【発条式短篇奇譚 第9回】2018年2月号「無人駅」

Halo at 四畳半 | 2018.02.13

【発条式短篇奇譚 第9回】
2018年2月号
「無人駅」



こうしてこの場所に2人きりでやってくるのは1年ぶりくらいだろうか。確か去年初めて訪れた時にも溶けきっていない雪が道の端に積み上げられていて、こんな場所でも除雪している人間がいるのだと思った記憶がある。今年もやはり同じようにして歩道が確保されていた。

去年、彼とは毎日のように連絡をとっていた。だから彼が廃墟や廃屋に興味があることも知っていたし、ある日「無人駅に行ってみたい」と言われたときもとくに驚くことはなかった。ただ、流石に無人駅で告白をされることになるとは想像していなかった。

それでも彼に思いを寄せていた私はそのシチュエーションに引くどころか、人気のまるでない駅のベンチに腰掛け「世界中にふたりだけしかいないみたい」とテレビドラマでも今どき口にしないような台詞を口走っていた記憶がある。恋という病が本当にあるのであれば、今すぐに指定難病に追加して欲しいと思った。

彼は去年と髪の長さも服装の好みもほとんど変わっていなかった。1年間というのは歳を取るにつれて短くなっていくように思う。同じ365日でも、その中で受ける影響は知識が増えれば増えるほど減っていく。好みの変化もそうそう無くなってくるものだ。だからこそ私は悲しみに暮れている。大きな変革のなかった彼の心の中で、私に対する思いだけがこの1年間で随分と変わってしまった。

年が明けてすぐの頃にも、私はひとりでこの場所を訪れていた。北のほうでは当たり前に積雪していたようだが、こちらではまだ降っていない。記憶していた去年の景色から雪が消えただけであったのに、無人駅はより一層寂しさを増しているように見えた。除雪の必要がないこの場所からは、人の気配が完全に消えてしまっていた。

この場所にくればあの日のことを思い出して少しはこの胸の不安を追い払ってくれるかとも思ったのだが、人気のないこの場所では逆効果だったようだ。世界にふたりきりの場所にひとりでくれば当然、世界でひとりぼっちの気持ちになってしまった。尚更悲しくなった私は逃げ去るように帰路についた。

そして今、再び2人でこの場所にいる。それなのに何故だろう。あの日と同じ「世界でふたりだけしかいないみたい」などという台詞を私はとてもじゃないが口にできなくなっていた。恥じらいからではない。あの日、2人にとってふたりきりだった世界は、今、私ひとりにとってふたりきりの世界になってしまったのだろう。私の心はふたりでも、彼の心に私はいない。

去年、この場所で告白される前に彼が言っていた。「僕が廃墟や無人駅に興味が湧くのは、そこがはじめから無人では無かったからなんだ。かつて人が情熱を注いで作り上げたであろうものが、そこから人を引き算するだけでここまで廃れてしまう。それでも、また人を惹きつけようと"廃墟"として美しさを放つっていうのがなんとも悲しいし、なんとも美しいと思ったからなんだ。」

それなら私は期待していいのだろうか。この後に待つであろう別れの先に、彼がまた私のことを美しいと思ってくれる日は、はたして来るのだろうか。


テーマ「無人駅(@SiO_ha4_skn)」







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★掲載予定日:2018年3月12日




【Halo at 四畳半(ハロアットヨジョウハン)プロフィール】
千葉県佐倉市出身、渡井翔汰(Vo&Gt)、齋木孝平(Gt&Cho)、白井將人(Ba)、片山僚(Dr&Cho)の4人組ロックバンド。独特な歌詞の世界観、圧倒的な楽器の演奏力は、正統派ギターロックバンドの中でも大きな存在感を放つ。

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2017年09月20日

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