃紅茶さんのセクシーさも光ってますね。

桃紅茶 : ある意味、一つの挑戦でした。当初は自分でも聴いて、“うわっ、これが俺の歌声?!”ってなりましたけど(笑)。みなさんからの評価も良いので、結果入れてよかったなと。それから今作では、肉だんごの声も高くなったよね?

肉だんご : 僕、この冬に(声帯ポリープの摘出)手術をしたじゃないですか。そのおかげでこれまで出にくかった高いキーも出せるようになったんです。それでも今回のレコーディングはかなり苦戦したところもあって。手術後は先生からも、「声を作るのに１年ぐらい時間を要する」と言われていたんですけど、手術後は声が高くなり、軽くなったんで、それに合わせてどうやって歌えばいいのかなかなかつかめなかったんです。正直、その感覚を取り戻すのが大変でした。

DEppa : 逆に「101」に出てくるファルセットは、それまでいくらやっても出なかったんですけど、手術後はスッと出るようになったよね。今回のアルバムは曲ごとに、肉だんごの声の変遷も分かるんです。手術前、手術直前、手術後と。実は2008年当時の歌声をそのまま使っている曲もあったり。

EMTG : えっ、そんな昔の!?

DEppa : 一部使っています。他にも今回はその曲に最も合ったベストな歌い方を入れていて。もちろん今の歌声が中心ですけど、曲によっては昔の方が良いものもあったんで、それはあえてそちらを起用しました。今だから出せる歌声、今では出せなくなった歌声がありますからね。ちょっと歌が上手くなっちゃった分、エッジの効いたところが出にくくなってるし。「ファイター」なんて、まさにそう。桃紅茶なんて、昔の自分の声に今の自分の声を重ねている曲もありますから。

桃紅茶 : 「ナツノカゼ」がそうです。特に昔の曲たちは、ブラッシュアップされた感がありますね。

EMTG : そんな中、待っていた人も多い「kamataッ子４」はいかがでした?

DEppa : 毎度のことですが、今回も楽しんでやらせていただきました。僕、このシリーズに3時間以上かけたことがありませんから(笑)。もう、みんなが分からなくても、僕たちだけ楽しめればいいかなって。僕らが楽しければ、みなさんもきっと楽しいと思うんです。

肉だんご : この曲に関しては、失敗も成功もないんで、毎度自由に楽しませてもらってます。いい意味でのどうでもよさとでも言うか(笑)。だけど、みなさんこの曲を聴けば安心するんじゃないかな。“こいつらやっぱり変わらねえな…”って(笑)。

EMTG : 今回は初めてアルバムタイトルに『スルメ』がついてませんね。

DEppa : あえて外しました。今回聴いてもらえれば、そのスルメテイストは健在ですから。アイツ(『スルメ』シリーズ)の志は、充分受け継がれてますよ。またアイツも戻ってくる時があるでしょう。

EMTG : ジャケットも夏っぽいですね。

桃紅茶 : そう見えますけど、実は撮影時は冬真っ只中でした(笑)。気温も3度~4度で。拡大して見ると鳥肌が見えるかも(笑)。

EMTG : 最後に全国ツアー『シクラツアー2014~君と僕の夏物語~』への意気込みを聞かせて下さい。

DEppa : 北は北海道から南は沖縄まで、みなさんに歌と夏を届けにいきます。夏は毎回みなさんと楽しい時間を過ごしてますが、今回は夏のアルバムと共に行くので、より想い出に残るライヴが出来るかなと。楽しみにしていて下さい。

【取材・文：池田スカオ和宏】