「泣かないと思ってたけど、泣いちゃうかもしれない……」

　アンコール終盤のMCで、木村カエラはそんな風に言った。そして、最後。メンバー全員と手を繋いで、生声で「みんな本当にどうもありがとうございました！」とオーディエンスに告げて頭を下げたあと、その顔は大粒の涙でいっぱいになっていた。きっと、沢山の思いが去来したんだろう。泣きはらした顔のまま、広いステージの右から左へと、ファンへの感謝を告げていく。10周年の記念すべきワンマンライブ2daysは、こちらも思わずウルっともらい泣きしてしまうくらいの感動を残して、幕を閉じた。

　10月25日、26日、横浜アリーナにて「GO!GO! KAELAND 2014 -10years anniversary!-」を開催した木村カエラ。2日間にわけてカエラのロックサイドを見せる「Rockin’ ZOO」とポップサイドを見せる「Poppin’ PARK」という、スペシャルな内容だ。

　筆者が訪れたのは2日目の方だったが、ステージセットもかなり手のこんだものになっていた。両サイドには木村カエラのシンボルでもある巨大なおかっぱ頭のオブジェが置かれ、開演前にはそこにイラストで描かれたピエロ風のカエラの顔が「ZZZ……」と眠っている様子が映し出される。さらにその脇には観覧車とジェットコースターをかたどった電飾の背景が設置されている（1日目は太陽をかたどった背景だったそうだ）。開演時間になると、イラストの顔がパチリと目を覚ましてオープニング映像が始まるという演出。木村カエラならではの、カラフルでファンタジックな世界観だ。

　1日目とはセットリストもガラリと変わったこの日、ステージに登場したカエラはまず「Butterfly」「リルラ リルハ」と代表曲を立て続けに披露。ノリのいいサウンドにオーディエンスのテンションも上がり、カエラ自身も軽やかにステージを走り回り、伸びやかな歌声を響かせる。

「今日は10周年のお祝いです、そして私から感謝の気持ちを伝える日です」

　そんな風に告げ、「Hey!」のシャウトで一体感に包まれた「Ground Control」など次々と歌う。「知らない曲があっても楽しめるように準備してるから」とMCでも言っていた通り、「OLE!OH!」ではオーディエンスに振り付けをして一緒に踊ったり、チアリーダー姿のダンサー達が登場したり、ステージを楽しめる仕掛けが沢山用意されている。さらには、過去に木村カエラのミュージックビデオに携わった映像作家たちがほぼ全員参加したというビジョンの映像も華やか。歌だけじゃなく、見どころもたっぷりだ。

　そしてやっぱり、この日のムードを大きく担っていたのは、メンバーとカエラ自身の「音楽を目一杯楽しんでる」という様子だった。「ベース、よーちゃん（4106xxx）！　キーボード、テリー（中村圭作）！ ドラム、キャシー（柏倉隆史）！　ギター、しのっぴ（渡邊忍）！　ギター、アイゴンさん（會田茂一）！」と、愛称で呼んでいたバックバンドの面々は、もはやファンにも馴染みの面々。中村圭作は参加して6年、その他の面々は10年間をずっと共に歩んできた鉄壁の演奏陣だ。MCでは、即興のセッションをしてみたり、「しのっぴ、歌って！」という客席のコールに応えてみたりと、リラックスしたムードも垣間見せる。きっと普段の様子もそんな風なんだろうな、と思わせる。

　終盤は「私がこの10年間の中で一番胸キュンなんじゃないかっていう曲をチョイスした」という“胸熱ゾーン”として、「sweetie」や「Snowdome」など、ひときわエモーショナルな曲を披露。さらには「ここからは元気いっぱい！」と、ハイテンションな「STARs」から息もつかせない展開を見せる。オーディエンスが力いっぱい飛び跳ねた「BANZAI」から、幸福感に満ちた「Magic Music」で本編は幕を閉じた。

　アンコールでは「私の10年の想いが集まった曲です」と新曲「TODAY IS A NEW DAY」を歌い、さらには新作アルバムのリリースを発表。そのアルバムにも収録される新曲「sonic manic」もライヴで初披露し、キャッチーなエレクトロニック・ポップの新境地で、フロアに大きな歓喜の渦を巻き起こしていた。そして、最後に歌ったのは「happiness!!!」。

「私は歌がないと生きていけない、気持ちが吐き出せない、そんな人間なんです。応援してくれたみんながいないと私はここにはいられないし、本当に感謝しています」

　そんな風に、カエラは丁寧に自分の気持ちを伝えていった。1日目には10月24日に誕生日を迎えたばかりの彼女に対してのバースデー・サプライズもあったようだが、この日は、最初に告げた通り「私から感謝の気持ちを伝える日」だった。支え続けたスタッフへ、応援してくれたファンへ、そして共に歩んできたバンドメンバーへ。だからこそ、彼女自身も、感極まった思いで一杯になったんだろう。

　12月17日には、「10年間を経て『見えたぜ！』っていうのをアルバムにしたいと思ったんです」というニューアルバム『MIETA』がリリースされる。さらに来年3月からは久々のライブツアーも始まる。

　彼女の鮮やかな「新章」に、期待は高まるばかりだ。

【取材・文：柴 那典】